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93話:アサヒナ様のお散歩日記。其の一。

「うぅ~ん。いい朝ですね~!」


 同じベットで寝ていたすずめが起きちゃったわ。眩しいからカーテンを閉めてくれないかしら・・・。


「アサヒナ様!朝ですよ、起きてください!」

『朝は苦手なのよ・・・あと5分・・・』


 前足の爪にシーツを引っかけて頭からかぶりました。

 王様の義姪だったわたしはそれなりにいい暮らしをしていたので、昔は天蓋付きのベットで寝ていました。こんなシングルベットに二人で寝るような暮らしではなかったのですわ。ところがある日原因不明の病に侵されました。魔力がどんどん枯渇して意識が保てなくなる病気です。魔力を持っている方が私に触れると少しだけ意識が戻りましたが、その方の魔力を吸い取ってしまうと再び意識を失う奇病でした。あの頃は原因も分からず対処もできませんでしたが、今にして思うと何らかの秘術を受けたか毒を盛られたのかもしれませんわね。そして意識が戻らないまま衰弱死したと思われますが、気がついたらわたしのお墓の前に立っていました。立っていたという表現はおかしいかもしれませんわね。だって幽霊になっていましたから。


「しょうがないですね。わたしはお仕事に行ってきますので、あとでちゃんと起きてくださいよ~」


 そしてしばらくぼーっとお墓の前にいると、墓前に「ヨミガエリ草」を持ったおばあ様と小さな女の子が現れました。おばあ様はわたしが亡くなったことですっかり元気をなくしてしまったようで、ヨミガエリ草を供えると立ち去ろうとしました。せっかく手に入れたヨミガエリ草を供えるだけなんて無意味な事はしないで!特級回復ポーションを作って苦しんでいる人を助けてよ!いくら心の叫びを上げてもわたしの声は届かなかったのです。死んでしまったわたしには、どうすることも出来ませんでした。悔しくて悲しくて幽霊なのに涙がでました。墓前にヨミガエリ草を供えたおばあ様に一言言いたかったのに・・・。


『おばあ様!悲しいからって目を逸らさないで!』

『おばあちゃん!悲しいからって目を逸らさないで!』


 え!?・・・一緒にいた女の子がわたしと同じことを言いました。わたしの声を代弁してくれたのです。


 よかった。言いたいことを伝えることが出来ました。安心したせいか身体が浮き上がっていきました。これが成仏というものなのでしょうか?そうですね、もう心残りは・・・。


『もっとおいしいものが食べたかったですわ~!!』


 その瞬間、わたしの身体は天ではなく、何かに吸い寄せられるかのように地平線の彼方に飛んでいきました。そして気がついたら、わたしはとある犬の姿になっていたのです。


『なんでこんな姿になってるんですの!?』


 それからはひどい生活でした。犬に生まれ変わったのかと思っていたのですが、その犬にはちゃんと意識があったのです。生まれ変わりではなく憑依だったのです!なんとか主導権は握れたものの、その犬本来の本能には逆らえず、食事は犬食い(当たり前ですが)ですし、あたりかまわずおしっこはしますし、猫を見つけると追いかけてしまいます。箱入り娘でしたのにはしたないを通り越して情けなくなりました。そうしてしばらくするとわたしは売られました。とある夫婦に買い取られ、牛追いの仕事をやらされたのです。なんでわたしがこんなことをと思いましたが、犬の本能には逆らえず楽しく働きました。そしてこの村に辿り着いたのです。


『はぁ・・・このまま寝てるわけにはいきませんし、起きて散歩にでもでかけましょうか』


 この村はサイハテ村という小さな集落で、40人にも満たない人々が暮らしています。村長兼領主のすずめ様は、わたしのおばあ様と一緒にわたしのお墓参りに来てくれた女の子でした。妙な縁ですわね?偶然で片づけるにはあまりに不自然ですが、犬に憑依するなんて不思議なことが起こったばかりですし、何か特殊な力でも働いているのでしょうか?

