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96話:移住。

「わらび餅?身体に異常はありませんか?」


 全身が金色に輝き直径3mほどにも膨らんだわらび餅は、ひと際強く光り輝くと突然小さくなり元の大きさに戻りました。ただし色は金色のままでしたが。

 わらび餅はいつものように触手を伸ばして親指を立てるサムズアップをして、「問題ない!」と返事をしました。問題ないならいいのですが、その色は元に戻らないのでしょうか?


『すずめ様の魔力は規格外ですから何が起こるか想像も出来ませんワンね』

「人をオバケみたいに言わないでください・・・」


 魔力が100くらい減っていますが毎朝起きると全快している程度の量なので、それほど規格外の魔力でもないと思うのですけど・・・。


 トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・


 あれ?これって念話の時のコール音ですよね?なんでわたしに念話が届くのですか?どなたか他に念話が使える魔法使いさんがいるのでしょうか!?不思議には思いましたが恐る恐る通話すると念じるとコール音が止みました。


「・・・もしもし?」

[きゅ・・・きゅきゅきゅ・・・]


 あれ?どなたでしょ?きゅきゅきゅ言っていて何を言っているのかわからないんですけど?・・・言語読解LV2でもわからないなんて、人類でも魔物でもない方ですか?不思議に思っていると頭の上のわらび餅が肩をトントンと叩いてきました。


「わらび餅?今ちょっとお話ししてるから少し待ってね」


 上目遣いに頭の上を見ると空中に細かい触手で文字を書き上げました。わらび餅曰く、「きたもん、おきゃくさんがきた」だそうです!?今の言葉がわかったのですか!?とゆーかわらび餅やっぱり意思あるじゃないですか!ひらがなが書けるなんてすごいです!あああ、わらび餅が分かるとゆーことは今の念話は精霊シスターズからなのですね!?驚くことが多すぎて何から突っ込んでいいのかわかんなくなりました!まずは・・・。


「わらび餅すごいです!金色になって賢くなったんじゃないですか!?」


 わらび餅を抱きしめてすりすりしていると、触手で手の平を作って門の方をくいくいっと指さします。そうです!我が子のようなわらび餅の成長が嬉しすぎてお客さんの事をすっかり忘れていました!


「アサヒナ様!お客様が来たようです。一緒に来てください!」

『お客様?どうしてわかったのかしら?』





【マルティナ】


 門番をしている金色に輝く美人さんに来訪の目的を告げましたが、コクリと頷いた後「きゅきゅきゅ」と意味不明の言葉を呟いただけで直立不動で動こうともしません。普通は積み荷のチェックや身分証の確認とかするものですが、ただ突っ立っているだけです。試しにギルド証を見せてみましたけどまるで無関心です・・・。


「どうすればいいのかしら・・・」


 途方に暮れていると目の前の村壁の上に犬に乗った女の子が現れました。犬が飛んだように見えたのだけど気のせいかしら・・・?


「ありがとうございますアサヒナ様」

「「「「「あっ!?」」」」」


 女の子が跨っていた犬から降りてこちらを見ました。長いオレンジの髪をポニーテールにまとめたかわいい女の子で・・・。


「「「「「チュンチュン!?」」」」」

「あ、ええええええええ!!パッセロの冒険者のみなさん!?マルティナさんまで!?どうして・・・」


 村壁の上に立つチュンチュンは少し見ないうちに逞しくなったように見えました。白黒の大きな犬を撫でながら、空いた手で風になびくスカートを押さえています。少しお姉さんになったみたいに見えます。


「わたしたちはチュンチュン、いいえ、すずめ様の村に移住希望なのです。受け入れてもらえませんか?」

「え!?え!?え!?」


 すずめちゃんの驚いた顔がわたしを冷静にしました。すずめちゃんの領地で暮らしたいと思ってここまで来たけれど、よく考えればこんな小さな村では食糧難に陥ることもよくあることです。サイハテ村は人口30人ちょっとの村と聞きました。突然16人もの人数で押しかけては迷惑になるかもしれなかったのに、領主兼村長であるすずめちゃんの立場も考えず、こんな断りにくい状況を作ってしまいました。なんて馬鹿なことをしたの!?今からでも否定しないと!


