75話:物資調達任務です!
9月になりました。田植えから半月が経ち苗はみるみる成長しています。この半月で10歳以下の子供たちのお仕事が出来ました。田んぼの雑草取りです。魔法でなんとかできないかと思いましたが、水精霊さんは草を掴むことが出来ず、ゴーレムさんは泥に埋まって動けません。試しに子供たちに頼んでみるとみんな楽しそうに雑草取りに夢中になりました。ほどよく泥に埋まって足も鍛えられますし、かがまなくても草に手が届くので腰を痛めることもほとんどありません。お駄賃で翼竜のジャーキーを上げるとみんな大喜びです。
新婚さんであるキノさんとレモニアさんの新居も完成しました。そして簡易的ではありますが結婚式も挙げました。この世界の結婚式は教会か領主に幸せになるという宣誓をするそうですが、村長不在だったのでできなかったそうです。
「病める時も健やかなる時も、お互いを愛し続けることを誓いますか?」
「「は、はい!」」
「それでは領主としてこの山田すずめが二人の結婚を祝福します!おめでとうございます!」
「「ありがとうございます!」」
見よう見まねでしたが無事に司祭役もこなせたようです。夫のキノさんはともかく、奥さんになるレモニアさんにウェディングドレスの代わりとして、わたし用にイチウ様が持ってきてくださったワンピースをプレゼントしました。10着あったのでどれがいいか選んでもらいましたが、レモニアさんは白系のワンピースではなく退魔液で染まってしまった緑色のワンピースを選びました。この世界ではとくに白いウェディングドレスという概念はないのですね?
キノさんとレモニアさんの新居を作った後、余った建材で村長の家の修復もおこないました。正確には村長の家ではありませんでしたけど。
小屋の修復を行っている時、オイレボさんが申し訳なさそうにこの小屋の真相を教えてくださいました。実は村の中心にあるこの小屋は、前々村長が建てさせた避難小屋だったのです。
町長や村長はどうやって選んでいるのかと言うと、実は魔力の有無で判断されていたようです。よく考えたら魔取り線香は魔力で充電しなければならないので、魔力がなければ使用することが出来ません。歴代村長が充電しながら使っていたようなのですが、元々魔力持ちが少ないことと、こんな辺境の村ということで高魔力の方が赴任してこないので、まともに作動させられなかったのです。そして森から一番遠い火山側にあった村長の屋敷が、魔取り線香の範囲外になってしまい翼竜に襲撃され全壊したそうです。そしてそれに恐れをなした村長が、魔取り線香の真横に避難小屋を建てさせたということでした。
「どおりで村長の家にしては小さすぎると思いました・・・」
いくらなんでも6畳一間なんて、わたしが入院していた部屋より狭いんじゃないですか?わたしの部屋には無駄に機材が一杯あったので手狭でしたけど。いえ、無駄じゃないんですけどね・・・。
「今度はカージナルさんたちの新居も建てましょうか」
カージナルさんから相談を受けた次の日、お二人は無事結婚することが決まりました。散々迷った挙句カージナルさんが「俺の背中を守ってくれ。俺がお前の背中を守る」とプロポーズしましたが、リステにはまったく伝わらず「わかりました。どこに調査にいくのですか?」がお返事でした・・・。困ったカージナルさんがわたしを振り返ったので、頭を抱えながら水で地面にカンペを書きました。
「け・っ・こ・ん・し・よ・う?」
「は・・・はい」
世話の焼けるお二人です。結局ストレートに伝えれば良かったのです。かなりの歳の差婚ですが、長年一緒に王室警護のお仕事をしていたお二人です。きっと息もぴったりな夫婦になってくれることでしょう。
明日は粟の収穫を行い脱穀した後、ワラを使って米俵を作っていきます。年貢を運搬するための荷車の製作も必須です。馬がいれば良かったのですがこの村には一頭もいないそうで、わたしのキナコとミタラシが唯一の馬です。ですがたった2頭の馬で米俵100俵近くの数を運ぶことは出来ません。わたしの魔法があれば農耕馬は必要ありませんが、荷運び用の馬は必要なのです。最初はゴーレムたちに運ばせようかと思いましたが、「魔法を使いこなせる」王族がいることが知られると面倒な事になるからと止められました。わたしは王族じゃないんですけどね。でも、謁見の場で王様もわたしが魔法を使えることは伏せていましたし、あまり大っぴらに使うのはまずいのでしょうね。
運搬用の馬に粟を収穫した後の野菜用の種や苗、それに鶏などの家畜も手に入れたいです。王様にいただいた準備金の金貨20枚もありますし、やはりどこかで購入すべきでしょう。一番の最寄町はここから北東に4日ほど行った所にある港町です。村なら数か所あるそうですが、馬や家畜も購入できるお店は町までいかないとないそうです。キナコとミタラシに乗れて、馬と家畜の購入が出来、腕っぷしも立つ人となると・・・カージナルさんたちしかいませんよね。家が出来るまでまだ数日はかかりますし、ちょうどいいので新婚旅行を兼ねて町まで出かけて頂きましょう!
