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74話:油断大敵と応接不暇。

「すずめの求めに応じて 敵を撃て 水槍ウォータージャベリン!」


 正面に立ち塞がったエルダートレントの幹に水の槍が突き刺さりました。水の槍は突き刺さった直後にただの水に戻り地面を濡らします。幹に大穴が開いたエルダートレントはすでに息絶えたようでピクリとも動きません。これで最後ですかね?周囲を見回しますがわたしの索敵範囲である半径20m以内には魔物の姿はありません。最近頭の上が定位置となったわらび餅も、触手を伸ばしてOKマークを作ります。念のためにラプトルさんにも確認しますが、熱感知でも魔物は見当たらないようです。


「大丈夫です。近くの魔物は全て倒しました。伐採作業を続けてください」

「「「はい!」」」


 昨日オイレボさんにお願いされた木の伐採をするために南の森にやってきました。

 カージナルさんはリステの求婚の返事にまだ迷っています。わたしが森に行くと言ったら護衛に付いて来るとおっしゃいましたが、集中力が散漫になっているので留守番してもらうことにしました。ご自身でも集中できないことに気づいているようで、不承不承頷いてくださいました。そして出発直前に報告し忘れていたことがあると言って、森にある不思議な木のことを教えて下さいました。


「白い樹液、ですか?」

「はい。粘り気が強く少し変な匂いがしますので食用にはむかないと思いますが、見たことがない木でしたので一応報告しておこうかと」


 カージナルさんの報告でピンときました。わたしの記憶にそれによく似た木があるからです。わたしの趣味である髪飾りの材料としてとても重宝するそれは、白い樹液から作られるものなのです。


「もしかして天然ゴムですか!?」


 森に来てみると確かに白くドロッとした樹液の垂れている木を見つけました。と言うか辺り一面ゴムの木だらけです!


「ゴムです!ゴムをみつけましたよ!」

「ゴム?とは一体なんなのでしょうか?」


 雑貨屋で見つけられなかったのでもしやと思いましたが、やはりこの世界にはゴム製品がないようです。天然ゴムが手に入るのなら、あとは蟻を集めて硫黄が手に入ればゴムを作ることが出来ます!すぐにでも作業にかかりたいのですが、今日は建材探しにきているので泣く泣くあきらめます。ですがこれを見つけたからには必ずゴムを作りますよ!サイハテ村の特産品第二号はゴムに決まりです!

 後ろ髪を引かれながらも森の奥に進み、真っすぐに伸びた杉の木の伐採を始めました。真昼間ですがさすがに森の奥まで入って来ると度々魔物が襲ってきます。魔物を撃退していて気づいたのですが、魔物によって効きやすい魔法と効きにくい魔法がありました。移動中によく遭遇したのが木に擬態した【トレント】という魔物ですが、水魔法はよく効きますが土魔法はほとんど効きません。水は形を変えて鋭い槍状にすればトレントを貫くことも容易ですが、土を固めた岩の弾丸は少し抉る程度でした。逆にオオカミなどの動物系には岩の弾丸が面白いように効きます。防御力の問題ですかね?


《お嬢、上から魔物が来るぞ》


 ラプトルさんの忠告に上を見上げますが20mよりも遠いのか一覧表示が出ません。ラプトルさんの熱感知はわたしの一覧表示より範囲が広いのですね。魔法の準備をして待っていると前方斜め上に5匹の魔物の表示が出ました。


「ストレンジモンキー?おサルさんですかね?とりあえず岩散弾ガトリングストーン!」


 無数の石礫を木々の隙間に打ち込むと3匹のおサルさん?が落下してきました。木が邪魔で2匹には当たらなかったようですね。わたしはすぐに次の魔法の準備をします。周囲の木々が激しく揺れ少しづつ迫ってきますが姿が見えません!?表示はすぐ目の前です!


 バキッ!


 わたしの眼前に振り下ろされたラプトルさんの槍と、頭の上にいたわらび餅の触手が見えない何か、いえ、ストレンジモンキーを地面に叩きつけました。


《次が来るぞ、トドメを刺せ!》


 わたしは反射的に何もない地面に向かって水の槍を撃ちこみます。


水槍ウォータージャベリン!」


 グェッ!


