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06話:初めての野営です。

 無言で槍を構えたトカゲ人(仮)の人がわたしに向かって槍を振り下ろします。


 ザクッ!


「えっ?・・・」


 わたしの真横に突き刺さった槍が大きな蛇を貫いています。助けてくれたの?


 キシャ


 トカゲ人(仮)の人は槍を引き抜くと、口に咥えていた白い花をわたしに向かって放り投げました。


「わたしにくれるの?」


 トカゲ人(仮)の人はそれ以上は何も言わず、踵を返して森の中に消えて行きました。不愛想な人だったけどちゃんとお礼をしてくれました。やっぱりこの世界の人はいい人ばかりです。お礼にもらった綺麗な白い花をしばらく見つめてからそっとかばんにしまい込みます。

 トカゲ人(仮)の人が去った場所からは綺麗な水が湧きだしていました。茶色く濁っていたのはあの人の流した血の色だったのですね。水筒に水を汲んで一息つくと、先ほどトカゲ人(仮)の人が突き刺した蛇が目に入りました。尻尾の先だけが真っ赤な色をした特徴的な蛇です。どこかの動画で蛇を食べているのを見たことがあります。おいしいのかな?念のため死んだ蛇も持って帰ることにしました。血がつかないように大きな葉っぱに包んでかばんの奥に仕舞います。


「さて、薬草採集の続きをしないとですね!」


 かばんには薬草がまだ半分ほどしかたまっていません。移動と採集ですでに6時間くらい経っています。残りの時間で一杯にするには急がなくてはいけません。それからしばらく薬草採集を続けましたが、所々に点在しているため時間ばかりが過ぎて行き、気づくと周りが暗くなってよく見えなくなってしまいました。


「そうだわ!夜になる前に戻らないと門が閉まってしまいます!急がないと!」


 薬草は依頼分にはたりませんが町に入れなくなると大変です。森の外に向かって歩きますがいつまで経っても森を抜けられません。木々の隙間から見えていた陽の光も微かなものになり方向も分からなくなりました。


「これはもしかして・・・迷子でしょうか・・・」


 もう地面も碌に見えなくなったので手探りで見つけた木の洞に入り込みました。トカゲ人(仮)の人がいた所の大木ほどではないですが、かなり大きな木で根本が洞のようになっています。暗くて一歩も動けませんしここで朝まで耐えるしかありませんね。


 グゥ~


 お腹がすきました。ゲームの中なのにお腹がすくんですね。元の世界に戻ってご飯を食べようにもゲームの終了の仕方がわかりません。スタートはマルティナさんの所でしたから、あそこまで戻らないと終わることもできないのかな?

 そんなことを考えていると疲れからか睡魔がやってきました。よく考えたら今日は歩くことすら初めてだったのに大冒険もしました。疲れるのも当たり前ですね。体育座りで膝に顔をのせたままうつらうつらとしていると、身体がぶるっと震えました。昼間は暖かかったのに夜の森は冷え込みます。このままでは風邪を引いてしまうかもしれません。服のすそを掴んで出来るだけ小さくなると木の根っこに身体をあずけます。

 木の上ではたくさんのフクロウがホーホーと鳴いていて、遠くからはオオカミの遠吠えも聞こえます。もしかしたらここで寝るのは危険なんじゃ?と思いましたが、睡魔にあらがえずついに眠りに落ちてしまいました。

 その時突然フクロウの泣き声が一斉に止みましたが、わたしはそれには気づきませんでした。




 パチパチと木の爆ぜる音と顔の火照りで目が覚めました。


「焚火だ・・・」


 寝ている間に目の前に焚火が現れました。自然発火!?周りを見回しますが誰もいません。いつの間に火が点いたのでしょう?よく見ると焚火の横の地面に、葉っぱに包まれた木の実と火にあぶられた魚の串焼きが刺してあります。

