71話:水田の完成です!え?苗?
「「「「おおおおおおぉぉ・・・」」」」
「いかがですか?」
わたしが作った水田を前にした村人たちから感嘆の声が漏れました。これまで水不足で水田を作れなかったサイハテ村ですが、わたしの魔法で水を出せば何も問題はありません。結局50mx50mの水田を3つ作りました。10mx10mが1aで全部で75aです。1a当たり1石、米俵2.5俵収穫できると聞いていたので、村人34人の年貢に必要な一人1石は余裕でクリアできます。
「すごい・・・この村で稲作ができるなんて・・・」
「これで子供たちに米を食わせてやれる・・・」
立ったまま泣き笑いをする人、泣き崩れる人、夫婦で抱き合っている人、はしゃぎまわる子供たち。表現方法は様々ですがみなさんが喜んでいることはわかります。
「「「「すずめ様!すずめ様!」」」」
ザザザザ・・・
田んぼを見ていた人たちが一斉にわたしに向かって土下座を始めました。わたしを囲むように半円形に土下座されたので、慌ててみんなを起こしてまわります。
「み、みなさん立ってください!そんな土下座されるようなことじゃありませんから!」
「すずめ様はこのサイハテ村の救世主です!」
「最初は子供が領主と聞いて見捨てられたのかと思っていたのに・・・すずめ様は神様です!」
これまでに何度も土下座されましたが、その都度心が泡立つ感じがします。現世では人の役に立つことはおろか、迷惑ばかりかけて生きてきたので、誰かのために何かが出来るだけでわたしは満足なのです!それなのに土下座なんかされると落ち着きません!
「「「「神よ!!」」」」
「や、やめてくださいぃ!!」
ついには神呼ばわりです!わたしが努力して手に入れた力ではなく、ゲームシステムに与えられただけの力です。それなのに神呼ばわりなんてされたら居心地が悪いなんてものじゃありません!!
「みなさんもういいですから立ってください!」
「す、すずめ様、それはご命令でしょうか?」
ああああああああああ!!ついには命令と思われてしまいました!!ふと、土下座の輪の外で楽し気にその様子を見ているラプトルさんに気づきました。なんだかむかつきますね!
「ラプトルさんも見てないで止めてくださいよ!」
《そう言われてもなぁ、俺の言葉は通じないし》
両手を頭の後ろで組んで我関せずの態度です!きぃ~~~~!もういいです!!
「命令です!みなさん立ってください!」
そう言うとみなさんがそれぞれ顔を見合わせながら立ち上がってくださいました。こうなったらついでです!
「いいですか?この村では土下座を禁止します!これは命令です!いいですね!」
「わ、わかりました・・・」
「それと、『すずめ様』も禁止します!」
「えっ!?そ、それではなんとお呼びすれば・・・」
ざわざわとざわついて「じゃあ神様か?」とか「領主様でいいのかな?」などと言う声が聞こえてきます。これ以上持ち上げられたらわたしの精神がもちません!
「わたしのことは今日から『チュンチュン』と呼んでください!」
「「「「ちゅ・・・ちゅんちゅん?」」」」
こう呼んでもらえば少しは親しみも出るでしょう。パッセロの町ではみなさんこう呼んで親しんでくれました。トモエゴゼンさんの一件の後からは王族と勘違いされて「すずめ様」になってしまいましたが・・・。神呼ばわりまでされてしまうと人として終わった気がするのでチュンチュンがいいですね!
「はいみなさん!練習してみましょう。チュンチュンです」
「「「「ちゅ・・・チュンチュン・・・」」」」
「声が小さいですよ~チュンチュン!」
「「「「チュンチュン!」」」」
いい感じです!これで少しは気持ち的に楽になりそうです。
「それではみなさん田植えをはじめましょうか!」
わたしが右手を空に突き出すと、みなさんも釣られて右手を上げてくれます。今はみなさん戸惑っていますが、収穫が出来るころには一面の黄金の海を前に「チュンチュン」の大合唱が聞こえてくることでしょう!
《それでチュンチュン様。肝心の苗はどこにあるんだ?》
「えっ!?・・・」
【イチウ】
なんてこった・・・。この俺がとんだ大失態だ・・・。ようやくすずめに会えたと言うのに、肝心の退魔液を台無しにしてしまうなんて・・・。幌の破れた馬車がまるで俺の心のように見える。俺の特技なんて人よりちょっとだけ知識があることくらいだ。村にいないとすずめに何もいい所を見せられないっていうのに、ひと月近くもただ移動をするだけなんて。
「はぁ・・・」
「元気を出してくださいよ坊ちゃん。まだまだ取り戻せますって」
「こんな馬車の中で移動してるだけで何が出来るっていうんだ!」
そうだよ。何もできやしない。「俺の責任だから」と言って、すずめが気を失っている間に退魔液を取りに戻っているけど、実はすずめが怖かったのだ。俺が退魔液を台無しにしたせいで村の存続問題が起こり、すずめが激怒した。すずめの背後に見えた水龍と土龍の幻が、すずめの怒りの大きさを表しているようで恐怖で震えた。責任を取って退魔液を持ってくるという建前で逃げ出したのだ。目が覚めたすずめの怒りに触れる前に・・・。
「坊ちゃんの特技は本で読んだ知識だけでなく観察眼もあると、あっしは思ってますぜ」
「観察眼?」
「あらかじめ必要そうなものは持っていきましたが、実際に村を見て何か足りない物とかこうした方がいいとか気づいたんじゃないですか?」
足りない物・・・事前にサイハテ村のことは調べておいた。昨年の人口は33人。石高は粟で50石。わずか125俵だ。年貢としては25人分にしかならず、残りは魚介類を売ったお金で米を購入して納めていた。東の海は平坦な土地なので漁港もたくさんあって王都ではそちらの魚介類が流通している。そのためサイハテ村の干物はあまり売れない。ただ、去年は幻の魚と言われるクエが捕れたおかげでなんとか年貢を納められたらしい。しかしそんな博打に毎年頼るわけにはいかないから穀物の栽培は必須だ。近くに川はなく、あるのは村の中心にあった小さなため池のみ。だが、控室でヨシヒデがすずめは魔法を使えると言った。水魔法と土魔法を・・・。王族の中でも魔法が使えるのはごくわずか、それなのに2種類も使えるなんてすずめが王族なのは間違いない。そして水と土の魔法が使えるということは・・・。
「水田が作れるかもしれないと思って苗は村に置いて来たけど、退魔液がなくて壁もない村じゃ水田なんてつくる余裕はないだろう・・・」
実際に村を見て足りないと思ったのは何と言っても退魔液だ!せめて掘りや壁でもあればなんとかなるけどそれがないんじゃなぁ・・・。
王都までまだ数日かかる。それまでに何かすずめの役に立つものを考えないと・・・。




