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64話:ウミガメとべっ甲細工。

 夕方になりました。これから漁の視察に行ってきます。新しく作った崖の階段は子供でも上り下りできるのですが、子供が海に行くと危ないのでお昼に子供の利用禁止の規則を作りました。高波はもちろんのこと、尖った岩場は足の裏を痛めますし、転んだら大けがにもなりかねません。


「え~なんで~?」

「海は危ないのです。怪我をしたら大変ですから階段を降りてはいけませんよ」

「だってすずめだって子供じゃん」

「わ、わたしはいいのです。村長なのですから」


 この世界は15歳が成人なので12歳のわたしは当然子供のカテゴリーです。わたしはわたしで隊長さんから一人で行くことは禁止されています。いつも隊長さんかプリステラさんが一緒ですから問題ありませんけど。


「それじゃ行ってきますので、フラーウラ、ナーキ、子供たちをお願いしますね」

「「はい。すずめ様」」


 フラーウラは14歳の女の子で、14歳以下の女の子たちのリーダーです。褐色の肌の人たちが大半の村の中では色白な方で背がとても高いです。160cmはあるでしょうか?140cmないわたしから見ると見上げるような感じですね。とてもやさしいお姉さんで子供たちにも慕われています。

 ナーキは同じく14歳の男の子で、14歳以下の男の子たちのリーダーです。フラーウラより身長が低いことを気にしているようですが、頼りになるお兄さん的な存在で、来年成人すると同時にフラーウラと結婚予定だとか。小さな村落ですので歳の近い男女は、幼いころから将来の結婚相手が決まっています。お昼にその話をフラーウラから聞かされ、それでいいのかと遠回しに聞いてみましたが、結婚するのは当たり前じゃない?と逆に質問を返されました。物心ついた頃から一緒にいる男女なのでそんなものなのかもしれませんね。

 二人に子供たちのお世話を頼むと、漁師のみなさんと一緒にわたしたちも階段を降りていきました。

 漁は大きな網を使った流し網漁です。縦3m長さ30mほどの網を沖合に持っていき、左右の端を2人づつで大きく弧を描きながら広げ、その後海岸に向かって泳いで円を形作って閉じていきます。岩場が多いので6人は海に潜って網が岩に引っ掛からないようにしたり、魚を追い込んだりする係です。約2時間ほどの漁で、辺りが夕焼けで赤く染まり始めたころ網が小さくまとまってきました。


「あ!今お魚が跳ねましたよ!おっきいですねぇ!」


 網を海岸付近まで引っ張って来て、たも網で中で泳いでいる魚を捕獲します。次から次へと水揚げされる魚は、小さいものは手のひらサイズで大きなものは4、50cmはあるでしょうか?数種類の魚がいますがわたしには種類はよくわかりません。病院で食べていたのは切り身ですし・・・。


「うわ!またかかりやがった!網が破られる!銛を!」

「え?」


 とたんに漁師のみなさんが慌ただしくなり、網の中にいる何かに銛を打ち込み始めました。水が薄っすらと赤く染まり何か大きな塊が浮いています。なんでしょうか?


「これって!ウミガメ!?」


 現世ではウミガメ保護活動とかで網にかかったウミガメが問題になっていました。網に絡まって暴れるウミガメを殺した漁師を責める風潮がありましたが、漁師のみなさんにとっては高価な網を破るウミガメに迷惑しているというお話を聞いたことがあります。ウミガメを助ける為に網を切り裂いたとしても、どこからも保証がないからです。この世界では保護なんて観念はありませんから、当然網を傷つけるウミガメは早く殺してしまわなければならないのでしょう。


「あの・・・」


 ダメです。わたしの現世の感傷でウミガメを助けるわけにはいきません。村長であるわたしが止めれば殺さないでしょうが、そのためにみなさんが徹夜で網の修復をすることになるのです。

 大きく深呼吸をします。冷静に冷静に。大体お魚を食べておいてウミガメをころしてはダメなんて虫のいいエゴです。お魚もウミガメも同じ命なのですから、殺してしまう以上はおいしく食べることがせめてもの供養です。食べたことはありませんが・・・。


「よいしょ!やっかいなのがかかっちまったな。あ~あ、こんな大きな穴を開けてくれやがって・・・」


 死んでしまったウミガメが海岸に放り投げられました。扱いがぞんざいですけど漁師のみなさんにとっては網の方が大切なのです。禄に穀物が育たないこの村では漁が命綱なのですから。

 小さくまとまった網が男性8人の協力で海岸に引き上げられました。たも網で掬ったお魚も100匹を超えていますが、網にも同じくらいのお魚が絡まっています。みなさん慣れた手つきで網をほぐして伸ばしながら絡まったお魚を取り外していきます。地面に投げらえたお魚がピチピチと跳ねまわり岩の隙間などに挟まっていきます。


「あ、わたしたちもお手伝いしましょう!」

「「はっ」」


 隊長さんとプリステラさんも籠を持ってくると、地面で跳ねまわるお魚を拾っていきます。わずかな時間で籠が一杯になり空の籠と交換します。しばらくその作業をしていると全ての籠が一杯になりました。


「すずめ様、手伝っていただきありがとうございます。籠に入りきらない魚はその辺のプールに投げ込んでおいてください。明日の朝に回収しますので」

「わかりました」


 全員で籠を背負い階段に向かって歩き始めます。わたしも小さな籠を背負いえっちらおっちら歩き始めると、海岸にうち捨てられたウミガメが目にはいりました。


「あ、あの!ウミガメは持って帰らないのですか?」

「え?タイマイですか?食べたことはないのですが・・・食べられるのですか?」

「え!?あれってタイマイなのですか!?」


 ウミガメの一種のタイマイでした!なぜわたしがタイマイを知っているかですって?それはもちろんわたしの趣味だからです!手作りのヘアアクセサリーの一つであるべっ甲細工、その原材料がタイマイの甲羅なのですから!昔調べたタイマイの情報では確か卵が食用で、肉も食用にもなると書いてありましたが、地域によっては毒もあるとか・・・。さすがに毒があるかもしれないタイマイをみんなに勧めるわけにはいきません。ですが甲羅は是非ともほしいのです!現世では完璧に保護の対象で野生のタイマイの捕獲は犯罪ですけど・・・。


「お願いします!食料にはならないかもしれませんけど、甲羅がほしいのです!」

「まあ、すずめ様がそうおっしゃるなら」


 みなさんお魚で手一杯でしたので一旦上までお魚を運び、若い男性3人が再びタイマイを取りに戻りました。これでべっ甲細工という産業の道が開けました!べっ甲細工の作り方は記憶しています。江戸時代にはすでに作られていたのですからこの世界でも可能なはずです!この村の特産候補第2弾ですね!

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