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81話:すずめとイチウの一夜。

「すいませんベットが一つしかなくて」


 な、なんなんだこの状況は!?すずめがベットメイキングをしながら申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。


「お風呂もまだ作ってないので、汗を流したいなら表の水路で水浴びをしてくださいね」


 6畳一間しかない部屋にすずめと二人っきりだとっ!?窓から差し込む夕日が部屋を朱色に染める。


「わたしはちょっと村の女性用湯あみ場に行ってきますね」


 タオルと桶を持ったすずめが扉を開けて外に出た。しばらく俺もこの部屋で寝泊まりするって!?いやいやいや!おかしいだろう!すずめは貴族で俺は宰相の息子とは言え今は一般市民だ。何か間違いがあったらどうするつもりなんだっ!!いずれ、すずめが成人したら妻に娶って王族の仲間入りをするという政略結婚も考えていた。それしか貴族になれる道がないと思っていたからだ。だが今は、この村を発展させて町にすることで貴族になれる道が見えてきた。無理に結婚する必要はなくなったのだ。すずめは12歳と言っていたな。成人まであと3年。恋の一つや二つはしているはずだ。男女の営みの事も多少は知っているはず。知っているはずだよな!?男を寝床に誘う意味だって分かっているはずだ・・・。それなのに・・・。


 ゴクリ・・・


 いや待て!すずめはまだ12歳の子供だ!しかも王族なのは間違いない!そんな子に手を出したりしたら・・・頭の中にその後の光景が浮かぶ。後ろ手に縛られた俺が台の上に膝をつき頭を垂れる姿が・・・。剣を振りかぶった処刑人の影が見え、そして王様の一声が・・・。


『やれ』


「うわああああああああああああ!!」


 ダメだ!ダメだ!ダメだ!手を出しちゃいけない!全てが終わる!自制しろ俺!頭を抱えたまま床板の上をゴロゴロと転がった。壁にぶつかって止まるとデジャブを感じた。そうだ。すずめと初めて会った日、あの控室ですずめは俺をひざ枕してくれていた。柔らかく暖かいすずめの腿。そこから見上げた大人びた表情のすずめ。そしてあの角度だからこそわかった、思ったよりも膨らんでいた胸・・・。


「一目惚れだったのか・・・」


 大の字で床に転がったまま天井を見上げるとすずめの顔が浮かぶ。そしてそのすずめの口が動いて言葉を発した。


「どなたに一目ぼれなさったのですか?」

「うわああ!!」


 いつの間にか戻って来たすずめが俺を見下ろしていた。床を転がった先がちょうど扉の位置だったらしい!不思議そうな表情のすずめと、スカートの中のパンツが同時に見えてしまった。いかん!鼻血が出そうだ!なんとか鼻を押さえて横を向いた。落ち着け俺!落ち着くんだ!・・・。


「は、早かったな」

「そうですか?それなりに時間はかかっているはずなんですが?外ももう真っ暗ですし」


 さっきまで夕方だったのにいつの間にか夜になっていた。俺はどれくらい悶えていたんだ・・・。窓から差し込む明かりが朱色から白い月明りに変わっていた。


「水浴びはいいんですか?良いならランプの油がもったいないのでもう寝ちゃいましょうか?」

「え!?あ、ああ・・・」


 ランプを消すとすずめがベットに潜り込み、奥の壁際に寄って手前側を開けて手招きしてくる。


 ドクドクドク・・・


 ほ、本当に俺と一緒に寝るつもりなのか?


 ドクドクドク・・・


 ベットに座りゆっくりと身体を潜り込ませる。月明りで真っ白に見えるすずめの顔がすぐ横にあった。その表情にはいたずらっ子のような笑みをうかべているが、影になって見えない反対側は妖艶な笑みを浮かべているのかもしれない・・・。


「おやすみなさい、イチウ様」

「あ、ああ・・・おやすみ・・・」


 しばらくするとスースーっとすずめの安らかな寝息が聞こえてきた。もう寝たのか!?俺は緊張でまるで睡魔がこない。そっと身体を起こしてすずめを見下ろす。腰まである長い髪をまとめて枕の上に流している。そのまま寝ると完全に身体の下敷きになってしまうからだろう。


「うぅ~ん・・・」


 すずめが寝返りを打って左腕が俺に抱きつくように覆いかぶさって来る。


 ドキドキドキドキ・・・


 薄く開いた唇はうっすらと桜色をしていて、閉じたまぶたからは長いまつ毛が伸びている。なんて無防備なんだ・・・。今なら・・・。その時月明りを遮ってすずめの顔の上に異形の影が落ちた。慌てて窓を振り返ると巨大な蛇のような魔物のシルエットが見える!その口からは牙が覗き、シュルシュルと長い舌が・・・。


「うあっ・・・!」


 そこで俺は白目をむいて倒れてしまった。その時俺の右腕がまるですずめを抱きかかえるように覆いかぶさった。


《しまった。影が室内に入ってしまったか。せっかく人類の交尾が見れると思ったのに、残念だな》





 こ、これは、どういう状況ですか!?イチウ様がわたしに覆いかぶさって抱きついています!?


「う~ん!う~ん!」


 重くて身動きができません!まさか、イチウ様はわたしみたいな子供に手を出す方だったんですか!?いえ、早とちりはいけません・・・。きっと寝ぼけて抱きついてるだけなのです!きっと抱き枕だと思っているだけなのです!


 ムニッ


 頭が沸騰しました!イチウ様の右手がわたしの胸に・・・!!


「きゃあああああああああああっ!!わらび餅!」


 わらび餅の触手でイチウ様がベットから吹き飛ばされ、壁に激突してずり落ちました。そのまま力なく倒れたイチウ様は睡眠から気絶に移行したようです。


「はぁはぁ、まさか、イチウ様がロリコンだったなんて・・・今日中に別宅を建てるしかありませんね!」


 その後魔法を駆使した突貫工事で一軒の家が建てられました。イチウ様の仕事場である役所兼住居です。わたしの家である村長の家とほぼ同じ大きさで、壁の一面に大きな窓をつくりお役所の機能ももたせました。そしてその上にある看板には「痴漢の役所」と記載されています・・・。決してわたしが書かせたわけではありません!精霊シスターズが水魔法で削って書いたのです!わたしの思考を読み取って・・・。


「いててて・・・おはようございますすずめ様」

「あ!・・・えっと、お、おはようございます・・・」


 首の辺りを押さえながらイチウ様が起きてきました。そろそろお昼ですがあえて起こしませんでした。


「夕べは何かあったのですか?なぜか身体じゅう痛くて首の調子も・・・」


 どうやら気絶したショックで何も覚えていないようです。


「長旅でお疲れになっていたんじゃないでしょうか!?寝相もあまりよろしくないようでしたし・・・」

「あ~・・・それで床で寝ていたのか。ところでこの建物は?」


 看板を見上げながらイチウ様が首を傾げています。小学1年生レベルの漢字の知識では読めませんよね?


「えっと、イチウ様の住居兼お役所になります。ほら、看板にも()()の役所と書いてあるでしょう?」


 当然読めますよね?という顔をしてイチウ様に告げると、少し驚いた後握った右手を左手の手の平に打ち付けました。


「え!?・・・ああ、なるほど!確かに()()の役所と書いてありますね!そうか、ここがわたしの家ですか!」


 納得していただけたようでほっとしました。「痴漢」なんて難しい漢字は学者さんでも読めないはずです!

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