87話:新魔法念話!
「それにしても、なんでアサヒナ様はあんな一般人の共同墓地に埋葬されたのでしょうね?」
『あ~それはわたしが大罪人だからですワンね?』
「どーゆー事なんですか!?アサヒナ様が・・・大罪人だなんて・・・」
アサヒナ様は舌で毛づくろいをしながら何でもないように続けます。
『そうね、大罪人は言い過ぎだけどわたしに生きていてもらっては困る人が多かったのですワン。特にベニヒ第二王女を推す貴族達にはね』
ベニヒ第二王女様はヨシヒデ殿下の姉で、魔法を使える方ですね。それがどうして?
『誤解のないように言っておきますが、ベニヒ王女がわたしを殺したわけではないですワン。おそらく何も知らないのでしょうし』
話が見えません。続きをお願いします!
『わたしも死のショックで記憶が飛んでしまって詳しくは分かりませんが、わたしが王座を狙っているという噂が立って暗殺されたっぽいですワンね』
「どうしてアサヒナ様が王座を狙えるんですか?ヨシヒデ殿下を入れて5人の王子、王女様がいらっしゃるのに?」
順番から言えば第一王子様が次期王様ではないのでしょうか?それに第二王子様やヨシヒデ殿下もいます。義従姉のアサヒナ様の継承順位は随分低いのではないでしょうか?
『わたしが生きていた頃の継承順位は3人が横一線でしたワン。派閥の力関係もほぼ拮抗してましたし』
3人?どなたのことでしょう?
『魔力があって現王妃の息子であるヨシヒデ殿下。魔法が使いこなせる第二王女のベニヒ様。そして継承権を持つ中で一番魔法総合力が高かったわたしですワンね』
アサヒナ様の話を聞いてようやく少し分かってきました。この国、アリタイ王国は代々魔法を使えるものが王位を継いでいたそうです。第一王子様や第二王子様は魔法適正が何もないので継承権はあっても実質王にはなれないのです。王子の中で唯一魔力があるのがヨシヒデ殿下ですが使いこなすことは出来ず、第二王女のベニヒ様はそこそこ使えるそうですが、アサヒナ様の方が才能があったという事ですね。そして2年前にヨシヒデ殿下が王位継承権を放棄したことによって、ベニヒ様とアサヒナ様の一騎打ちになった。現王女で魔法がそこそこ使えるベニヒ様か、遠縁ですが魔法の才能のあるアサヒナ様かで貴族たちが争い、第二王女を推す貴族の誰かがアサヒナ様に罪を着せて暗殺という非常手段に及んだと・・・。
「その・・・わたし何も知らなくて・・・何と言っていいのか・・・」
『まあ死んでしまったものは仕方ありませんワン。元々女王などに興味はありませんでしたし、ここでのんびり犬として暮らすのも悪くないかもしれませんワンね』
「えっと、わたしが言うのもなんですけど、アサヒナ様を暗殺した貴族に恨みとかないんですか?」
『ないと言えばウソになりますけど、わざわざ探して殺しても生き返れるわけでもありませんし、労力のムダ?みたいな感じでしょうか?もちろん目の前に現れればわたしの魔法で斬り裂いてあげますけど』
【アサヒナ・ベリタ・ゲンジ】犬人族:5歳:メス
肉体総合力:49
精神総合力:23
魔法総合力:28
魔法適正:風
名前はアサヒナ様ですが、年齢と肉体総合力はワンちゃんの方ですね。そして魔法はアサヒナ様と。ワンちゃんと魔法使いのアサヒナ様のいいとこどりに見えます。確かトモエゴゼン様の姓がアリタイ、この国の名前ですね。王族なのですから当たり前ですが、王位継承権を放棄したヨシヒデ殿下が・・・シノビでしたか。シノビって「忍び」ですよね?そうなるとアサヒナ様のゲンジは「源氏」?なのかな。江戸時代くらいかと思っていましたが源平合戦って平安時代じゃありませんでしたか?まあゲームですからその辺もいいとこどりなのかもしれませんね。
『ところで未だに貴女様のお名前をうかがっていないのですが?』
「あ、そうでしたね!失礼しました。わたしは山田すずめと申します。先日王様から騎士爵に任じられ、このサイハテ村の領主になりました。よろしくお願いいたします」
わたしはアサヒナ様の前に正座してぺこりと頭を下げます。
『へ~その若さでたいしたものですワンね~。そして当然魔法も使いこなせるわけですワンね?』
「はい。わたしは水と土と無属性魔法が使えます」
ピクッ
アサヒナ様のかわいらしいワンちゃんの耳がピクッっと立ちました。
『無属性ですって!?水と土の二種類が使えるだけでも前代未聞ですのに、古代日本語の文献に書かれていた、幻の無属性魔法がつかえるのですか!?』
「ええ、まあ・・・幻なんですか?今アサヒナ様と会話が出来ているのも、無属性魔法の【言語読解LV1】の効果だと思います」
アサヒナ様が寝そべって頭を抱えています。ワンちゃんの姿でこんな恰好をされると、かわいすぎてモフモフしたくなりますね。古代日本語の文献って、それってこのゲームの取扱説明書か何かじゃないですか?出来れば読んでみたいですけど。
『はぁ・・・思い出しましたワン。おばあ様との会話で言ってましたワンね。すずめ様は【ニンゲン】だと』
「あ!・・・」
そうでした。あの場に幽霊のアサヒナ様がいたのなら、トモエゴゼン様との会話も聞かれていたのでした。
「あの、アサヒナ様。そのことはどうかご内密に・・・」
『内密も何も、わたしの言葉はすずめ様にしか伝わりませんワン。それにわたしはそんな口の軽い女ではないですワンよ』
そっぽを向いていますが、片目を開けてわたしを見るアサヒナ様の瞳は優しさで満ち溢れているようでした。さすがはトモエゴゼン様のお孫さんですね。ワンちゃんの姿になってはしまいましたが、生きているのです。このことをトモエゴゼン様にもお知らせしたいですが、お知らせする方法がありません・・・。アサヒナ様のお墓の前で項垂れていたトモエゴゼン様のお姿を思い出します。あんなに元気だったトモエゴゼン様が、お墓の前に着いた途端、年相応のおばあさんになった姿を思い出します。
「アサヒナ様。トモエゴゼン様とお話がしたいですか?」
『え!?・・・それは・・・でも、もう叶わない望みですワン。こんな姿になってしまっては合わす顔もありませんし・・・』
「決めました!新しい魔法を作ります!」
『え!?魔法を・・・作る?・・・』
要はアサヒナ様の言葉を伝えればいいのです。わたしが伝書鳩になります!
「魔法生成プロンプト!我の望みを 形作れ!念話!」




