95話:たくや君の再進撃。
【たくや】
「つええぇ・・・」
初めて使ったSSRの魔物が中規模の港町を滅ぼした。火力だけを見れば以前のSRの魔物の方が強かった気はするけど、あれは火力特化だったからであって、クールタイムは長いし動きも遅い使いづらい魔物だった。ところがさっき手に入れたSSRの魔物はSRの魔物と違って必殺技のクールタイムは短いし、火力を落とせば連射も可能。その上動きは素早いし装甲も厚い。そして何より見た目がカッコイイのだ!!
「ドラゴ・デ・モーネか」
ライオンの身体にドラゴンの頭がついたような姿で、尻尾が蛇になっている。背中に申し訳程度の翼がついてはいるけど、残念ながら飛ぶことは出来ない。どこかのゲームで見たキメラとかマンティコアってモンスターに似てるけど、顔がドラゴンなのは初めて見たな。
ドラゴ・デ・モーネは体長3mほどの魔物で少し小型だがその分動きが素早く、町壁から飛んでくる投げ槍をことごとく躱し一気に町の中に侵入した。飛ぶことはできないけどジャンプ力があるので、町の周囲を囲う壁は意味をなさなかった。町に入ると最初に必殺技であるファイアブレスをお見舞いした。ファイアブレスは扇状に広がり町の家屋を纏めて焼き払う。数人の兵士が弓矢で攻撃をしてくるが、SSRの魔物であるドラゴには1ダメージすら与えられていない。放って置いても問題はなかったけど、ちょろちょろ鬱陶しいので尻尾の蛇になぎ倒させた。
「あれ?テイムした他の魔物がついてこないな?」
RやRRのカードを使うと周囲にいる野良魔物を支配下に置いて一緒に進軍することができる。初めてプレイした時は魔物だらけの森がスタート地点だったので、数百の野良魔物を引き連れて攻撃した。今回は数こそ少ないけどそれなりの魔物を数十匹引き連れて来たけど、壁の手前から動こうとしない。壁が乗り越えられないからかと思ったけど、空飛ぶ魔物さえついてこないのだ。
「何か結界みたいなものでもあるのかな?」
不思議には思ったけど元々たいした役には立たないし、数が増えると経験値が分散して減ってしまうので手持ちカードだけで攻撃を続けることにする。カードで召喚した魔物は問題なく町に入れてるしな。
【とある男爵】
「魔物が町の中に侵入してきただと!?」
「はい!結界をものともせず10匹ほどの魔物が町の中で暴れているそうです!」
退魔道具が機能していることは先ほど確認した。にもかかわらず町の中に魔物が入ってくるなんてどういうことなんだ!?この町の防衛は退魔道具に頼りきりになっているので、対人用の警備の者しか存在しない。有力な兵士たちは南の迷宮攻略でいつも不在なのだ。
「すぐに町からの脱出準備をしろ!退魔道具が効かないのであれば町の防衛は不可能だ!」
「しかし男爵様!町にはまだ多くの住民が!・・・」
「不可能だと言っている!住民には北の門から出て王都に逃げるよう伝えるのだ!急げ!」
「は・・・はっ!」
ここから王都までは約8日・・・。外にも魔物はいるだろう。魔物が追って来れば逃げ切れる者がいるとは思えないが、他に方法はない。わたしが・・・逃げ切るためには・・・。
それからしばらくして町の北門付近から聞こえる叫び声を尻目に、わたしと一部の者たちは西門からの脱出に成功するのだった。ここから西には小さな村しか存在しない。ろくな防壁もない村では退魔道具すら効果のない魔物に攻められたらひとたまりもない。せめて出来るだけ遠くに避難するか。
「西の果てにあるのは、王都直轄地のサイハテ村だったか・・・」
【すずめ】
今日もサイハテ村のみなさんは元気に働いています!先ほどようやくアサヒナ様が伐採した木材の運搬が完了しました。ゴーレムさんたちのピストン輸送でも森から運ぶのに3日もかかりました。そろそろ稲の乾燥も終わるころですので、年貢米の運送準備もしなければなりませんね。ゴーレムさんたちにはまだまだ頑張っていただかなくてはなりません。精霊シスターズにわらび餅、土の精霊さんとかなりこき使ってますねわたしって・・・精霊さんたちにも何かご褒美を用意した方がいいでしょうか?
