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65話:年貢対策と坊ちゃん。

 村について2日目の夜。予想していた通り生理が始まりました。今のわたしは碌に戦力になりませんが、魔取り線香が効果を発揮したため魔物の気配はありません。


《昼間はよく眠らせてもらったからな。夜の番は俺に任せてみんな休んでくれ》


 ラプトルさんが夜通し見張りをしてくれると言うので、わたしとプリステラさんは小屋の中で休ませてもらうことにしました。隊長さんは扉の前で休むそうです。わたしたちだけ家の中では申し訳ないので早めに家もなんとかしなければなりませんね。明日オイレボさんに相談してみましょう。


「あいたたた・・・」

「すずめ様、痛み止めの丸薬です」

「あ、ありがとうございます」


 以前もいただいた丸薬ですが、あいかわらずひどい匂いです。この匂いだけで戻してしまいそうなので、息を止めて一気に飲み込みます。それから御簾紙みすがみを股間に当て、再び屈辱のふんどしをしめました・・・。なんとか生理用品を作る事はできないでしょうか?吸収率のいい素材でもあればいいのですが・・・。

 昨日手に入れたタイマイの甲羅。背と腹と爪の部分だけ回収すると残りは土に埋めてお墓を作りました。これからもお世話になると思うので亀塚を作ろうと思います。早く作業に取り掛かりたいのですが数日は寝込んで終わりそうです。


 翌日は予想通り朝から身動きができません。今回も出血がひどく軽い貧血になりました。朝食を持ってきてくださったプリステラさんがオイレボさんも連れてきました。あまり生理で寝込んでいる時に男性に会いたくはないのですが、そんなことも言ってられません。寝ていても話は聞けますから出来るだけこの村のことを教えていただかなければ。


「それで、女性は昼間は何をしているのですか?」

「女たちは午前中は主に前日の夕方と当日の朝に取れた魚の加工を行っています。干物にしないと長持ちしませんからね。午後はワラを編んで縄を作ったり流し網の修繕を行っています。粟畑の世話は基本10歳以上の子供たちが行っています」


 なるほど。女性も忙しそうですね。あまり人数をさけそうもありませんが、べっ甲加工のために男女1名づつ手先の器用な方をスカウトしたいですね。


「この村で何か困っていることはありますか?」

「そうですな。なんと言っても一番は穀物不足です。水源が裏の池しかありませんから畑を広げることも出来ず、水も慢性的に不足しています」


 やはりそれが一番ですか。話によるとやはりこの世界には気候変化がないようで、年中同じような気温だそうです。それならお粟も年二回収穫できる二期作が可能かもしれません。


「年二回収穫ですか!?それが出来れば助かりますが、年々収穫量が落ちていまして・・・」

「おそらく連作障害だと思います。同じ作物を育てていると土が痩せてしまいますので、わらのすき込みや施肥が必要になります。魔取り線香の効果範囲次第ですが、森の中から腐葉土を取ってこれれば肥料として使えると思います。耕作面積が少ないなら有効だと思いますよ」


 森については隊長さんとラプトルさんにお願いして様子を見て来ていただきましょう。お二人の強さなら数匹の魔物くらいなら問題ないはずです。


「それと、これはわたしの生理・・・えっと、月の障りが終わり次第ですが、水田を作ろうと思います」

「水田!?」

「昨日お見せした通り、わたしは水魔法と土魔法が使えます。荒れ地に土魔法で池を作り水魔法で水を溜めれば、水田をつくることは難しくありません。年中気候が同じなら今すぐ水田を作れば、年貢の納税時期までにお米の収穫が可能になるでしょう」

「な、なんと!そ、そんなことが可能なのですか!?」


 オイレボさんの驚きは今日一ですね。年貢のことを考えるとどうしてもお米を作りたいはずです。しかしこの荒れ地だらけで水源のないサイハテ村では不可能でした。わたしの魔法でそれが可能になるなら、これ以上にない村の助けになるはずです。


