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83話:VSサラマンダー!

 カージナルさんたちが物資調達任務に出発して半月が経過しました。本来ならとっくに戻って来てもいいころですが、予定日を5日も過ぎたのに戻ってきません。もしかして魔物に襲撃されてしまったのでしょうか!?


「イチウ様、どう思いますか?遅すぎないでしょうか?」

「東の港町までは馬車で4日ほどではありますが、購入した馬や家畜によっては徒歩移動で戻っていることも考えられます。遅すぎるというほどではないでしょう」


 わたしにはこの世界の地理がわかりません。馬車で4日とは具体的に何kmくらいなのでしょうか?歩きならどれくらいかかるものなのでしょうか?カージナルさんたちが心配でイチウ様に尋ねましたが、まだ予定の範囲だそうです。少しほっとしましたが姿を見るまで不安は消えません。


「心配なのはわかりますが有能な上司を遊ばせておく余裕はないのです。本日は予定通り「硫黄」とやらの探索をお願いします」


 村壁の中にゴムの木を引き込んだので、毎日ゴムの樹液の採集を行っています。木に斜めの切り傷を付けると少しずつ白い樹液が垂れてきます。それを器に集めてアリの魔物から採取した蟻酸を混ぜてこねると、よく伸びるゴムの元が出来ます。あとは加熱しながら硫黄を混ぜて圧縮すればゴムの完成です!硫黄さえ手に入ればあとは魔法でなんとかなると思います。そして硫黄のあてもあるのです。それは村の北にある火山地帯です!火山地帯ならば温泉が湧いている可能性が高いので、どこかに硫黄泉も見つかるかもしれません。そこから硫黄を採集するのが本日の目的です。


「そうですね。心配して一日を過ごすわけにもいきませんし、魔取り線香があれば村も安全なので行ってくることにします。ラプトルさん、準備はいいですか?」

《いつでもかまわないぞ》

「それではイチウ様、村の事をお願いします」

「わかりました。お気をつけて」


 村で唯一の馬であるキナコとミタラシは、カージナルさんたちと一緒に物資調達に出かけています。歩いて行っては火山地帯まで日帰りは不可能ですが、魔法があればその問題も解決できます。ズバリ!ボツになったゴーレム馬車です!

 年貢米の運搬にゴーレムを使いたかったのですが、魔法を他の町や村の領主に見られるのはマズイとオイレボさんとイチウ様が言うので泣く泣く諦めました。その代わりの馬の調達をカージナルさんたちに頼んだのです。しかし他の町や村にいかなければ使ってもいいという事なので、今回はゴーレムさんに馬車を引いてもらうことにしました。


「速いですね~!」


 わたしの魔法で道を慣らし、ゴーレムさんが馬車を引くというコンボは、元の世界の車移動に近い物があり、ほとんど振動も感じないまま安定した速度でグングン進んでいきます。途中の荒れ地で何度か魔物の姿も見え隠れしましたが、ゴーレム馬車の速度について来れないようで、すべて振り切ってしまいました。オイレボさんによると火山地帯まで半日くらいかかるそうですが、出発から1時間もかからず目的地周辺に到着しました。荒れ地の中に小川が現れたのでそれを辿っていくと、川から湯気が立ち昇り始めました。水が熱いため小川の周辺には草一本生えていません。さらに川を遡ると辺り一面真っ白な世界になりました。


「すごい湯煙ですね」

《お嬢、気を付けろよ。周りが熱を持ちすぎていて熱感知が役に立たない》


 視界も悪く熱感知も使えないのは困った物ですが、わたしには一覧表示があるので大丈夫です!20m以内に魔物が現れると、ピコンっとアイコンが表示されるのです。そうです、こんな風に・・・。


 ピコンピコンピコンピコン・・・!


「ラプトルさん!魔物一杯です!!」

《困ったな、何も見えないぜ・・・》


 前方から一覧表示だけがゆっくりと近づいて来ます。表示に出た名前はフレイムゴブリン、サンドマン、そしてサラマンダー・・・。


【サラマンダー】エリアボス:オス

 肉体総合力:472

 精神総合力:174


「あれ?サラマンダーって確か?エリアボスとか言うやつでしたっけ?」

《お嬢、撤退しよう。視界も熱感知も効かないんじゃ戦いようがない》


 そうでしょうか?サラマンダーは視界が塞がれているみたいですけど、わたしはサラマンダーの位置を把握しています。むしろチャンスなんじゃないですか?


