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79話:混乱するイチウ。

【イチウ】


 なんなんだ!?わけがわからない!


 俺は昨日このサイハテ村の領主補佐として赴任してきた。本来村長は民衆代表で領主がそれを取り仕切る貴族だ。しかし村民34人しかいない小さな村のため、すずめ様が村長と領主を兼任している。

 すずめ様は王族で魔法を2種類も使いこなす稀有な存在だ。現在魔法を使いこなすことが出来るのは王族のみだ。いや、王族の血を引いている者だ。この国一番の魔法使いであるトモエ御前様は5代前の王族の血を引いている。そして国王陛下、第二王女であるベニヒ様、そして御前の息子の娘であるアサヒナ様も血は薄いが王族の血筋だ。父から聞いた話では殺されたらしいが、本当に殺されたのか?・・・もしかして、すずめ様はアサヒナ様なのでは?殺されたように見せかけて名前を変え、すずめ様になった。ありえるかもしれない。そうでもなければすずめ様があれほどの魔法を使いこなせる理由がない!

 すずめ様のことを調べさせた。遡れたのはわずか3ヶ月にも満たない。すずめ様を初めて目撃されたのはパッセロの町の冒険者ギルドを訪れた時だ。かなり上等なワンピースを着ていたのに靴も履いてなかったらしい。そしてそこで冒険者登録をおこなったと言う。たった12歳の女の子が突然町の中に現れた。各門の入退門記録を調べさせたが、1か月分遡っても町へ入った形跡がない。宿に泊まっていた形跡すらないのだ!そしてそれ以上昔の情報が何も出てこない。あれだけの魔法を使える者なら噂くらいあってもよさそうだが、欠片も情報を得ることは出来なかった。ただ、すずめ様を目撃された日に前後してアサヒナ様が亡くなったという情報があったのみだ・・・。亡くなったアサヒナ様はやはりニセモノ!?すずめ様こそが本物のアサヒナ様!?


「すずめ様の魔法も異常だが、あの知識は一体なんなのだ?・・・」


 ウミガメの甲羅からあんな見事な工芸品ができるなんて、一体どこで手に入れた知識なんだ!?現物を見て驚いた。半透明で水晶のように堅いがとても軽く、中に様々な模様がある。薄い甲羅を何層も重ねて作ったそうだが、あの櫛などは国宝級の神々しさを秘めていた。そしてあのゴムという紐。伸びたり縮んだりする紐など見たことも聞いたこともない。すずめ様はその製法も知っていたが惜しげもなくその方法を口にしていた。門外不出クラスの情報ではないのか!?あのゴムには無限の可能性を感じた。現物は髪留めに使う程度ではあったが、大きなものを作れば武器になる。あの反発力をつかえば弓の威力も上がるし、投石機の射程も飛躍的に伸びるだろう。弾力もあったので馬車の車輪に使ってもいいかもしれない。輸送速度を上げることも可能になる。まさに夢のような素材だ。

 王都を出る時、父から北の国境付近で大量の難民が発生したと聞いた。隣国から流れ込んで来たそうだが、難民の処遇で忙しそうにしていた。このサイハテ村は人手不足だ。すずめ様の魔法があればもっと広く、広大な水田を作る事も可能。難民を受け入れれば人手不足も解消する。短期間で町にすることができるのだ。


「こんなことは本来ありえない。村から町にするなんて代をまたいでも中々出来る事じゃない。それなのにすずめ様の魔法さえあれば、1年とかからず町にできるかもしれない・・・」


 俺が貯えた知識の大半が役に立たなくなった。わずか10家族ほどの村だ。1年で生まれる子供はよくて3人程度。10年で30人人口を増やしても高齢で亡くなる者もいるから、50人くらいがいいとこか。それ以上増えても食料不足に陥るか、年貢を納めきれなくなる。緩やかに人を増やして20年、30年後に100人規模の村に育てようと思っていた。

 それが、すずめ様の魔法で田んぼを広げれば、来年には100人以上を賄える穀物の収穫が見込めるのだ。


「30年の計画がわずか1年。もっと先の計画を練らなくてはならなくなった・・・」


 本当に規格外だ・・・。ヨシヒデ殿下が言っていたな。


『イチウならすずめ君の補佐で手柄を上げれば男爵くらいにはすぐになれるさ』


 馬鹿にされていると思った。30年経っても100人規模の村じゃ補佐の俺が貴族になれるはずもない。しかしすずめ様の補佐なら、5年、いや3年あれば大きな町に出来る。そうなれば地区を制定して俺が地区長になることも夢じゃない!地区長は騎士爵扱いだ!貴族になれるんだ!


「男爵くらいならすぐになれるか。そうだな。20代のうちには男爵も十分可能だろう。ヨシヒデ殿下はすずめ様のことをよくわかっていたんだな」


 すずめ様がアサヒナ様なら、ヨシヒデ殿下の従妹にあたる。知らないわけがない!


「すずめ様の元で手柄を上げて、俺は貴族になる!」





【すずめ】


「長い間護衛の任務ご苦労だった。感謝する」

「・・・坊ちゃんからそんな言葉を頂けるとは思ってませんでしたぜ。いえ、勿体ないお言葉でございます。宰相様にも無事赴任されたとご報告いたします」


 カージナルさんとは違い、イチウ様の護衛隊長さんは随分おちゃらけた方ですね。ですが後半は襟をただしてイチウ様に敬礼されていました。今日を持って宰相様のご子息からわたしの補佐の役人となります。一般市民になりますので護衛の任務も終了だそうです。高級市民ではありますが。


「えっと、そう言えば隊長さんに自己紹介をしていませんでしたね?失礼しました。わたしは山田すずめ騎士爵と申します。あなたは?」


 頭をぺこりと下げて名乗ると隊長さんをはじめ、護衛の方たちが全員片膝をつきました。


「我々は坊ちゃん、いえ、イチウ・サン・ブギョウ様の護衛任務に当たっていた、ブギョウ侯爵貴下の警護隊員です。わたしは隊長を任せられているドマティーニと申します。我が隊員のために回復ポーションをご使用くださり感謝いたします」

「そんなに畏まらないでください。わたしなどまだ12歳の小娘ですから。それより王都へ戻られるなら頼みたいことがあるのですが?」


 イチウ様に対する態度はおちゃらけてはいても愛を感じます。信用できる方のようです。


「私どもにできることであれば」

「これをトモエゴゼン様とベニヒ様に届けて頂きたいのです」


 そう言って綺麗な木箱に納められたべっ甲細工の櫛をドマティーニさんにお渡ししました。


「3つございますが?」

「最後の一個は宰相様へのお礼です。それなりに価値はあると思いますので、輸送のお駄賃は宰相様にねだってください」


 それを聞いたドマティーニさんと隊員のみなさんはきょとんとしたお顔をなさいました。わたしまたなにか変な事を言ってしまったのでしょうか?


「あっはっはっは!面白いお方ですな~坊ちゃんが惚れるのも無理はない」

「ばっ!何を言ってるんだ!俺は別に・・・」

「ふぅ~、お引き受けしやしょう。必ずやご本人にお届けします。そして宰相様からボーナスを弾んでもらうことにしやすぜ!」

「よろしくお願いいたします」


 こうしてイチウ様の護衛として2度に渡りサイハテ村を訪れたドマティーニさんたちは、王都に向けて去っていきました。サラマンダーの討伐はラプトルさんに止められたのでまたの機会です。そのためドマティーニさんたちは東から迂回して王都に戻るそうです。どこかでカージナルさんたちに会うかもしれませんね。

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