 村の中を目的もなくとてとてと歩いていると子供たちに見つかりました。面倒くさい子たちに見つかりましたわね・・・。


「あ~エロヒナ様だ!エロヒナ様~!」

『アサヒナですワン!まったく』


 子供たちを無視して壁まで歩くと、ひょいっと跳躍して足の裏に風の塊を作ります。


『風よ』


 一瞬の上向きの風を足場にしてトントンと空中を歩くと、5mの高さの壁の上に飛び乗りました。あななたちの相手をするほど暇じゃないですのよ。


「うわ~飛んだぁ!エロヒナ様すげ~!」

「かっこいい!」


 そのまま内壁の上に沿って歩いていると畑の中を歩いているカージナルさんを見つけました。わたしを買って村まで連れてきた人で、すずめ様の護衛隊長さんだそうです。誤解から殺されそうになったこともありますが、今はその心配はなくなった・・・はずですわね・・・。この村に来る移動中の野営では、カージナルさんとプリステラさんは交代で見張りをされていましたが、カージナルさんは一度だけわたしに見張りを頼むと、休んでいるプリステラさんの馬車に乗り込んだことがありました。馬車がギシギシと揺れてプリステラさんの苦しそうな声が漏れていましたけど、喧嘩でもなさっていたのでしょうか?プリステラさんは怪我でもなさったのか微かに血の匂いもしていましたし、乱暴なカージナルさんはちょっと苦手ですわね。

 そんなことを考えていると突然畑にいたカージナルさんが地面に吸い込まれて消えてしまいました!


『え!?まさか穴にでも落ちたのかしら!?』


 急いでその場に行ってみると地面にぽっかりと穴が開いていて・・・階段がついていました。こんな畑の真ん中に階段があるなんて、この下はどうなっているのでしょう!?少し気になりましたがカージナルさんは苦手なので立ち去ろうとすると、犬の本能が見てみたい!と騒ぎました。


『嫌ですワン!そんな所入りたくないですのにぃ~!!』


 結局犬に引きずられて地下への階段を降りていきます。思った以上に長い階段で3階分くらい降りたでしょうか?ようやく地下に降りるとそこは巨大な穀物倉庫になっていました。魔導ランプに照らされた広大な倉庫は石造りの棚がいくつも並び、ひんやりとしている空間に様々な収穫物が積まれています。


『ここは・・・涼しいですワンね~!』


 お昼前で暑くなってきた時間帯には最適なお昼寝場所ですわ!さっそく冷たい床に寝そべって涼をとっていると、突然声が聞こえました。


「アサヒナ・・・様か?なんでこんなとこに?ここの食糧は漁るんじゃないぞ」


 キャイン!


 そうでした!涼しくてつい忘れていましたがここにはカージナルさんがいたのでした!以前の恐怖がトラウマになっているのか、犬の本能で急いで階段を駆けあがり外に逃げ出します。そのまま畑を横切って外壁の上に避難するとようやく一息つきました。あの方は苦手ですわね・・・。


『せっかく外壁まで来たことですしついでに周囲の偵察でもしましょうか?』


 そのまま外壁の上を再びとてとてと歩いていると、お堀の水の中でバシャバシャと水音がするのに気づきました。何かいるのかしら?外壁の端に立って下を見てみると、体長1mほどの巨大アリが10体ほど、壁をよじ登ろうとしているのに気づきました。すずめ様が作った土壁は滑らかな一枚岩で出来ていて、継ぎ目もないので足を引っかけて昇ることは出来ません。放って置いても村の中は退魔道具の効果があるので大丈夫のはずですが、見逃す理由もないので退治しておきましょうか。


『大空を満たす 父なる 風よ 巫女の 願いを聞き届け その姿を現し 敵を 蹴散らし給え 風嵐トルネード!』


 犬の姿になっても問題なく使える魔法でアリの魔物を空中高く放り上げ地面に叩きつけます。そう言えばすずめ様がアリの魔物から何か素材が採れるとか言っていた気がしますが、村人には言葉が通じませんしすずめ様を探すのも面倒ですね・・・。まあどなたかが気づいて回収してくれるのではないかしら?それより、散歩を続けましょうか!

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