『精霊さんにご褒美ですか?』
「ええ、最近働かせてばかりですので何かお礼でも、と」
魔法に関する相談ができるのは同じ魔法使いであるアサヒナ様だけです。アサヒナ様やトモエゴゼン様は何かご褒美でもあげているのでしょうか?
『そうですね・・・そもそも魔法が意思を持っているなんて聞いたこともありませんワン。すずめ様の魔法の精霊シスターズさんたちやわらび餅さんは本当に意思をもっていらっしゃるのでしょうか?魔法によって意思を持っているように見えているだけなのではありませんか?』
てっきりわたしの魔法で精霊さんを召喚しているとばかり思っていましたが、ただの魔法の具現化なのでしょうか?でも、アサヒナ様が落ち込んだ時にわらび餅が頭を撫でて慰めていましたけど、わたしは特に命令とかしていませんでした。わらび餅の意思だと思うのですが?
アサヒナ様は先ほどのようにおっしゃいましたが、わたしは精霊さんたちに助けられているのでやはり何かお礼がしたいと再度申し上げると、『それでは魔力を流してあげてはいかがでしょうか?魔法の源ですしそれが一番のお礼になるかもしれませんワン』とおっしゃいました。
「精霊のみなさん!いつもありがとうございます!ご褒美になるかわかりませんけど受け取ってください!」
空に向かって右手を上げて全力の魔力を放出すると、空中でいくつにも分裂し精霊さんたちに吸い込まれて行きました。頭の上にいたわらび餅は魔力を浴びるとプルプルと震え金色に輝きました。
「え!?え!?これって大丈夫なのですか!?」
『なんですのこれは!?』
膨大な魔力が流れ込んだわらび餅はどんどんと身体が膨らんでいきます!このままでは魔力の与え過ぎで破裂してしまうのではありませんか!?
「わらび餅ぃっ!!」
【マルティナ】
そろそろサイハテ村に着くころです。ここまでの移動で何度も魔物の襲撃を受けましたが、15人もの冒険者のみなさんがことごとく撃退してくださいました。さすがはパッセロの町でも優秀な冒険者のみなさんですね。
「マルティナさん!この先に道がありますぜ!」
「道!?この荒れ地にですか?」
岩だらけの荒れ地で馬車の車輪が悲鳴を上げています。いくつかの木製の車輪にはひび割れが生じている物も少なくありません。そもそも直前の村からサイハテ村への道がなかったのです。サイハテ村には王都経由で行くか、東の港町からいくつかの村を経由するしかなかったのですから。大回りになるので仕方なく道なき道を進んできましたが、そんな荒れ地に道ですって!?一体誰がって・・・すずめちゃんしかいないでしょう!!
「その道を進みましょう。おそらくサイハテ村に通じてるはずです!」
「それじゃやっぱりこの道を作ったのは・・・」
「「「「「チュンチュンか!?」」」」」
荒れ地に現れた道はパッセロの町のレンガ敷の道路より滑らかで凹凸のない道でした。それが延々と幾つもの丘の向こうまで続いています。利用する人もいない荒れ地にこれほどの道を作るなんて・・・なんて魔法の無駄遣いを!しかしそのおかげで移動速度は飛躍的に速くなり、それからいくらもかからずに長大な壁が見えてきました。
「あれって・・・村壁だよな?・・・」
「掘りまであるわよ・・・砦の間違いじゃない?・・・」
なんでこんな辺境の村がパッセロの町より強固な防御に守られているのよ!見た感じ退魔道具の効果範囲一杯まで壁が続いています。これだけの物を作るのに一体どれだけの費用と人員と時を要するのか・・・現実逃避はやめましょう。これはやっぱり・・・すずめちゃんの魔法かぁっ!!どれだけ規格外なのよあの子は!王様の庶子でもこれほどの魔法は使いこなせないでしょう!できるとしたら・・・。
「すずめちゃんはニンゲン・・・なのかしらね・・・」
道の先にある村への門の前に金色に光り輝く二人の女性を見つけました。魔物ではないようだけど人類でもなさそうね?あの門番さんもすずめちゃんの魔法の産物なのかしら・・・。
ちょっと頭が痛くなってきたわ・・・




