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94話:アサヒナ様のお散歩日記。其の二。

 外壁の散歩を続けていると壁が途切れてしまいました。決してその先を作り忘れたわけではなく、そこから先が絶壁になっているからです。海に出ました。壁の下は高さ30mくらいはあるでしょうか?普通の人なら落ちたら間違いなく死んでしまいますわね。少し沖の方を見てみると4人の男性が網を使って漁をしている姿が見えます。二人が左右の網を岸から引っ張って、二人が沖の方から魚を追い込んでいるようです。お一人など大きな水しぶきを上げて魚を必死に追い込んで・・・あれ?・・・もしかして溺れていますの?


「うあ!足がつった!た・・・助けてくれ!」


 バシャバシャと水面を叩いて必死に顔を上げていますが、残りの三人は網を操るのに必死で気づいていないようですわ。仕方ありませんわね!わたしは外壁を蹴って空に向かって飛び出すと、地面に向かって落下していきます。


『風よ!』


 落下速度を維持したまま風を使って少しづつ方向を変え、空中に作った風の足場を蹴りつけて一気に沖へ向けて疾走します。水面ギリギリを駆ける姿は水面を走っているように見えたことでしょう。


「おい!あれってアサヒナ様じゃ!?」

「水面を走ってるぞ・・・」

「おい!あれ!ナーキがおぼれてるじゃないか!?」


 漁師の方々がやっと溺れていることに気づいたようですわ。溺れている男の子の近くまで来ると大きく弧を描いて背後に回り、首元の襟に噛みついて水中から一気に引き抜きました。


「げほっ!げほっ!はぁはぁ・・・ア、アサヒナ・・・様!?」


 大人しくしていてください。もうすぐ岸に着きますから。そのまま水面を疾走して岸まで戻ると、風魔法を使ってふわりと地面に降ろします。


 うぉん!


 もう溺れるんじゃありませんわよ!


「アサヒナ様!ありがとうございます!」

「「「ありがとうございます!」」」


 言葉の意味はわかりませんが感謝されていることは分かります。ふふん。悪い気はしませんわね。尻尾をふわっと揺らして階段を上がって村に戻ります。再び外壁の上に飛び乗ると散歩を続けることにしました。

 それにしても、外壁の上から眺める畑の見事さに圧倒されます。わずか30人ちょっとの村なのに、見渡す限りの広大な野菜畑。まだ収穫できる野菜は限られているようだけど、いずれ全ての収穫を行えば地下の貯蔵庫も一杯になってしまうのではないかしら?

 なんだかアンバランスな村ですわね。通常このような小さな村は人の方が多くて食糧難に陥ることがほとんどなのに、食料が余り過ぎるなんて聞いたこともありませんわ・・・。いえ、この村も元はそういう村だったのですわ。肥沃な土地に溢れる水、全てすずめ様の魔法のおかげなのですわね。


『たいしたものですワンね~』


 ふと外壁の外を見るとカージナルさんとラプトルさん、それに二人の村人の男性が斧を持って森に向かって歩いていました。木材の調達でしょうか?木の伐採は退魔道具の範囲外での作業です。伐採要員にその護衛まで必要なので、ただでさえ少ない働き手を数多く必要とします。せめて村人の負担だけでも減らしてあげましょうか?

 壁を蹴って村の外に出ると4人に向かって走ります。


《ん?エロヒナ様じゃないか》

『ラプトルさん!何度言ったら分かるんですの!?わたしはアサヒナですワン!』

「外に出てきたのか?危ないから村に戻った方がいいぞアサヒナ様」


 カージナルさんの言葉はわかりませんがなんだか心配されてる気はします。わたしの言葉が通じるのはラプトルさんだけですが、ラプトルさんの言葉もカージナルさんには通じません。ここまで来たのはいいですが、どうすればいいのかしら・・・?


《それで、何しに来たんだ?》

『木の伐採ならわたくしがしてあげますけど、カージナルさんに言葉が通じないからどうしようかと思って』

《ほ~手伝ってくれるのか?》


 そう言うとラプトルさんはカージナルさんに向かって手を色々動かして説明しているようでした。最後に村人二人の肩を叩くと村を指さします。


「二人を村に返していいのか?畑も忙しいからそちらは助かるだろうが、こちらの伐採要員が足りないぞ?」


 カージナルさんと身振りで会話が出来ているのでしょうか?最後にラプトルさんがわたしをビシッと指さしました。ちゃんと話が通じてますの!?


