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76話:翼竜の襲撃!

 カージナルさんたちが旅立って4日が経ちました。予定ではそろそろ東の港町に到着する頃です。村では粟の収穫を終え脱穀も済ませました。女性陣はワラ縄を作り始め、男性陣は荷車の製作に汗を流しています。そしてわたしはカージナルさんに言われた通り村の中で自重・・・してませんでした。

 荷車に乗せられる米俵は馬で引くなら15俵、人力なら3俵が限界です。王都まで馬車で13日もかかります。馬の調達がうまくいっても最低5つは大きな荷車を作らなくてはなりません。しかしそれだけの荷車を作る木材が足りないのです。そのため再び森に木材調達にやってきました。


「精霊シスターズ!周囲の警戒をお願いします!ラプトルさん、わらび餅、わたしの護衛をお願いします!」

《まかせろ》


 頭の上で敬礼をするわらび餅とわたしの前に立ち槍を構えるラプトルさん。それから30mほど先に20人の精霊シスターズがわたしを中心に円形に配置しました。

 ゴムの木がある森の浅い場所は割と見通しもいいのですが、その先の杉の木がある地帯からは下草が茂っていて見通しがききません。しかし精霊シスターズの目とラプトルさんの熱感知、そしてわたしの一覧表示で魔物を見逃すことはありません。


 ピーッ!


 右前方から口笛の音が聞こえてきます。精霊シスターズはしゃべることは出来ませんが口笛で合図を送ることが出来ました。最初はわざわざ飛んできていましたがこれなら連絡が手早く出来ます。


《オオカミっぽいな。8匹やってくるぞ》

「こちらでも見えました!フォレストウルフですね!目標フォレストウルフ、岩散弾ガトリングストーン!」


 100発を越える握り拳大の岩礫がフォレストウルフの群れに襲い掛かります。


 キャインキャイン!


 命中した直後に5匹の表示が消えました。頭に命中して即死したようです。2匹は生きていますが肉体数値が著しく低下してもう動くことは出来なさそうです。そして最後の一匹はラプトルさんが槍で一突きして倒しました。続けて左側からも口笛が聞こえます。息つく暇もありません。


《大物だ!ジャイアントだ!》


 ズーン・・・ズーン・・・


 わたしの一覧表示外ですがすでに姿が見えています。5mはある巨人です!こんな魔物もいるんですか!?よく今までサイハテ村は無事でしたね・・・。名前は・・・サバイバルオーガ、ですか。確かに強そうですが大きな魔物の方がわたしにはやりやすいですね。


「張りつけ 水球ウォーターボール!」


 ボゴッ・・・


 サバイバルオーガの頭に水の球が命中しそのまま顔を覆ってしまいます。生き物なら呼吸をしなければなりませんから鼻と口を水で塞がれたら終わりです。しばらく地面を転げまわって暴れていたサバイバルオーガですが、やがてビクッビクンと痙攣して動かなくなりました。大きくても人型をしている魔物を倒すのはまだ少し抵抗がありますが、殺さなければ殺されるのです。見逃せば村人の誰かが犠牲になるかもしれません。もう二度とパオラさんのような目にあわせたくないのです。


『経験値が貯まりレベルが32になりました。スキルポイントを32獲得し32となりました』


 あれ?前回のレベルアップからさほど魔物を倒していませんがレベルが上がりました。窒息魔法であっさり倒しましたが、このサバイバルオーガってもしかしてすごく強かったのでしょうか・・・?


《魔物にはテリトリーがある。これだけの森ならばテリトリーを守るエリアボスと呼ばれる魔物が何匹かいるだろう。このジャイアントはそのうちの一匹かもしれないな》


 なるほど。テリトリーを守るエリアボスだから森の外には出ないということですね。それで村が無事だったのですか。今回は巡回でもしていたのかたまたまわたしに出会って・・・運がなかったですね。

 それからも数回魔物の襲撃がありましたがすべて撃退し、ゴーレムさんたちによる伐採作業を終了し村に戻りました。


「ただいま戻りました」


 村の広場に戻って来ると村人全員がわたしの小屋の前に集まっているのが見えます。何かあったのでしょうか?


「あ!すずめ様ぁあああああ!!」


 オイレボさんがわたしに抱きついてきます。その他の村の人たちも口々にわたしの名前を呼んで膝まづいてきます。土下座は禁止しているので膝立ちで手を合わせています。わたしの呼び方も元に戻っていますし、何かあったのでしょうか?


