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63話:村内視察です。

 上から見ると高さがよく分かりませんでしたが、下から見上げると・・・やっぱりよく分かりません。病院にも階段はありましたが、いつも車いすだったのでエレベーターしか使ったことが無く、1階分が何段あるのか知らないのです。ちなみにこの絶壁に作った階段は全部で185段ありました。上るときが憂鬱になりますね。


「うわあ!海です!」


 サイハテ村に来る途中で生まれて初めて海を見ましたが、波打ち際まで来ると新しい感動が押し寄せてきました。テレビで見たことがあるハワイの砂浜とはまるで違う景色で、周り一面岩だらけです。砂浜なんて欠片も見えません。


「すずめ様、足元に気を付けてください!」

「平気ですよ~」


 隊長さんがお父さんのような事を言いますが、それには構わず岩の間をするすると海に向かって進みます。岩はごつごつして危なそうですが、下駄を履いているので痛くはありません。しばらく進むと所々岩のへこみがプールになっていて、小さなカニや色鮮やかな魚が閉じ込められているのを見つけました。


「これ!これこれ!オイレボさん!この魚も食べられるんですか!?」

「ああ、ベラですね。ええ、おいしいですよ」

「すごい!よぉし!待て待て!あははは」


 着物の袖をたくし上げると片手で押さえて魚を追い回します。視察の事はすっかり忘れて初めて見る魚や海におおはしゃぎしました。そんなわたしを生暖かい目で見つめる3人のこともすっかり忘れて・・・。


「やった!つかまえましたよ!」

「おめでとうございます、すずめ様」


 片手に握ったベラを見せるとオイレボさんが好々爺の笑みで拍手してくれます。生まれて初めてわたしの手で手に入れた食料ですね!お魚さんには悪いですけど。おいしく食べるので許してください。


「あ、村長様」


 お魚をオイレボさんが持っていた籠に入れると、海の方から網を担いだ漁師の方々が戻ってきました。みなさん日焼けで真っ黒で、年配の方からわたしより少し年上くらいのお兄さんまで8人いました。この村の人口からすると成人男性全員集合といった感じでしょうか?


「よく降りてこれましたね。村の女性は誰一人降りてこれないというのに」

「あははは、まあ色々ありまして・・・」


 わたしが言葉を濁したのでオイレボさんが気を利かせて話題を変えて下さいました。


「それで、今日の成果はどうだった?」

「食料としては十分ですが、町で売れそうな大きな魚は捕れませんでした」

「そうか。残念だが仕方ないな」


 先ほど伺った年貢米を買うための資金源でしょうか?小さな魚では売れないのですかね?というか視察に来たのですが漁は終わりですか?


「漁は毎日朝と夕方に行います。昼間は魚が深みに隠れているので捕れないんですよ」

「もう少し早く来るべきでしたね。余計な事に時間をとられすぎまし・・・」


 わたしが階段にしり込みし、身体を洗って着替えて、魔法で階段を作り、磯で魚とりで遊んで・・・。


「んん~っ!と、とにかく!漁の視察は夕方にさせていただきましょう!」


 誤魔化しながら振り向いてゆっくりと階段に向かいます。


「お、おい!なんだよアレ!?」

「なっ!?階段が・・・」


 わたしが作った階段を目にして男性たちが驚きの声をあげます。大きな網や漁で捕れた魚を持って上がるのもこれで楽になると思います。少しはお役に立てましたかね?


「まさか、コレを作るために視察が遅れたというのか・・・」

「わずか数時間でこれだけの物を作るなんて・・・」

「魔法使いとはこれほどのものなのか・・・」


 数時間どころかわずか数十秒でしたが、追い打ちをかけるとさらに驚いてしまうのであえて黙っておくことにします。


「お父ちゃん!」

「あなた、お帰りなさい」


 階段の上から声をかけてきた母子が階段をゆっくりと降りてきました。女性は誰も降りることができなかったそうですが、これでいつでも降りることができるようになりましたね。


「お父ちゃん!この階段すごいね!」

「ああ、村長様が作ってくださったそうだ!これで安心して海岸まで降りることができるぞ!」

「そうね、この階段がもっと早くあれば・・・」


 奥さんの言葉が気になったので後でオイレボさんにお話しを聞きました。なんでも数年前に奥さんの弟さんが漁の帰りに階段を踏み外して転落死したそうです。そしてその男性の奥さんがオイレボさんの娘さんらしく・・・。数年前ではわたしはこの世界にいませんし、防ぎようのない事故です。


