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77話:チュンチュンは心配性?

 回復ポーションが間に合いキノさんは一命を取り留めました。しかし出血が多く、失った血までは元にもどらないので新居で療養することになりました。


「申し訳ありません・・・わたしが村の守りを手薄にしたばっかりに、キノさんに大怪我を負わせてしまいました・・・」

「気にしないでください。すずめさ・・・チュンチュン様はわたしたちより年下なのによくやっています」


 キノさんが寝ているベットの脇に腰を降ろして頭を下げました。年貢のことに頭がいっぱいになり村の守りを手薄にしたのはわたしのミスです。いくら時間がないからと言って村の人に犠牲者が出てしまったら本末転倒です。みなさんが平和で幸せに暮らしていくために頑張らないといけないのに・・・。


「それに、レモニアにプレゼントしてくださった服が俺たちを守ってくれたんです」

「え?そのワンピースが?」


 キノさんとレモニアさんが脱穀した粟を村の倉庫に運んでいる時、翼竜が襲ってきたそうです。キノさんは咄嗟にレモニアさんを倉庫に押しやり自らがおとりになったそうです。翼竜の一匹がその鋭い爪でキノさんをわし掴みにして空中に飛び上がろうとした時、倉庫を飛び出したレモニアさんがキノさんに抱きつきました。二人を抱えたままの翼竜が壁を飛び越えた所で何かに嫌がって二人を解放したそうです。階段に落ちた二人は隠れる所がない階段から海岸の岩場に避難することにしました。海岸に降りてからも翼竜は遠巻きに威嚇するだけで二人に手をだしませんでした。そしてキノさんが出血多量で死にそうになった時にわたしが駆け付けたそうです。


「もしかして、退魔液を吸い込んだそのワンピースが?」

「おそらくは。退魔液は魔物にとっては相当臭いそうですから、レモニアの匂いで近づけなかったみたいです」

「それじゃわたしが臭いみたいじゃないですか!?チュンチュンが下さったこのワンピースがわたしたちを守ってくれたんです。本当にありがとうございました」


 わたしのミスでお二人が危険な目にあったと言うのに、お礼を言われて涙腺が緩んできました。みなさんわたしのミスを糾弾することもなく、「よくやっている」、「頑張っている」と言って下さいます。こんなへっぽこな領主兼村長でみなさんに迷惑ばかりかけています。仕事を割り振る手際も悪いですし、突然の思い付きで行動をして予定も狂わせてばかりだというのに・・・。


 それから二日は村からは出ずに女性陣に混じってナワ作りを手伝いました。アクセサリー作りで手先は器用でしたのですぐにコツを覚え、みなさんとほぼ同じペースでナワを編みます。


「チュンチュンのおかげで心が豊かになったね~」

「そうそう、このべっ甲のアクセサリーなんて王侯貴族だって持ってないって言うじゃない?」

「そうよ、宝石だってべっ甲の魅力には敵わないわ!」

「あんた宝石なんて見たことないでしょ?」

「みんなだってそうじゃない?」


 ナワを編みながらみなさんの笑顔と笑い声が響きます。わたしも釣られてぎこちない笑顔を浮かべます。この場には成人女性が全員集まって米俵の製作作業をしていますが、レモニアさんだけは旦那さんの看病のために作業を免除しています。普通の村では畑や田んぼは個人の所有物で、管理収穫などはその方の責任で行います。年貢は各家庭から人数分が村長の元に集められ、村長がまとめて王都に納めるのです。ですがサイハテ村では耕作面積が限られているため、畑は村人全員の共有財産で作業も合同で行います。サイハテ村初の田んぼは荒れ地にわたしが作った物で、わたし個人の物だそうですが共有財産として村に寄付しました。そのため収穫は全員で分配することができますが、作業も負担していただかなくてはなりません。頭数で分配するので子供だって働かなくてはならないのです。


「わたしちょっと田んぼの様子を見てきますね。子供たちだけだと心配ですので・・・」


 村の子供たちは田んぼの雑草取りや害虫駆除のお仕事をしています。村の中心で行うナワ編みの仕事と違って村はずれの田んぼでの作業です。一応村の周囲には精霊シスターズに警護してもらっていますが、どこかから魔物が侵入してこないとも限りません。不安になって田んぼまで走りました。





「チュンチュンは苦労性だね~」

「子供たちの事が心配なのよ。いい村長さんじゃない?」

「そりゃそうよ!チュンチュンほどのいい村長さんなんてどこを探したって見つかるわけないわよ」

「そうね、ただチュンチュンは真面目過ぎるから心配だわ・・・。頑張り過ぎて倒れたらと思うと、不安で仕方ないし・・・」

「このサイハテ村は良くも悪くもチュンチュンにかかってるしね」

「まだ子供のチュンチュンに頼らないとわたしたちは生きていけない。申し訳なくて涙がでてくるわ」

「せめて何かお礼が出来たらいいんだけど」

「わたしたちに出来る事って何かしら?」

「「「「ん~~~~・・・」」」」





 水田に来てみると子供たちの姿がありませんでした。


「え!?ど、どこにいるの!?」

《何かあったのか?》


 わたしの護衛をしているラプトルさんが追いかけてきました。説明する心の余裕もありません。わたしはキョロキョロと当たりを見回します。まさか魔物に連れ去られたとか!?精霊シスターズからは何も連絡はありません。魔物が侵入してきたとは思えないのですが!?すると頭の上のわらび餅が触手を伸ばして奥にある水田を指さしました。


「見つけたのですか!?」


 稲の苗が邪魔をしてよく見えません!わたしは水田を迂回して隣の水田に向かいました。すると村壁の目の前に子供たちが集まっています。良かった全員無事のようです。何かあったのでしょうか?


「みんな!大丈夫ですか!?」

「あ、チュンチュンだ!」

「チュンチュンが来てくれた!よかった~」


 子供たちの元まで辿り着くと壁の向こうに誰かいると教えてくれました。この村は周りを掘りと壁でぐるっと囲んでいて出入口がありません。来客を想定していませんでした。


「わらび餅」


 頭の上から降りたわらび餅が変形して再びサーフボード状態になりました。その上に乗るとゆっくりと上昇して壁の上に連れて行ってくれます。


「あ~チュンチュンのパンツは絵が描いてある~!」

「ほんとだ~!」

「こ、こら~見るんじゃありません!」


 慌ててスカートを押さえます。わらび餅が透明なので下から丸見えでした・・・。壁の上でわらび餅から降りると壁の端に向かって走ります。そこから見えたのは掘りの向こう側にいる馬車の一行でした。所々幌は破れ、護衛の兵士には怪我をしている人もいます。そして馬車から降りてこちらを見上げているのは、久しぶりに見るイチウ様のお姿です!


「すずめ、様。退魔液を持ってただいま戻りました」


 その手に持っているのは小さな瓶に入った緑色の液体、待ちに待った退魔液です!

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