08話:金貨っていくらですか?
特級回復ポーション?
名前からすると回復ポーションよりお高いお薬なのでしょうか?
回復ポーションの素材の薬草がかばん一杯で銅貨40枚です。特級ならもしかして一つで銅貨40枚くらいの価値があったりするのでしょうか!?いくらなんでもそこまでじゃないですよね?
「そ、それってそんなに価値があるものなんですか?」
恐る恐るマルティナさんに質問してみます。かばん一杯で薬草が100本くらい入りました。つまり薬草10本で銅貨4枚。このヨミガエリ草がたった一本で銅貨20枚!いえ、銅貨10枚にでもなると言うなら万々歳ですね!
「最低でも金貨5枚よ・・・」
たったの5枚でした。いえ、それでも10倍以上の価値があるのです!喜ぶべきことで・・・キンカ?
「えっと、金貨って銅貨何枚分なんでしょうか?・・・」
「ディエゴさん!ギルドの扉を閉めて!」
「あ、ああ!わかったぜ!野郎ども!扉を施錠しろ!」
「「「おうっ!」」」
一体何事なんでしょうか!?ディエゴさんの部下の人が扉の前にテーブルを移動してバリケードを作っています!これでは外に出られません!カウンターの向こう側で俯いているマルティナさんが静かな声で皆さんに語りかけます。
「ここにいるかた全員に戒厳令を発令します・・・。いいですね!ギルド長!」
「え!あ、うん。マルティナ君にまかせるよ・・・」
カウンターの後ろの奥にいる小柄なおじさんにマルティナさんが恫喝・・・確認をしました。マルティナさんがここの責任者じゃなかったんですね・・・。
「おそらくオークションになると思われますが、売り手が決まってもここに花が持ち込まれた事、採集したのがすずめちゃんであることを口外することは厳禁です!!」
「ええ、わかってるわ・・・」
「もちろんだ・・・もしそれが知れ渡ったらチュンチ・・・すずめ嬢の命が危ねえ・・・」
何か大事になってきています・・・。カイゲンレイとはなんなんでしょうか?辛うじてディエゴさんの言った「わたしの命が危ない」という事だけは理解しました。あの花を持ち込んだことがそんなに大事なの!?
ところでディエゴさんの口走ったチュンチ、とはなんなんでしょう?
冒険者ギルドにいたのはディエゴさんとディエゴさんのチームの人が10人。それにリッカルドさんとお仲間の男性が二人。そしてパオラさんにムッカさんと受付嬢のマルティナさん、最後にわたしです。全部で18人ですね。(ギルド長さんのことは頭からすっぽり抜けてました・・・)
どうやらすごく価値のある薬草のようですけど、トカゲ人(仮)の人にもお礼をしないといけませんね。またあの場所に行けば会えるでしょうか?
「すずめちゃん、このヨミガエリ草はギルドで預からせてほしいんだけどいいかしら?」
「はい。なんだか持っていると危ないみたいですから、マルティナさんが預かってくれれば安心です!」
「そう言ってくれると助かるわ。詳しく説明したいとこなんだけど、ギルドを長い時間封鎖したままだと怪しむ人がいるかもしれないから、すべてが終わってから話すわね。それから・・・ないとは信じているけど、ここに居る人からヨミガエリ草のことを聞かれたらわたしに知らせてね。誰にも言っちゃダメよ!」
「は、はい!」
マルティナさんは周りの人たちににらみを利かせて念を押します。皆さん震えていますけど、やっぱりマルティナさんが一番怖い人なんでしょうか?
マルティナさんには誰にも言っちゃダメと言われましたが、わたしも貰っただけなので何も知らないんですけどね。
「では!扉を開けてちょうだい!ギルド再開しますよ~」
「「「お、おぅ・・・」」」
パンと一つ手を打って笑顔に戻ったマルティナさんが指示を出します。
その後通常業務に戻ったマルティナさんに薬草採集の依頼達成を認めてもらい、報酬として銅貨40枚を頂きました。初めてのお仕事完了と初めてのお給料です!このお金でみなさんにお礼ができるかな?確か冒険者になる準備で買った皮の靴と皮のベストと皮の手袋、かばんと水筒と巾着袋で・・・銅貨50枚。これではお返しには全然たりませんね・・・。ヨミガエリ草が高値になるようですから、あれが売れたらお返しすることにしましょう!
かなり濃密な二日間でしたが現実世界ではどれくらい時間が経っているのでしょうか?浦島太郎みたいなことにはならなければいいのですけど。
はぁ・・・そろそろ元のすずめに戻りますか!わたしはマルティナさんのいるカウンターに近づいて声をかけます。
「マルティナさん、そろそろゲームを終了したいのですけど?」
「げぇむ?ごめんねすずめちゃん、わたしにはよくわからないんだけど。冒険者に関係することなの?」
「え!?・・・」
えーっとえーっと、終了するにはどうしたらいいのでしょうか?
「えっと、わたしが初めてここに来た時の反対と言うか・・・元の世界に戻る方法ってご存知ないですか?」
「そう言えばすずめちゃんの”しゅっしんち”の”ヒロシマ”ってどこにある町なの?そこに帰るってことなの?」
パニックに陥りました。ここに戻ればゲームを終了出来ると思っていたのに、戻る方法がわかりません!もしかしてスマホの電池が切れるまで元に戻れないんでしょうか!?
「終了!ゲーム終わり!えっと、電源オフ!えっとえっと!・・・」
「どうしたんだすずめちゃん?急に叫びだして・・・」
涙が溢れてきました。自分の足で歩けるゲームの世界はとても楽しくて、知り合いも一杯できてうれしくて・・・それでもこの世界にはお父さんとお母さんはいません。二人に会いたい・・・。
その時ゲームを始める前の記憶が戻ってきました。
寝ている時に急に呼吸が苦しくなってナースコールを押して・・・
『急いで!緊急手術の準備!!』
『親御さんに連絡を!』
わたしは手術室に運ばれている途中で、スマホをクリックしてゲームを始めようとして・・・
わたしは・・・
もしかして・・・
死んでしまったの!?・・・
身体から力が抜けて膝から崩れ落ちてしまいました。
「え!?すずめちゃん!?」
ここはゲームの中なの?・・・
「すずめちゃん大丈夫!?しっかりして!」
もしかして死後の世界?・・・
「誰か!誰かお医者さんを連れてきて!」
わたしは一体どうなってしまったのでしょうか?・・・
わたしが放心状態で座り込んでいる時、わたしを見つめながら独り言を呟いている人がいました。
「あの包みに入っていたのは、間違いなくパルーデポイズンスネーク・・・森の東の奥にある沼地周辺にしか生息していない蛇のはず・・・ヨミガエリ草はそこにあるのか・・・」