 誰かがここに来ていたの!?人の気配はありませんが串焼きの魚は焦げ目もなく、天に向かって開かれた魚の口からは湯気が立ち上っています。

 ついさっきまで誰かがいたのですね。少し怖くもありましたが暖かい焚火に食事まで用意してくれた人です。悪い人ではないはずです。


 ぐぅ~


 お腹の虫が大きな音を立てました。わたしは焚火の前に正座して両手を合わせていただきますをします。

 木の実はわずかに甘みを感じられるくらいで、お魚は塩味もしないのであまりおいしくはありませんでした。それでも全部を食べ終わる頃にはお腹がいっぱいになりました。

 これをくれた人は近くにいるのかな?周りを再度見回しても誰もいません。それでも感謝のしるしとして大きな声でお礼を言います。


「ありがとう!ごちそうさまでした!」


 その声に驚いた鳥たちが、緑色の月明りに照らされた夜空に向かって飛び立ちました。食後はしばらく起きていましたが焚火をじっと見つめているとぶるっと身体が震えました。今度は寒さのせいではなく生理現象のせいです。横の巨大な根っこをよじ登り裏側を見てみます。焚火の光が届かない所は本当に真っ暗闇で地面が見えません。ちょっと怖いですがこのままでは漏らしてしまいそうなので、えいっ!と飛び降ります。もちろんそこは崖でもないのですぐに地面に着地しましたが、目測より高かったようで思った以上の衝撃が足にかかりました。


「こ、怖かったですね・・・」


 少しちびってしまいましたが左右を見回して(真っ暗ですが)なんとかおしっこを済ませ、拭く物もないので仕方なくそのままパンツを履きます。灯りがなくトイレットペーパーもなく、扉すらないトイレってこんなにも心細いものなんですね。


「大変だけど、歩けることの方がうれしいからがまんがまんです!」


 その後再び眠りについて無事に朝を迎えました。

 くすぶって煙を上げている焚火に土をかけて完全に火を消し出発の準備をします。木々の隙間からさしている日差しは弱弱しくまだ早朝のようですが、出口である東側を教えてくれています。

 森の出口に向かいながら黄色い花を見つけては摘んでいき、1時間ほどかけて森を抜けた頃にはちょうどかばんが一杯になりました。これで依頼は達成です!


 はるか遠くに町の石壁が見えました。行きは歩けることにはしゃいでいて気づきませんでしたけど、森って思ったより遠かったんですね。

 最後の丘を登って町が見えてくると、門の周辺が慌ただしくなっていることに気づきました。何かあったのでしょうか?


「いいか!第一第二部隊は森の正面!第三部隊は森の南側!第四部隊は北側だ!各隊回復ポーションの確認をしたら出発するぞ!」


 先頭で大きな声を出しているのは昨日銀貨で払って「頑張れよ」と言ってくれたおじさんです。大勢の男の人に号令をしています。もしかしてエライ人なのかな?


「第一第二部隊出発します!」

「よし行け!」


 10人くらいの武装した大人が整然と歩いてきます。もしかして軍隊の人なのかな?横を通り過ぎる時元気に挨拶をしました。


「おはようございます!」

「ああ、おはよう。こんな朝早くから子供が出歩いちゃいけないぞ。早く町に戻りなさい」

「はい!ありがとうございます!」


 続いて昨日のおじさんが同じくらいの人たちを引き連れて歩いてきます。後ろを振り向きながら「必ず見つけ出せ!」と言っています。前を向かないと危ないですよ?わたしは再び大きな声で挨拶をします。


「おはようございます!昨日はありがとうございました!」

「ん!?ああ、いや・・・あれ?」


 おじさんはわたしの声で前に向き直りましたが、誰もいないので驚いてキョロキョロしていました。わたしが足をツンツンつついて「下だよ」と言うとさらに驚きました。


「はぁっ!?無事だったのかっ!?おい!捜索中止だ!見つかった!」


 捜索?誰か探していたのでしょうか?

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