 水の槍が命中した地面からうめき声と真っ赤な血が噴き出しました!ストレンジモンキーは透明なんですか!?いえ、これは保護色ですね!息絶えたストレンジモンキーが徐々に姿を現し始めました。見た目は確かにおサルさんのようですがガリガリに痩せていて手が異様に長いです。こんな魔物もいるのですね・・・。ラプトルさんがもう一匹のストレンジモンキーを倒して戻ってきました。熱感知を持つラプトルさんには保護色は意味がないようです。


「すみませんラプトルさん、助かりました」

《お嬢の魔法はすごいが、まだまだ経験が足りないな。ヤバイと思ったら迷わず森ごと吹き飛ばせ》


 確かにそうすれば倒せたでしょうが周りの被害を考えてしまいました。ラプトルさんとわらび餅がいなければ死んでいたかもしれませんね・・・。村のみんなを守らなければいけないのに油断していました。


 ブルッ・・・


 今頃になって震えがきました。ストレンジモンキーはイベントボスと比べるべくもないほど弱いのに、一歩間違えれば殺されていたかもしれないのです。一覧表示は見えていたのですから迷わず魔法を打ち込むべきでした。天然ゴムを見つけて浮かれていたのかもしれません。


 ここは、この場所は生きるか死ぬかの世界なのです。改めてそのことを思い知らされました。その後は水魔法で水精霊さんたち、わらび餅だけに名前をつけたせいでみなさん少しすねているので、これからは精霊シスターズと呼びます。を生み出すと周囲の警戒をお願いしました。頭の上のわらび餅にも先ほどのお礼を言いながらご褒美のなでなでをします。ラプトルさんにわらび餅、そして精霊シスターズがわたしを守る為に頑張ってくれているのです。もう二度と油断はしません!

 その後も村人の護衛をしながら木の伐採を続け、お昼近くに予定量の建材の伐採が終了しました。運搬には土魔法でゴーレムさんを作り出し村まで運んでもらいます。水精霊さんといい土のゴーレムさんといい、まるで意思でもあるかのように動きます。本当にどこかから召喚でもしているのでしょうか?時間が出来たら検証してみたいですね。

村に帰る道すがら、警戒しながら今後のことを考えます。まずは年貢のための水田の管理。稲作の経験者がまったくいませんから、最悪予定量が収穫できなかった時のことも考えなくてはいけません。来月には粟を収穫しその後すぐに野菜を植えたいので種の入手。そしてべっ甲細工の特産品化にゴムの生産に向けた準備。やることが山積みです!人手がいくらあっても足りません!どこかから移住者でも募りますか?でも、こんな辺境の村に来てくれる人なんているでしょうか?そんなことを考えているといつの間にか村に戻ってきました。

 そして木の運搬を終えたことで久しぶりに熟練度が貯まりレベルが上がりました。


「すずめ様ご無事で」

「はい。ただいま戻りました」


 村に帰って来ると入口でカージナルさんが出迎えてくださいました。森でピンチに陥ったことは黙っておきます。心配をかけてはいけませんしね。


「すずめ様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「どうかなさったのですか?」


 カージナルさんが真剣な表情をしています。もしかしてリステのことで結論が出たのでしょうか?


「もし、お許しをいただけるのでしたら・・・プリステラを妻にしたいと思います」

「そうですか!それはよかったです!おめでとうございます!」

「そこでご相談なのですが・・・」


 なんでしょう?結婚式をあげたいのですかね?それとも新婚旅行?・・・あ!お二人の新居でしょうか!?結婚したらその・・・あれやこれや色々あるのでしょうし・・・お二人だけになれるお時間も作ってあげませんといけませんよね?


「プリステラに何と言えばいいのでしょうか?・・・」

「は?」


 カージナルさんが何を言っているのか理解できません。リステから結婚を申し込まれたのですからお返事をすればいいだけではないのですか?


「プリステラから結婚したいと言われて舞い上がってしまいまして、気の利いたプロポーズの言葉を考えたのですがいい案が浮かばず・・・思わず考える時間がほしいと言いましたが、未だにいい言葉がみつからないのです」


 ええええええええええ!?考えるって結婚するかどうかじゃなくて、気の利いた言葉を考えていたのですか!?


「プロポーズの言葉も何も、カージナルさんはプロポーズされた側なのですから「はい」でも「結婚しよう」でも何でもいいじゃないですか!?」

「それではダメなのです!結婚した元同僚たちも言っていました!結婚して10年以上経っても、泣きながら求婚してきたから仕方なく結婚してあげただの、わたしがいないとダメな人だから拾ってあげただのと、事あるごとにダメ出しをされると!!」


 それは確かに情けないですけど、奥さんも照れ隠しでそう言っているだけで、本当にそう思っているわけではないんじゃないでしょうか?


「すずめ様のお知恵で、気の利いたプロポーズの言葉をご教授願えないでしょうか?・・・」


 この忙しい時にこんなくだらない、おっと少しはオブラートに包まないといけません。えっと、え~っと・・・めんどくさいですね・・・。

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