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67話:ご主人様は誰?

 信じられません!退魔液が台無しになるなんて!村の残りは5日分しかないんですよ!

 王様に訳を話して代わりの物を頂けるとしても、ここからパッセロまでが急いでも9日、そこから王都まで4日かかります。どんなに急いでも往復26日もかかってしまいます。間に合いません!単独の騎馬であればもっと早く着けるには着けますが、魔物に襲撃されたらひとたまりもありません。やはり馬車での集団移動が必須です。ようやくイチウ様がやってきたかと思えば、一番欲しかった退魔液がないなんて・・・。どうしたらいいのでしょうか!?


「退魔液が切れてしまったらこの村は魔物の襲撃にさらされます。わたしがここを離れるわけにはいきません・・・隊長さん、プリステラさん、王都へ行ってもらえませんか?」

「ダメです!我々が王都へ向かったら3週間もラプトル殿と二人だけで魔物を喰い留めなくてはならなくなります!無茶です!」


 無茶は承知の上です!それでも他にいい方法がありません。単独の移動は夜寝ている時が危ないので絶対に見張りが必要です。出来るだけ早く移動するためにも「水」が産み出せるわたしとプリステラさんは分かれた方がいいです。ラプトルさんは言葉が通じませんし、王様と交渉するのなら元王室警護隊の隊長さんが行くのが一番です。

 小屋の中にはわたしと隊長さんとプリステラさん、そして小屋の隅でうなだれて正座しているイチウ様だけです。ラプトルさんは小屋の外で誰も近づけないように見張りをお願いしていますが、声は聞こえています。しばらく隊長さんと押し問答をしていましたがらちがあきません。どうしたってこれしか方法はないのです。


「いえ・・・もう一つ方法があります・・・」

「え!?何か方法があるのですか!?」


 隊長さんはそこで少し声を潜めてこう言いました。


「この村を・・・見捨てましょう・・・」

「なっ!?なんてことを言うんですかっ!!」

「しかし!すずめ様の安全を考えるとそうするしかありません!わたしとプリステラは御前からすずめ様を守る様に仰せつかりました!第一はこの村ではなくすずめ様の安全なのです!」


 わたしは年上の方は基本尊敬しています。長く生きているということはそれだけわたしより多くの経験を積んでいるからです。長年入院生活で人の世話に頼らなければ生きていけないわたしでしたから、病院の先生も看護師さんも、入院食を作ってくださった調理場の人も尊敬しています。そんなわたしですが、初めて年上の方に怒りを覚えました!


「カージナル!二度とそんなことを口にする事は許しません!この村はわたしの村です!わたしを守りたいと言うのであれば、わたしごとこの村を守ることを第一に考えなさい!この村をないがしろにするのであれば、例えあなただとしても容赦はしませんよ!!」


 一気にまくし立てましたがまだ怒りが収まりません。ふつふつと身体の芯から魔力が膨れ上がっていくのを感じます。


「カージナル、あなたに問います。あなたの主人は御前なのですか、わたしなのですか!!!」

「す・・・すずめ様・・・」


 怒りに任せてわたしの身体から魔力が噴き出しました。ただでさえ残りの魔力が少ないのに最大威力の魔法力が加わり、イベントボスですら一撃で倒せそうな魔法の奔流です。わたしには見えませんでしたが、後に隊長さんから聞いた話では、わたしの背後に水龍と地龍の幻影が浮かび上がったそうです・・・。

 魔力を放出しきって意識が朦朧としてきました。かすむ目に怯え切った隊長さんとプリステラさんの姿が見えます。やり過ぎてしまいました・・・。お二人も私の事を思って言ってくれたと言うのに・・・後で謝らなくてはいけませんね・・・。するとお二人は姿勢を正して両手を床に着きゆっくりと頭を下げました。


「「わたしどもの主人は、すずめ様です!仰せのままに!」」


 はぁ~よかった。分かってくれたのですね。安心したら力が抜けていきます。少し眠らせてください・・・。





「うぅ~ん・・・身体がだるいです・・・」


 どれくらい眠っていたのでしょう?身体を起こすと寝巻で着ていた肌着が別の物に変わっていました。プリステラさんが着替えさせてくれたのでしょうか?ベットの脇のテーブルに水差しが置いてあり木のコップが伏せて置いてあります。そういえばものすごく喉が渇いていますね。コップにお水を注いでゴクゴクと飲み干すと猛烈な便意を感じました。


「こ、これは!?一体何日寝てたんですか!?」


 入院していた時も尿はカテーテルでいつでもすることが出来ましたが、おっきな方はナースコールで手伝ってもらわなければなりませんでした。個室とは言えオマルでするトイレが嫌で嫌で、何日も我慢したことがありましたが、限界に来たあの時の感覚に近いものがあります。幸い今は自らの足で歩けるのでトイレに行くことができますが、便意を我慢できません!乱れた肌着を直している余裕もないのに、小屋の外に出て裏に回り、併設されているトイレまで我慢できるでしょうか!?


「あれは?・・・」


 トイレがあるはずの場所の木の板が壊れていて、部屋の中からトイレが見えています。もしかしてここから・・・。


 ベキッ


「取れました!」


 部屋とトイレを仕切っている壁板が以前の魔物の襲撃で壊れていたらしく、少し引っ張っただけで外すことができました。ちょっと狭いですが隙間からトイレに身体を滑り込ませると、肌着をたくし上げてパンツを降ろし和式便所に座り込みます。


「間に合いまし・・・」

《こちらから何か物音が・・・》


 ガチャ・・・


 薄暗かったトイレが、背後からの太陽の光に照らされて眩しいくらいに明るくなりました。鍵を閉め忘れてました。ふだんは扉を開けて入りますから無意識に鍵を閉めますが、横の壁から入った為閉める扉もなく鍵の事をすっかり忘れていたのです。太陽の視線と縁のなかったわたしのお尻が、恥ずかしさで赤くヒリヒリしてきます。そして座り込んだ姿勢のまま振り向くこともできないわたしに、ラプトルさんが声をかけてきました。


《なんだお嬢、いつの間にここへ?便所へ行くのなら一声かけてくれ。何かあったら俺が怒られる。あ、そうそう。俺の主人はお嬢だけだからな》


 なぜか恰好良く聞こえるセリフを言ってパタンと扉が閉められました。隊長さんたちに言った「主人は誰か」の質問に、今更ながらラプトルさんも答えてくれたようです・・・。今聞きたかった言葉ではありませんよ・・・そして扉を開けられた時に止まったままだった呼吸をやっと思い出しました。


「はぁ~・・・」


 ここで声を上げてはいけません。ここで悲鳴を上げたら隊長さんや村の人たちも駆けつけてきます。そんなことになったら恥の上塗りです!幸い・・・本当に幸い!見られたのは蜥蜴人族のラプトルさんです。卵で繁殖する(?)ならニンゲンの女の子のお尻を見たってなんとも思わないはずです!このまま落ち着いてトイレを済ませて部屋に戻れば何事もありません!


「よし!なかったことにしよう!」


 そうして驚きで一回引っ込んだ排泄を続けようとすると、目の前に10cmほどの足の長い巨大な昆虫が飛び込んできました。


「ぎゃあああああああああああっ!!」


 虫は反則です・・・。

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