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73話:初めての田植え!

「それでは田植えを始めましょう~!」

「「「「お~!」」」」


 サイハテ村で初めての田植えです!今朝の漁が終わったあと、村人総出で田植えをおこないます。慣れない田んぼで足を取られてこける人が続出しています。


「若いころに他の町で田植えの光景を見たことがありましたが、まさかこの村で田植えを行えるとは思ってもみませんでした」


 オイレボさんは目に涙を浮かべながら丁寧に苗を植えていきます。おおよそ30cm間隔で苗を植えていきますが、目印に仕えそうなロープも定規になりそうな長い棒もないので目分量です。苗が育った時に風の通りや成長速度にバラツキが出るかもしれませんが、今回は我慢するしかありません。12月の年貢の納付時期に間に合わすには急がなくてはならないからです。


 この世界には四季がありません。それどころか天気の変化もないのです。年中同じ気候なので季節感もなく、カレンダーもないのでどうやって1年を計っているのか不思議でした。


「季節ですか?月を見れば分かりますよ」

「月って夜空に浮かぶ月ですか?」

「ええ、ご存知ないのですか?月は3ヶ月ごとに色が変わります。7月から9月までが毎日見えている黄色で、10月から12月までが白、1月から3月までが青、4月から6月までが緑になります。そして日が暮れた時に東にあれば3ヶ月の最初の月で、中天にあれば2か月目の15日、西にあれば3ヶ月目です」


 ファンタジーです!今までも魔物や魔法で異世界であることは理解していましたが、地球の衛星である月が色や位置で日付を教えてくれるなんて、ゲームでしか実現することなんて不可能です!もしかしたらこの地表は球体ですらないのかもしれません。3か月目に西にあった月が、次の月に東に行くなんておかしすぎますもん!


「昨夜は日が暮れた時にほぼ中天に月がありましたね」

「ええ、黄色い月で中天にあるので、今は8月の15日頃ですね」


 見慣れた色の月でしたので色の変化に気づきませんでした。わたしがこの世界に来てそろそろ2か月くらい経ちますので、パッセロの西の森で初めて夜を迎えたのは6月の中頃ということですね。森の中で月が見えませんでしたが、見えていたら緑色のお月様だったのですね。


 おっと、話が逸れてしまいました。今は田植えのお話しです。今が8月の15日頃、ちょうどお盆の時期ですね。オイレボさんによると田植えから収穫まではおよそ三か月だそうです。最初の一ヶ月は水を張った水田で育て、次の一ヶ月は水を抜いて根に呼吸をさせたり再び水をはったりの繰り返し、そして最後の一ヶ月で乾燥させて稲刈りだそうです。そうなると稲刈りは11月の中頃になりますから、その後に稲架(はさ)掛けをして乾燥させ、脱穀した籾米もみごめを俵に詰めて完成するのが12月初旬。それを年内に王都まで運ぶとしたら本当にギリギリです!初めてのことですし不測の事態が起こることも考えられます。俵の準備や荷車の手配、運搬用の人足の確保にその護衛、考えないといけないことは山のようにあります!こういう時のために必要なイチウ様は王都との往復の途上ですし、頼りになるはずのカージナルさんは昨日のリステの告白でずっと物思いにふけっています・・・。一人だけ田植えが遅れていますし、リステは通常運転ですけど。

 村人総出で朝から行った田植えは、50m四方の田んぼ3つが終わるころには夕方になっていました。田んぼをつくるのは魔法で一瞬でしたが、人の手で行う田植えは大変です。わたしの水と土魔法ではさすがに田植えは出来ません。収穫のことも考えると人手がまるで足りませんね。


「オイレボさん、年貢に34石納めるとして、お米が約40石残ると思います。それで1年暮らすのに何人分になりますか?」

「そうですね。町では1年間に一人5俵、約2石ほどのお米が必要だそうですが、この村では元々穀物はほとんど食べていませんでした。一人1石でもみな喜んでくれると思いますよ」


 現在のお魚主体の食事では炭水化物が不足しています。お米主体の食事にするためにはやはり二期作するしかありません。年2回収穫できれば150石分になりますから、年貢で34石納めたとしても50人分以上のお米が確保できます。連作障害が気になりますが、肥料を森から調達してくれば十分可能ではないでしょうか?お米が十分確保できれば粟の畑を野菜畑に変えて、ビタミンも摂れるようにしたいです。この世界の人たちはあきらかに野菜不足です。わたしもビタミンはほとんど果物でしか摂れてません。お肉は大好きですけどやっぱり野菜と一緒に食べる方がおいしいですしね。


 なんとか村を発展させる目途がつきました。今年の年貢をクリア出来れば来年はずっと楽になります。特産品としてべっ甲の開発も行いますし、あと一つ何かあれば町にまで発展させることができるかもしれません。


「すずめさ・・・チュンチュン様、少しご相談があるのですがよろしいですか?」

「オイレボさん?何かありましたか?ちなみに様はいらないですよ」


 一応村のみなさんから「チュンチュン」と呼ばれるようになりました。女性陣や子供は気軽に呼んでくださいますし、若い男性も照れながらではありますが、そう呼んでくれます。ただ年配の男性の方は様を付けないと落ち着かないようなので、無理にとは言ってません。徐々に慣れて下さればよいのですけど。


「実はホルータの長男のキノが先月結婚したのですが、家がないので独り立ちできないのです。それで、家を建てるための木を森まで伐採しに行きたいのですが」

「キノさんって漁でいつも元気に追い込みをされてる方ですよね?ご結婚されてたのですね。それはおめでたいです!」


 サイハテ村の周囲は荒れ地だらけで、小さな池のある村周辺だけがわずかなオアシスになっていました。そして南に百mほど行くと魔物の出現する森の端になります。遠くて村からは良く見えませんが細い木がたくさん生えているのはわかります。あれが建材になるのでしょうか?


「わかりました。わたしが魔物からみなさんをお守りすればいいのですね?」

「い、いえ!す・・・チュンチュン様のお手を煩わせるわけにはいきませんから、魔取り線香を使っていただければ、と」


 魔取り線香は使用を停止していたのであと2日分起動することができます。魔取り線香の効果範囲は森のかなり奥まで届いていることはカージナルさんの報告で知っています。確かに魔取り線香を動かせば木の伐採はできますが、わたしに何かあった時の切り札ですからあまり使いたくありません。イチウ様が予定通り戻ってこれるとは限らないので、わたしの次の生理が来た時に魔取り線香に頼ることになるかもしれないからです。


「うん。やはりわたしが魔法で守った方がいいですね。魔取り線香は最後の切り札にしておきましょう」

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