80話:サイハテ村の農地改革!
「さあイチウ様!どこから始めましょうか!」
イチウ様がわたしの補佐として来てくださったのでさっそくご相談です!わたしが領主であることは変わりませんが、成人しているイチウ様ならわたし以上のお知恵をお持ちのはずです。是非ともお力になっていただきたいですね。
「退魔道具の有効半径は約250mです。まずは村を拡張して耕作面積を増やしましょう。そしてすずめ様が使える魔法のことをもう少し詳しく教えていただきたい。これからの村の発展に有効活用するために」
「魔取り線香は退魔道具と呼ばれているのですね?半径250mですか。森の中にまで効果があるのは本当だったのですね」
村の中心から森の端までは約200mほどです。250mならゴムの木の森を村壁内に引き込むことができますね。ギリギリまで広い村壁を作りましょうか。掘りの幅と壁の幅が合わせて10mですから半径240mまで村を広げられます。
「魔取り線香とは?」
「あれ?祠の道具に書いてありますよ『赤い大地製:魔蚊取り線香』って」
わたしには一覧表示で名前が分かりますが、実際に裏を見てみると小さな字で商品名が書いてありました。
「製作者の名前までわかるのですか!?」
製作者というか会社ですけど、王都にある会社じゃないんですかね?日本語で書いてありますけど。
「あなたという方はどこまで規格外なんですか・・・。この漢字語が読めるなんて・・・」
「漢字語!?なんですかそれ!?これって日本語ですよね?みなさん日本語を話されていますし・・・」
「何をいっているんだ!?俺たちが使っているのは人類共通語だ!日本語とは、遥か古代の神々が使っていた神代の言葉だ!」
どういうことですか!?漢字語ってなんなんでしょう!?イチウ様が怒っているのか呆れているのか地の言葉遣いになっています。漢字といえば・・・パッセロの町で冒険者登録をする時に漢字を書いて驚かれましたが。マルティナさんの口ぶりだと、教養があるお嬢様くらいなら読み書きができるようなことを言っていましたが、イチウ様クラスの方が読めないのでしょうか?
「漢字語はまだ完全に解読されていない。一般人がわかるのは人類共通語の「ひらがな」、「カタカナ」だけだ。王立学園を卒業できるクラスでも読み書きできる漢字語は100文字程度、学者だって250文字がせいぜいだ」
なんということでしょう!それじゃイチウ様が分かるのは小学生1年生程度の漢字だけなのですか!?学者さんでさえ2年生レベルですか・・・。6年生だったわたしは1000文字くらいは読み書きできるのですけど。
「ひらがな、カタカナは合わせて100文字ほどだ。それに複数の意味、読み方を持たせた複雑な漢字を100文字覚えることがどれだけ大変なことかわかってないのか!?」
う、う~ん・・・入院中は趣味のべっ甲細工やゴムのことを調べるのにネットを見ていたので、自然に読み書きを覚えましたがそんなに難しいことなのでしょうか?確かにアルファベットだけ覚えれば書ける英語なら、大文字小文字合わせて52文字ですみます。そう言う意味では漢字は1万文字ほどあるそうですし、覚えるのは至難の業ですね・・・。
「わ、分かります!分かります!わたしだって漢字は1000文字程度しか読めませんし・・・」
「1000文字!?お前は一体何者なんだ!どこでその知識を得たんだ!?」
「えっと、え~っと・・・秘密です・・・」
まさか他の世界から転生してきたとは言えませんし、ここがゲームの世界とも言えません。話せるはずがないじゃないですか!
「・・・ふぅ、まあいい。生い立ちから推測すれば話せないこともあるのは理解している」
「生い立ち?」
イチウ様は何か誤解されているのでしょうか?みなさんと同じようにわたしを王族か何かと思っているのでしょうかね?