「カージナルさん、リステ」
「「はっ!」」
「お二人には新婚旅行・・・もとい、馬や家畜の仕入れ任務で町まで行っていただきます!」
新婚旅行だと言ったら絶対お二人は「そんなものは必要ない」とおっしゃいます。ええ、間違いないです!ですが「任務」と言えば拒否はしないはずです!
「任務であればお受けしますが・・・すずめ様の護衛任務が・・・」
「ラプトルさんは残りますし、わらび餅もこの通りいつも護衛してくれています」
そう言うとわたしの頭の上にのっかった水精霊スライムのわらび餅が、にゅっと触手を伸ばして親指を立てた形にすると「まかせろ!」と合図を送りました。
「最近の夜の警備は精霊シスターズだけで十分ですし、パッセロの町よりも防御力の高い村ですから大丈夫です!」
「・・・わかりました。無事任務を果たして帰還してみせます。ですのでどうかすずめ様も魔物退治などしないでご自重ください」
それじゃなんだかわたしが魔物狩りを楽しんでるみたいじゃないですか。違いますからね!降りかかる火の粉を払っているだけです!火の粉が降ってこないかな~っとか思ったりしていません!レベルは上げたいですけどね。
翌日、あらためて購入してほしいものを書き留めた紙を渡すと、金貨も10枚持たせました。金貨10枚で一千万円です!キナコたちを購入した時は二人と馬車を合わせて銀貨70枚ほどでした。ん~二人が60枚で馬車が10枚?二人で40枚で馬車が30枚くらいでしょうか?間を取ってキナコたち一人が銀貨25枚だとすると、4頭で金貨1枚くらいでしょうか?鶏の相場がまったくわかりませんが、馬ほど高くはないでしょうから問題ないと思います。
「それでは頼みますよお二人とも。魔物の襲撃には十分注意してください」
「はっ!すずめ様も我々が戻るまであまり外にでませんように。すずめ様の魔法があれば魔物ごときに遅れをとるとは思いませんが」
森でストレンジモンキーに殺されそうになったことは・・・乙女の秘密です。
「チュンチュンは意外に抜けていますから心配です。ラプトルさんよろしくお願いします」
《ん?なんだ?お土産なら肉がいいな。旅の間にしっかり交尾して早く人手を増やしてくれよ》
ラプトルさんにはリステの言葉がまったく伝わっていません。あまつさえ交尾だなんて・・・その辺はやっぱりトカゲなんですね・・・。そして、誰が抜けているんですか!?
「カージナル!」「プリステラ!」「「これより物資調達任務に出発します!」」
お二人がビシッと敬礼をして馬車に乗り込みました。しばらくのお別れです。わたしは大きく手を振って二人の旅立ちを見送りました。
「行ってらっしゃい!気を付けて!」
《10人は産んでくれよ》