「実は先ほど・・・」


 油断です!!なぜこのことに思いいたらなかったのでしょうか・・・。


「翼竜が襲撃してきた!?」


 イチウ様がこの村にやってきた時も3匹の翼竜に襲われていました。この辺りは翼竜のテリトリーなのです!魔取り線香を切ってしまえば当然襲撃の可能性もあったのにすっかり失念していました・・・。しかし、それならなぜみなさん無事なのでしょうか?


「この魔物避けのお守りは使用していなくてもわずかに効果を発揮するのです。わずかな範囲ですがこの近くにいれば魔物は襲ってきません。ですから前々村長もこのお守りである祠の隣に小屋を建てさせたのです」


 なるほど、蚊取り線香だって火をつけなくても匂いはします。退魔液のわずかな匂いで翼竜も近づけなかったのですね。


「それでは全員無事なのですね?」

「それが・・・新婚のキノとレモニアの姿がないのです・・・」

「なんですって!?」


 ギャアギャア!!


 その時海岸の方から翼竜の鳴き声が聞こえました!階段前には岩で壁を作っていますがその向こう側から翼竜の翼の羽ばたきが見えます!


「精霊シスターズ!」


 わたしの声に応じて目の前に水精霊20人の美女たちが現れました。そして翼竜に向かって一斉に突撃を始めます。あそこにキノさんとレモニアさんがいるのですね!少しでも翼竜の気をそらさないと!

 わたしは必死に階段に向かって走ります。階段手前には岩壁がありますが一々動かしている暇はありません。かと言って破壊してしまうと階段の向こうにいるお二人が岩の破片で怪我をしてしまうかもしれません。それなら!


「わらび餅!」


 同じ水精霊の一人であるわらび餅は、わたしの求めが分かっているかのように頭の上から飛び降りると、平たい板状に変化しました。見た目はサーフボードです。そして精霊シスターズと同じ存在であるからには空を飛ぶことだってできます!

 わたしを乗せたサーフボード状のわらび餅は岩壁を乗り越え、断崖絶壁から空に飛びあがりました!半透明のスライムであるわらび餅に乗っているため、はるか崖下の海岸が透けて見えます。咄嗟の事でわらび餅に乗ってジャンプしましたが数十mの高さに眩暈がします。膝はガクガクと震え少しおしっこもちびってしまいました。だってこれって高層ビルの上からの紐なしバンジーと同じですよ!!


「きゃあああああああああああっ!!」

「レ・・・レモニア・・・」


 レモニアさんの悲鳴で我に返りました。海岸の岩場に倒れたキノさんと、そのキノさんに覆いかぶさっているレモニアさんの姿が見えます!そしてその二人の側には翼竜が2匹少し離れて威嚇しています。どうやら二人は無事のようです。しかしなぜ翼竜は二人を襲わないのでしょう?考えている暇はありません!二人から離れているのなら好都合です!


「目標翼竜!水槍ウォータージャベリン!」


 身体の左右に現れた巨大な水槍が、渦を巻きながら翼竜に殺到します。空を飛んでいるのならともかく、地面にいる翼竜は咄嗟に飛び立つことも出来ず水槍に貫かれました。背後では20人の精霊シスターズにズタズタにされた最後の一匹が墜落していきます。


「お二人ともご無事ですか!?」

「ああああああああああ!!す、すずめ様ぁあああああ!!キノが!キノがぁ!」


 安心したレモニアさんがわたしに抱きついてきます。どうやらレモニアさんは擦り傷程度でたいした怪我はないようですが、キノさんが大怪我を負っています。


「キノさん!意識はありますか!?」

「は・・・はい・・・なんとか」


 見た感じでは翼竜に捕まれでもしたのか爪によると思われる刺し傷が数か所見てとれます。このままでは出血多量で命が危ないです!


「わらび餅!小屋にあるわたしのかばんから回復ポーションを取って来てください!」


 わらび餅は触手でビシッと敬礼すると弾丸のように細くなって真上に向かって飛び去りました。


 また失敗しました・・・。


 カージナルさんたちがいないのですから村の警護が薄くなることは分かっていたはずですのに・・・。


 翼竜の存在もわすれていたなんて・・・わたしは領主失格ですね・・・。

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