「それじゃさっそくすずめ様の魔法で村の拡張を始めましょう」
「わかりました。それでは午後から畑作りをしますね」
「何を言ってるんだ?・・・いくら魔法を使うからと言って数時間で終わるわけがないだろう。250m四方の掘りを作って、壁を作って、森の中は木の伐採まで、一体何日かかると・・・」
3時間後、掘りと壁の製作が終わって壁周辺の森の木の伐採まで行いました。土魔法でまとめて地面を持ち上げ、掘りを作ると同時に壁を設置します。水魔法を薄く回転させウォーターカッターのようにして壁近くの木を伐採し、ゴーレムさんたちに運搬をお願いしました。元々あった村壁は万が一のためにそのまま残し、各方角に伐採した木材で門を作りました。粟を収穫した畑で野菜を作る予定でしたが、イチウ様が内壁の中は安全性が高いので住居専用にしたほうがいいと言うので、新しい畑は内壁と外壁の間に作る事にしました。現在は内壁の中で行っている稲作も、次回からは外側に作った田んぼのみで行います。
「ふぅ~さすがに少し疲れましたね」
結局夕方までに全ての作業を完了させました。外壁の間に作った畑は北側に100mx300mの広さで田んぼも東側に同じ広さで作りました。さらに所々にため池を作り細い水路でつないで、どこからでも水を使えるように改良します。南側は外壁近くにゴムの木の林があり、それ以外は開発余地を残しています。これ以上畑を広げても人手が足りないからです。畑にはイチウ様が持ってきて下さった野菜の種を蒔いて、苗を植えていきます。ゴーレムさんが一列に並び一つづつ丁寧に植え、その後に精霊シスターズが水を撒いていきます。全自動畑管理システムが完成しました!
「常識が崩れていく音が聞こえてくるよ・・・わずか一日で村の中心から250mの場所に掘りと壁を3方に作り、300aの畑と田んぼを作り、種まきに苗まで植え終えるなんて・・・」
内壁の上に座り込んで広大な農地を見渡しながらイチウ様が呟きました。持って来た種と苗が足りず畑はほんの一部を利用しているだけです。小麦と大麦も合わせて100aほどです。
「こんなこと予想もできないだろ・・・種も苗もかなり多めに用意したんだけどな・・・小麦と大麦はどちらかしか使うつもりはなかったのに・・・」
「これで何人分くらい収穫できるのでしょうか?」
「何人分か、難しい聞き方をするな?野菜はトマトの苗、ホウレンソウの種、トウモロコシの種、それに玉ねぎ、ピーマン、キャベツとレタスの種を植えた。収穫できるのはそれだけを食べるなら村人全員で50日分ほどだ。小麦と大麦も各100俵分くらいだろう」
野菜を一日一食だけ出すなら150日分くらいですか。かなり足りませんね。しかし毎食お魚だけだった食事の改善はかなり期待できます。お米の収穫にお野菜の収穫、それができるまではまだしばらくお魚づくしですが・・・。そう言えば根野菜がありませんね?
「根野菜?根野菜は土の栄養分を根こそぎ持ってってしまう。いくらお前の魔法があったって育てられるとは思ってなかったんだよ」
脱力したように座り込んだまま、顔だけわたしを振り返って言いました。いえ、わたしの頭の上のわらび餅を見ながら言ったようです。
「そもそもなんなんだそのスライムは!?森に行ったかと思うと肥料を身体に取り込んで畑に蒔いて回るなんて・・・」
「何と言われましても、この子はわらび餅です」
「意味がわからん・・・常識外れの魔法のおかげで、俺の持って来た鍬の使い道がねえよ」
わらび餅は触手を上下に振って「まーまー気にすんなよ」と言っているようです。
「とりあえず今日の分のお仕事は終わりました。おうちに帰りましょうか?」
「そうだな。昨夜は宴会で荷解きをする時間もなかった。馬車の寝心地の悪さにはいいかげんうんざりしてたんだ。今日こそはベットのある部屋で寝たいもんだな」
そう言えば宴会の途中で疲れたイチウ様は馬車の中で寝てましたね。長旅で疲れていますし、今日はベットで寝かせてあげませんと。
「それで、俺の家はどこにあるんだ?」
「え?まだありませんよ?しばらくはわたしと同じ家で暮らしてくださいね」
「は?・・・はぁああああああっ!?」