「すずめ様が責任を感じる事ではありません。この階段を作ってくださったおかげで娘のような思いをする人がいなくなるのです。それだけで十分助かります」


 もっともっとこの村のために頑張らなくてはなりません!今年は間に合いませんが、来年には()()()()()()()も立っています。何か産業を生み出すことが出来ればさらなる発展を目指すことも出来ます!わたしに何が出来るのか、この村に何があるのか、この視察で何か見つけませんと!

 その後南の森を遠巻きに見て歩きました。森の手前の草原にも小型の魔物が出るそうですが、魔取り線香の効果がでているのかネズミ一匹見当たりません。効果範囲は「弱」ですがどのあたりまで効果が出ているのでしょうか?森の中にも効果が及んでいるなら木の伐採もしたいですね。材木も不足しているので。

 北の荒れ地には見た感じこれといった物はありませんが広大な平地が広がっています。水田を作るにはちょうどいい感じですね。ちょっと硫黄臭いのが困りものですが。

 お昼は村人が歓迎会をしたいというので広場で盛大なバーベキューをしました。


「おいしいです!!」


 サザエのつぼ焼きを初めて食べましたが、コリコリとした歯ごたえと海水で煮込まれた内臓のうまみが絶品です!わたしが初めて捕まえたベラも塩焼きで頂きました!身がホクホクでほっぺが零れ落ちそうです!


「すずめ様、こちらも召し上がってください。ホヤの刺身です!」

「ホヤ?ホヤとは一体なんでしょう?刺身という事はお魚か貝の一種でしょうか?」


 目の前に出されたホヤを見る限り、干し柿のような貝のような見た目です。モグモグモグ・・・


「こ、これは・・・うまいです!!」


 おいしいおいしいおいしいです!ほんの少し苦みはありますが甘みの方が強く、むしろ苦みがアクセントになっています!後味も爽やかでツルンとしたのど越しがサイコーですね!


「ホヤはうまいのですが鮮度が落ちるのが早いので町には売りに行けないのです。この村だけで食べられる珍味ですね」


 もったいないですね。これだけおいしいなら王都でも売れそうですが、運搬方法か保存方法を考えなくてはなりませんか・・・。特産品の候補にしておきましょう!


 お昼をいただいた後、キナコとミタラシの世話と留守番をして頂いていたラプトルさんに差し入れを持っていきます。


「ラプトルさんもバーベキューに顔を出されればいいのに」

《気にせんでくれ。言葉も通じないし人類が苦手なのでな。キナコとミタラシと話している方が気楽でいい》


 そう言って馬車の荷台から手を伸ばし、お皿の上の魚の塩焼きを丸のみにします。


「いつもながら豪快な食べ方ですね・・・って!キナコとミタラシとお話しできるのですか!?」

《完全に理解できてるわけじゃないけどな。だいたいのことは分かる》


 わたしの言語読解魔法でもキナコたちとお話しすることはできません。LV1ですしレベルが上がったら分かるのでしょうか?それにしても動物とお話しできるなんてメルヘンチックですね!あ~お二人がどんな話をしているかとても興味があります!


「ち、ちなみにキナコとミタラシはどんなことを話しているんですか!?」

《そうだな。さっきまで話していたのは・・・》

「話していたのは!?」


 身を乗り出して聞くわたしにラプトルさんが寝転がったまま爆弾を投下しました。


《ノソブランキウスとアピストグラマがステキなので交尾したいと言っていたな》


 えっ!?・・・ノソブランキウスとアピストグラマってトモエゴゼンさんの所のお馬さんじゃないですか!?交尾したいって・・・。


 ヒヒィ~ン!ブルゥ


 会話を聞いていたのか二人が鼻を鳴らしました。こうやって聞くと二人で会話しているような気がしてきます。


「ちなみに・・・お二人は何と?・・・」

《どちらが先に堕とすか競争すると言ってるぞ》


 あああああああああああ!!夢が!メルヘンどこいきました!やっぱりキナコたちも動物なのですね!聞かなければよかったですっ!!

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