「な、なんとお礼を言ったらいいのか・・・ありがとうございます!すずめ様!」


 オイレボさんはわたしの枕元で号泣しながら土下座をなさいました。


「ま、まだ何もしていないのですから土下座はやめてください!それに・・・わたしもこの村の一員なのですから、出来ることをするだけですよ」

「すずめ様、感謝いたします」


 土下座はやめてくださいましたが、姿勢を正したオイレボさんは深く頭を下げました。オイレボさんや村人の方のためにも、なんとしても成功させなければなりませんね。小学校用の教科書で勉強した程度の知識しかありませんが、意外に役に立つものなのですね。ところで二期作と二毛作って違いはなんだったでしょうか・・・。もっとしっかり勉強しておけばよかったです・・・。





【イチウ】


「うわあああ!なんだあの魔物は!?」

「翼竜ですな!全長10mを越えるやっかいな魔物です!舌を噛みますから静かにしていてください!とばしますよ!」


 しばらく前から荒れ地の中に整備された道が現れた。おかげで快適な移動ができたのだが、突然海の方から翼竜が襲撃してきたのだ。その数3匹!10mを越える大型魔物に襲われては逃げるしかない!馬車の幌はズタズタにされ、いくつかの荷物の入った木箱も破壊された。あの箱にはすずめへのプレゼント・・・いや、仕事用の衣服がはいっていたのに・・・。


「坊ちゃん伏せてください!翼竜が!・・・」

「え!?」


 ドガガガッ!!


「うわあああああああ!」


 俺の乗っていた馬車が翼竜の攻撃で横転した。破けた幌の隙間から外に放り出された俺は、地面をしばらく転がってようやく止まった。


 ゴフッ!


 ヤバい!咳に血が混じっている。全身が痛むのは勿論のこと、肺も痛めたようで息ができない!かすむ目で上空を見ると巨大な翼竜が俺に向かって急降下してくる。せっかくここまで来たっていうのに、すずめに会うことも出来ずに終わるのか・・・。こんなことなら、王宮で憎まれ口などつかずに告白しておけばよかった。俺は俺は・・・。


「すずめ!お前のことが・・・好きだぁ!!」


 ゴフッ!


 最後の力を振り絞って叫ぶことができた。さらばだ、すずめ・・・。


「坊ちゃん。大丈夫ですかい?今回復ポーションを持ってきますのでしっかりしてください」

「あ・・・あれ?・・・俺はなんで生きているんだ?翼竜は?・・・」


 目を開けると目の前に立って俺を見下ろす兵士長と、海の方へ飛んでいく翼竜の姿が見えた。なんで助かったんだ?


「よくわかりませんが、すでに魔物避けの結界の中に入れたのかもしれません。小さな村だと聞いてましたが思ったより魔道具の質がいいのかもしれませんね」


 それじゃ、サイハテ村はもうすぐ近くなのか!?口に突っ込まれた回復ポーションを飲み干すと、身体が淡く光り痛みが消えた。これで、生きてすずめに会うことができる!


「この馬車はもうダメですね。おい!荷物を他の馬車に載せ替えろ!この馬車は放棄する!」

「作業を急いでくれ!早く、早くサイハテ村に向かわないと!」

「わかってますよ。早く愛しのすずめ殿にお会いしたいのでしょう?くっくっく」


 な!?さっきの叫びを聞かれたのか!?ち、ちがう!あ、あれはただの気の迷いだ!俺が狙っているのは政略結婚であって決して恋愛対象などでは!!

 顔を真っ赤にした俺が言葉が出ずに口をパクパクさせていると、護衛の兵士たちの大爆笑に包まれた。今は平民とは言え、俺は侯爵であり宰相である父の息子だぞ!お前ら馬鹿にしすぎじゃないのか!?


「あっはっはっは!さて、これ以上笑うと坊ちゃんが拗ねてしまいますからそろそろ出発しましょうか。みんな準備はいいか?出発だ」


 まったく、なんでこいつらは俺に対して遠慮がないんだ。子供の頃からこうだったけど。腕を組んで新しい馬車の荷台に座ると、出発の合図とそれに呼応する声が響いて来た。


「「「「いざ出発だ!愛しのすずめ殿の元に!」」」」

「お前らいい加減にしろよ!!」

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