「土の精霊さん!魔物を封じ込めてください!土壁牢パレッテ・ディ・アラジッラ!」


 魔物の手前の地面がせり上がり高さ5mほどの壁が現れました。壁の向こう側からは魔物の慌てふためいたような叫び声が聞こえてきます。続けて左右の地面も次々と壁に変わりぐるっと周りを囲んだ時、壁の向こうから天に向かって炎が吹きあがりました。


「あら~・・・」


 混乱したサラマンダーが吐き出した炎が壁に跳ね返り、土壁の内側にいた魔物を焼き尽くしてしまったようです。表示されていた魔物がサラマンダーを除いて全て消滅しました。なおも吹き上がる炎で辺りの霧が少し晴れてきましたが、土壁はびくともしません。


《それでお嬢、これからどうするんだ?危なくて近寄れないぞ?》


 壁越しでも耐えられないほどの熱で少し距離を取りました。一緒に下がったラプトルさんが動きを封じたなら今のうちに撤退をしようと勧めてきます。


「これからとどめを刺すんですから逃げるなんてとんでもない。ねえ?わらび餅」


 わたしが頭の上のわらび餅に合図を送ると、「心得た!」と言わんばかりに触手を変形させて親指を立てると、大きく口を開けて周辺の水蒸気を吸い込み始めました。サラマンダーの炎とわらび餅が吸い込んだおかげで、辺り一面の湯煙が消え去り視界が開けました。目の前には巨大になったわらび餅と、巨大な壁が円形状にそびえ立っています。再び炎が土壁の中から吹きあがりますが、わらび餅の吐き出した大量の水が「ジュッ!」という音と共に炎を消し去ります。わらび餅の身体が吐き出す水の量に応じて縮んでいきますが、完全にしぼむ前に壁の上から水があふれ始めました。


《おいおい・・・なんだこりゃ》


 ラプトルさんが呆れたように壁から溢れる水を見ています。さすがのサラマンダーも水泳は苦手だったみたいで、表示の肉体総合力がみるみる減っていきます。そして3分と立たずに表示が消えました。どうやら溺れてしまったようですね。


『経験値が貯まりレベルが33になりました。スキルポイントを33獲得し65となりました』

『経験値が貯まりレベルが34になりました。スキルポイントを34獲得し99となりました』

『経験値が貯まりレベルが35になりました。スキルポイントを35獲得し134となりました』


 一気にレベルが3つ上がりました!確かに数値を見る限りとても強い魔物なのでしょうけど、わたしにとっては森で戦ったストレンジモンキーの方がよほど手ごわかったですね。


《お嬢は対個人戦に特化してるみたいだな。弱い魔物の群れの方がよっぽど苦戦してるだろ》

「そちらはラプトルさんに任せます。わたしの護衛なのでしょう?」


 やはりラプトルさんも同じことを思ったようです。わたしは魔法の威力はありますが、戦闘経験が圧倒的に足りていないのです。複数の魔物を相手にするような混戦が苦手っぽいですね。ですがそのためにラプトルさんやカージナルさんがいるのです。せいぜい頼らせて頂きますよ!


 土壁を消し去って元の地面に戻すと硫黄の探索を再開します。サラマンダーからはレアな素材が採れるそうなのでゴーレム馬車に乗せて運ぶことにしました。エリアボスというので巨大な姿を想像していましたが、体長2m程の比較的小柄な魔物でした。森のエリアボスのサバイバルオーガは身長5mはありましたし、翼竜にいたっては10mサイズです!それに比べれば随分小さいので驚きましたが、強さと大きさは比例しないのですね。そんなことを考えながら歩いていると突然ラプトルさんが叫びました。


《な!何だこの匂いは!?臭すぎて鼻が曲がりそうだ!》

「この匂いって・・・卵の腐ったような異臭、間違いないです!近くに硫黄がありますよ!」

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