「いえ!移住先に移動途中で寄っただけで・・・」

「本当に移住してくださるんですかっ!?」

「え!?・・・」


 すずめちゃんが満面の笑顔になりました。両手を胸の前でギュッと握って小さく「やったやった」と呟いているのが聞こえてきました。


「開門!かいも~んっ!!」


 すずめちゃんが壁の端まで走って来て、門番をしている金色の人に向かって大声で叫びました。


 ギィ・・・


 ゆっくりと開いて行く門の先には、なみなみと水をたたえた広大な水田が広がっていました。ざっと数百a(アール)はあるでしょうか!?こんな荒れ地にこれほどの水田があるなんて・・・。わたしたちはぽかーんと口を開けたままその光景を眺めていると、いつの間にか壁から降りてきたすずめちゃんが目の前に来てわたしの両手を握ります。まるで待ってました!と言わんばかりです。


「よ、ようこそサイハテ村へ!」

「え、ええ。よろしくお願いします・・・」


 すずめちゃんの案内で村の中を進みます。まだ苗も植えていない水田ですが、代掻しろかきも終わっているのでこれから田植えを行うのでしょう。これだけの水田なら100人以上の食糧が収穫できるのではないでしょうか?


「お、おいあれ!」

「あっちは野菜畑です!20種類くらいの野菜が収穫できるんですよ!」


 水田の先には鮮やかな緑色の野菜畑が広がっていました。葉物野菜にトウモロコシ、小麦や大豆なども見えます。赴任して間もないというのにもうこんなに豊かな村になっているなんて・・・。しばらく進むと内壁が見えてきました。どれだけ出鱈目な魔法使いなの!?ただの村に外壁や掘りがあるだけでなく、内壁まであるなんて本当に砦並みじゃない!内壁の門を抜けるとさらに驚かされます。100a(アール)近くある畑には収穫された稲が大量に干されています。収穫が終わった水田まであったのね。そしてその先には大きな建物があり家畜までいました。


「う、牛!?鶏までいるわ!」


 牛は一頭あたり毎日100L近くの水を必要とします。数少ない水の魔力持ちの人でも、全ての魔力を使って牛一頭の水を賄うのがギリギリでしょう。その牛が7頭に鶏が数十羽もいます。いくらすずめちゃんだって牛や水田に毎日これだけの水を作っていては、さすがに魔力が尽きてしまうんじゃ・・・。


「長旅でみなさんお疲れでしょうし、先にお風呂に入ってください!」

「「「「「お風呂ぉ!?」」」」」

「えへへ、サラマンダーの角を使った自慢の公共風呂なんですよ~♪」





 カポーン


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・何か言ってよ・・・」


 お風呂なんて生まれて初めて入りました。入り方はこれで合ってるんでしょうか?男湯と女湯の二つに分かれていて、洗い場に大きな湯舟がありました。先に洗い場で汚れを落としみんなでお湯に浸かっています。ララカさん、ファビーラさん、ムッカさんとわたしの女4人が並んでお湯に浸かって足を伸ばしても、まだまだ余裕があるほど大きなお風呂です。いつもタライにわずかなお湯を張って湯あみをしていたことを思うと、なんて贅沢なお湯の使い方でしょう!


「サイハテ村って~大きな川でもあったかしら・・・?」

「火山地帯から北の方に小川はあったけど、こっちにはないはずだよな・・・」

「チュンチュンの魔法は規格外・・・」

「初めてのお風呂なのに緊張して堪能できないわ・・・」


 お湯を沸かすのだって薪を消費するから結構お金がかかるというのに、サラマンダーの角を使っていると言っていたわ。サラマンダーの角って金貨数十枚はするすっごいお宝じゃない!幻のA級の冒険者だって倒せるかどうかわからない魔物なのに、すずめちゃんが倒したってゆーの!?


「ここって~公共のお風呂って言ってましたよね~?」

「言ってたな・・・これからもあたいたちが利用できるってこと?一回いくらなんだろ・・・」

「湯あみのお湯でもタライ一杯銅貨1、2枚。これだけのお湯なら・・・」

「普通なら最低でも銀貨が必要でしょうね・・・」


 みんな無言になりました。銀貨が必要なら使えるのは年1回か、意中の男性とのデート前日がやっとかな・・・。静かになったせいで脱衣所から走って来る足音に気づきました。ガラガラと木製の扉を開けて勢いよくすずめちゃんが入ってきます。


「わたしも、ご一緒していいですか!?」

「「「「も、もちろん!」」」」


 楽しそうなすずめちゃんの笑顔が緊張を和らげてくれます。色々話したいことがたくさんありますが、まずはここの利用料金を聞いておかないといけませんね・・・。

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