「アサヒナ様が?まあ、ラプトル殿がそう言うなら」


 こうしてカージナルさんとラプトルさん、そしてわたくしの3人?が森へと向かったのです。カージナルさんは苦手ですけど、一応言葉が通じるラプトルさんがいれば大丈夫ですわよね?

 森の入り口近くはすでに伐採され尽くされ、茂みと切り株だらけです。森というより草原と言った方が近いでしょうか?地面は腐葉土でフカフカで道のような物も出来ています。そしてあちこちから魔物の気配がしてますわね。犬の嗅覚が接近する魔物の気配を捉えます。


『右にゴブリンが5匹。左に蛇っぽい魔物の気配がしますワン』

《蛇か。体温の低い魔物は捉えにくいな。ゴブリンは熱で視えている》


 ラプトルさんは手振りでカージナルさんに魔物の接近を伝えます。ラプトルさんは熱感知能力があるのですわね。


『ゴブリンはまかせますワン!』


 ほぼ同時に襲ってきた魔物たちは3人の連携でほぼ同時に撃退しました。こんなちょっと大きな蛇くらは魔法を使うまでもありませんけど、ぬめぬめした鱗に噛みつきたくなかったので、直前で風の刃を出現させて一刀両断にしました。


「・・・あの時と同じか。嚙み切った傷じゃなくて刃物で両断したみたいな綺麗な切り口だな。アサヒナ様は何か特殊な技が使えるのか?」


 わたくしが倒した蛇を見分していたカージナルさんが、わたくしを見て何か言っています。蛇の魔物におかしなところでもありましたでしょうか?以前もそうしてわたくしの獲物を物欲しそうに見ていましたわね。素材が欲しいのであれば差し上げますけど?それからしばらく進んで木が生えている所まで行くと、一声吠えて二人を立ち止まらせます。


『危ないですから下がっててくださいませ』

「どうするつもりなんだ?」


 前方の木々を見据えて魔力を高めます。面倒くさいですから一撃で切り倒しましょうか!


『大空を満たす 父なる 風よ 巫女の 願いを聞き届け その姿を現し 立ち塞がるものたちを 蹴散らし給え 真空刃カマイタチ!』


 前方に扇状に飛び出した不可視の空気の暴風が、木々の間を20mほど先まで進んでそのままかき消えます。すると一瞬の間をおいて大木が次々と倒れていきました。ざっと30本くらいですかね?


「なっ!?魔法だと!」

《風魔法か。やるじゃないか》

『ふふん。これくらい朝飯前ですワン。まだまだ行きますワンよ!』


 それから何度も魔法を使い200本以上の木を切り倒しました。これだけあればしばらく木材に困ることはないでしょう?


《たいしたもんだが、3人でどうやって運ぶんだ?》

『・・・え?・・・』


 村人を帰してしまったので人手が足りず木材の運搬は出来ませんでした。すずめ様の土魔法でお願いするしかありませんわね・・・。

 村に戻るとラプトルさんとカージナルさんは別のお仕事に向かいました。わたしはどうしましょうかね?今日は魔法を使ってばかりでしたので少し疲れましたし、家に帰って昼寝でもしましょうか?





「アサヒナ様!まだ寝てるんですか?もうすぐ夕食の時間ですよ!」

『うぅ~ん・・・あと5分・・・』

「わたしの護衛のはずですのに・・・」


 思った以上に魔力が減っていたみたいでがっつり熟睡しました。もう少し寝ていたかったですが、漂ってきた匂いに目が覚めました!この匂いは!?


「今日は数の多かった鶏のオスを使ったチキンステーキですよ。起きてこないならアサヒナ様の分もわたしが食べちゃいますからね」

『起きましたワン!』




「え!?アサヒナ様が!?」

『ん?何か言いまして?モグモグ・・・』


 チキンステーキにかぶりついているとすずめ様とカージナルさんが何か話しているのが聞こえます。すずめ様の言葉は分かりますが、カージナルさんの言葉が分からないので話がよくわかりませんけど。


「ちゃんと仕事をしてくれたのですね。アサヒナ様、わたしの分のチキンもよかったらどうぞ」

『わ!よろしいのですか!?ありがとうございますワン!』


 すずめ様が自らのチキンの乗ったお皿をわたしの目の前に置いてくださいました。美味しいものが食べられるのなら、わたしももう少し頑張ってもいいかもしれませんわね。

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