69話:サイハテ村防衛戦!
「すずめの求めに応じて 我が目となれ 水精霊!」
ゴポッ
わたしの魔法が発動すると、お堀りの水から10cmほどの小さな女の子が幾人も現れました。土魔法で作った壁は今も壁として存在しています。つまりわたしが元に戻れと念じない限り、ずっとそこに存在し続けるのです。ということは水魔法で作った疑似人格を持つこの水精霊だって、一度生み出してしまえば消えずに使役することも可能なはずです。
「みなさんには壁の上で警戒に当たっていただきます。何かあったらわたしに知らせてください」
20人ほど現れた水精霊たちはコクッと頷くと、一斉に壁の至る所に向かって飛び去って行きました。ただ一匹を除いては・・・。水精霊たちにはなぜか個性があり、妖艶なお姉さんのような見た目の子もいれば、幼い子供のような子もいます。そういえばトモエゴゼンさんに見せた水精霊も、この村でデモンストレーションで見せた子もみんな姿が違いますね。わたしの魔法で生み出したのではなく、どこか違う世界から召喚でもした存在なのでしょうか?そしてこの子も。わたしの足元には水精霊の一人・・・一匹がいます。見た目は完全にスライムですけど。
「えっと、あなたも魔物の監視ができますか?」
わたしがそう問いかけると、平べったいわらび餅のような身体から一本の触手のような物が伸びて来て、ビシッと見事な敬礼をしてくださいました。
クスッ
なんだかかわいいですね。
「頼りにしていますよ」
「さすがと言いますか何と言いますか・・・すずめ様の魔法は汎用性が高すぎますね・・・」
スライムの頭(?)を撫でていると、隊長さんが呆れたような感心したような不思議な顔をしています。
「他の方の魔法は、トモエゴゼンさんが一度風魔法を見せてくださっただけでよく知らないのですが、わたしとは違うのですか?」
「国家機密ですからあまり詳しくは言えませんが、国王陛下は火の魔法をお使いになります。生物である以上火の魔法の威力は絶大で、若いころはどんな魔物でも一撃で倒す猛者だったと聞いています。ですがすずめ様の、このような使い方ができるなど聞いたこともありません」
ふむ。プレイヤーであるわたしとこの世界の住人である王様とは何か違うのですかね?そう言えばこの世界の人にはレベルがありませんでした。明らかに違いましたね。
村壁の上にはわたしと隊長さん、プリステラさんにラプトルさん。全員が集合しています。初日から総力戦では後が大変ですが、4人しかいないので仕方ありません。これからはしばらく昼夜逆転の生活になるでしょう。3日も寝ていたのですから初日はなんとか乗り切りたいです。
交代で仮眠を取りながら周囲の警戒をしていましたがしばらくは何も変化はありませんでした。しかし深夜を回った頃一人の水精霊がわたしの元へ飛んできました。魔物の襲撃です!
「来ました魔物です!」
座って休んでいたみなさんが武器を手にして立ち上がります。
「すずめ様、どちらですか!?」
「待ってください、今明るくしますので!」
「明るく!?」
わたしは水精霊の案内に従って壁の上を走ると、水魔法の詠唱を始めました。
「すずめの求めに応じて 姿を現せ 水滴レンズ!」
空中に現れた無数の水球が凸レンズの形に変形し、わずかな月明りを集めます。一つ一つが集める光はわずかですが、それが数百数千の数にもなると、まるで真昼のような明るさになりました。
森側の地面を照らす灯りの中に現れたのは、オオカミの顔を持った人形の魔物でした。その数20ほど。急に周りが明るくなったせいで目が眩んだのか、その魔物は顔を押さえて立ち往生しています。
「あれはコボルトかライカンスロープでしょうか?」
森から村までは隠れる所もない荒れ地です。近くに他の魔物の姿はありません。たったこれだけの数で攻めて来たのですか?他にもいるのかもしれませんが地上に見えているのはこれで全部のようです。
「敵を 撃て 石礫!」
ドドドドド!!
キャインキャイン!
身体じゅうに銃弾のような石礫を浴びたオオカミっぽい魔物は、情けない鳴き声を上げて森に向かって逃げていきました。少しでも数を減らした方がいいのかもしれませんが、イベントボスの時のような大群でもなかったので追い返すだけにとどめました。明るい光の中にいた魔物には、どこから誰に攻撃されたのかもわからなかったでしょう。これに懲りて二度と攻めてこなければいいのですけど。
それから朝までに3度の襲撃がありました。一晩でこんなに来るなんて、今までよく無事でしたねサイハテ村・・・。もしかして魔電池が切れても退魔液が残っていたので、ごくわずかな範囲だけは守られていたのでしょうか?
《ほら、そこの上だ》
「これで最後ですね」
壁を飛び越えようとしていたずんぐりしたフクロウのような魔物を、熱で見つけたラプトルさんが指さしました。水精霊がフクロウのような魔物に飛び蹴りをして撃ち落とすと東の空が白んできました。結局4度の襲撃で約30匹ほどの魔物を撃退しました。最初のオオカミっぽい魔物だけが群れで襲ってきましたが、ほかは数匹だけの襲撃で大した脅威ではありませんでした。やはりあのイベントの襲撃が異常だったのですね。
「みささんお疲れさまでした。初日は問題なく防衛できましたね。これでこれからの防衛計画の目途がつきました。夜の見張りはわたしとラプトルさんが担当します。いいですね?」
「「はっ・・・」」
初めての防衛戦で分かったことがあります。地上の魔物は正直放っておいても問題ありません。壁はおろかお堀りを越えることも出来ないので、近寄ってきてもすごすご森に戻るだけなのです。唯一空を飛べる魔物だけが相手ですが、いくら暗くても水精霊の目からは逃れることは出来ず、わたしが攻撃しなくても水精霊に撃ち落とされた魔物すらいます。正直わたし一人でなんとでもなるのです。ですが何が起こるか分からないので護衛をしてくれる人が必要です。銀狼族である隊長さんも、栗鼠族であるプリステラさんも多少なりとも夜目が効きますが、熱まで見ることが出来るラプトルさんの感覚には及ぶべくもありません。確か蛇が熱感知の能力があるとネットで見た記憶がありますが、蜥蜴にもそんな能力があるのでしょうか?どちらにしても護衛にはラプトルさんが最適ですね。
「その代わりに隊長さんには昼間の村の警護をお願いします。どうしても毎日海にはいかなければなりませんから、海岸や海で村人たちを守ってほしいのです。わたしが寝ている間は階段も通れるようにしているので、村に魔物の浸入を許さないように。信頼してますよカージナル」
「命に換えましても」
このセリフ、どこかの小説で見たことがあるセリフですね。読んでいる時はドキドキしてカッコイイセリフに思えていましたが、リアルで親しい人に言われるとちょっと腹がたちますね。
わたしは片膝をついて頭を下げる隊長さんの前にしゃがみ込むと、両手でほっぺを軽く挟むようにペチンと叩きました。
「命に換えてはいけません。隊長さんが死んでしまうとわたしは悲しみで泣き暮らす事にことになります。カッコ悪くてもいいのです。なんとしても生き残ることを考えてください。これは命令です。いいですね」
「・・・ご命令、しかと拝命いたします」
後ろにいたプリステラさんも同じく膝をついて頭を下げました。二人とも絶対死んではダメですよ。
「さて、それじゃみんなで朝ごはんを食べましょうか!もうお腹ペコペコです」
「「はい!」」
《肉が食いてえなぁ》




