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62話:これが階段という物です!

 サイハテ村。このアリタイ王国の最南端に位置する村で、西は断崖絶壁で海が広がり北には火山があり、東は荒野で南に大樹海が広がっています。隣接する町まで片道5日もかかりほぼ交流もありません。


「完全に孤立した村ですね」

「そうですね。行商もこの村までは来ていただけませんので、年に数回町に魚介類の干物を売りに行く程度です」


 王都で受けた説明では年貢を納めるのもギリギリの、穀物不足の村と聞いていました。年貢は通常村人一人につきお米を1石、米俵にして2.5ひょう納めますが、あわは評価が低く倍の5俵必要になるそうです。サイハテ村の収穫量は粟が50石分らしく、全て納めても25人分にしかなりません。お米を栽培できればいいのですが近くに川もなく荒れ地が広がっているため水田が作れないのです。


「この村の人口は何人ですか?」

「・・・34人です」


 9人分も足りませんね。


「足りない分はどうしていたのですか?」

「干物を売った代金でお米を購入して納めていました」


 それでは食事のほとんどが魚介類になりますね。炭水化物が不足しています。炭水化物が不足すると便秘や筋肉量の低下、集中力の低下などを招きます。お米を作るべきですね。王様が言っていた「少し困りごとがある」とはこの事でしょうか?魔物の襲撃もありますしかなりの問題だと思いますけど・・・。


「次は海の漁の視察にいきましょうか?」

「ご案内します」


 粟畑をあとにして崖の方へ向かいます。目の前に海が広がっていますがそっちは断崖絶壁ではないのですか?どこか低い場所があるのでしょうか?オイレボさんはそのまま真っすぐ進み、崖の端に2本の杭がある所に案内してくれました。


「こちらから降りていきますので」

「のおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 断崖絶壁の崖を削って狭く、急勾配の階段が作られていました。一段一段も高く角度もバラバラ、人一人がやっと通れるほどの幅で手すりもない。高さは・・・何十mあるんですか・・・?わたしはそれを見て足がすくんで座り込んでしまいました。階段を踏み外したら間違いなく死んでしまいます!


「もっと安全な道はないんですか!?」

「ありません。北は馬車で数日移動しても同じようなものですし、南は魔物の森が広がっていますから」


 ゴクリ・・・


 このサイハテ村のことを全て理解しないといけません。何があって何が足りないのか。どれくらい採れてどれくらい売れるのか。それが分からないと手を付ける順番も決められないからです。


「すずめ様、怖いのでしたらわたしが背負って降りましょうか?」

「こんな所でおんぶされたらおしっこ漏らしちゃいますよ!」


 隊長さんが助け舟を出してくれましたが、足が地面から離れた状態でこんな所を降りるなんて恐怖以外の何物でもありません!這いずって降りた方がはるかにましです!・・・這いずって・・・。




「絶対離さないでくださいよ!絶対ですからね!」

「わかりました。お任せください」


 結局荒縄で作った紐を腰に巻いて、後ろ向きに這って降りることにしました。一歩一歩慎重に、出来るだけ後ろは見ないで、スライムになった気分で階段にへばりついて降りていきます。片足を伸ばして左右に振ってみても次の階段に届きません。段差が高すぎませんか!?


「ん!」


 勇気を出してもう少し伸ばすとつま先が階段に届きました。すでに15分ほど経過したでしょうか?まだまだ海岸までは距離がありますが、それなりには降りてきたはずです。ふと上を見上げると1mほど上に崖の端が見えています・・・まだこれだけですか!?このままでは日が暮れてしまいますがこれ以上スピードをあげることもできません。次の段に足を伸ばして・・・。


 ズルッ!


「え・・・きゃあああああああああああっ!!」


 今朝わたしが使った魔法のせいで、階段のへこみに水たまりが出来ていて足が滑ってしまいました。一段飛ばしてその下の段に足がつきます。わずか30cmほどでしたが一瞬死を感じました。現世ではすでに死んでいるのですが、意識が遠のいて眠るような死でしたので恐怖は感じませんでした。ですが今は心臓が止まりそうなほどのショックを受け、全身の毛穴が開いて汗が滝のように流れます。そして膀胱の力も抜けてスカートを黄色く染め、階段を細い滝が流れ落ちていきます。恐怖と恥ずかしさでパニックになったわたしは階段にしがみついたまま号泣するのでした。


「「すずめ様!?」」

「う・・・うわあああああああん!」





「忘れてください」

「「「・・・はっ・・・」」」


 村の中心の小屋に戻り、プリステラさんに手伝っていただき赤い着物に着替えました。汗とおしっこで全身ずぶ濡れだったので、頭の上に水を出して全身を洗いました。この歳でお漏らしをしてしまうなんて最悪です!隊長さんだけではなくオイレボさんにまで見られてしまうなんて・・・。これからこの村で暮らしていかなければならないのに、スタートから大失敗です・・・。


「はぁ・・・漁の視察は後回しにしましょうか・・・」

「そのことなんですがすずめ様」

「なんですか?」

「この村に来た時に使った土魔法をなんで使わないのですか?」

「え?・・・」


 あああああああああああ!!そうでした!土魔法があったのです!荒れ地を舗装して平らにしたあの魔法なら、階段を拡張して綺麗な段差にし、手すりを付けることすら可能なのです!


「わたしはとんだ大馬鹿です!わざわざかかなくてもいい恥までかいてしまうなんて・・・」


 膝が崩れ落ち、右手で床を叩きます。まだ魔法が存在することに慣れていないので思い付きもしませんでした・・・。プリステラさんも早く教えてくれればいいのにぃ!!

 それから小屋の扉をバンッ!と開くと、驚いている隊長さんとオイレボさんを尻目に崖に向かってのしのしと歩いていきます。お漏らしを見られたことを忘れるために、一刻も早く魔法を使いたいのです!


「すずめが命じます!とっとと階段を作ってください!」


 右手で崖を指し示し呪文詠唱もむちゃくちゃな魔法でしたが、効果はしっかり発動して地面が揺れて階段が出来上がっていきました。幅は3mほどで段差も揃え、10段ごとに踊り場も設けました。崖が削り取られ手すりも生えて来て安全な階段が出来上がります。魔力がごっそり吸い取られましたが、この際気にしてなどいられません!


「な、なんということだ・・・これが王族のお力なのですか!?」


 階段ができあがっていく様を見ていたオイレボさんが何か言っていますが、ぶつけどころを見つけたわたしの怒り魔法は、遠慮や躊躇という言葉をどこかに失くしてしまったようです。


「これでよし!」


 出来上がった階段は王宮の入り口にあった階段を参考に作ったので、手すりには豪華な彫刻が施されています。こんな辺境の村には不釣り合いで魔力の無駄遣いです。実際残りの魔力はわずかに5で、生理が終わるまで回復しないことを思うと反省しなければなりませんが後悔はしていません!

 安全になった階段に一歩を踏み出します。手すりのおかげで下も見えなくなり、踊り場のおかげで転げ落ちても10段以内で済みますので恐怖もなくなりました。最初からこうしていればという悔しさが滲みますが、これから失敗しなければいいのです!忘れましょう!いいですね皆さん!


「さあ、視察を続けますよ!」

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