58話:ここまで来ましたサイハテ村。
「なだらかな 道となれ 舗装工事!」
わたしの使った魔法で100mほど先まで綺麗な道が出来上がります。舗装と言ってもアスファルトみたいな道ではなく、小さな砂礫が惜し固まったような道ですが馬車が走る分には問題はありません。馬車は跳ねることがなくなり、小箱も浮きませんからわたしのお尻の危機も脱しました!
「なだらかな 道となれ 舗装工事!」
100mごとに魔法を使わなければなりませんが、無駄に上げた魔力のおかげで舗装工事魔法程度であれば無限に魔法が使えます!
《あきれる魔力量だな》
「ふふん!もっと褒めてください!わたしは褒められて伸びる子なので!」
ラプトルさんが幌から顔を出して前方の地面を眺めています。幅5m長さ100mほどの地面がかんなで削ったかのように滑らかになっています。この分だと今日の夜には村に到着できるかもしれませんね。
「いつも不思議に思っていたのですが・・・」
「ん?なんですかプリステラさん?」
「すずめ様は蜥蜴人族の人と言葉が通じているのですか?」
「通じてるって・・・?」
わたしは言語読解魔法を覚えてからは特に魔法は使ってません。普通にしゃべって話しているだけですが、プリステラさんにはラプトルさんの言葉がわからないのでしょうか?
「ラプトルさん、わたしの言葉は通じてますよね?」
《ああ》
「プリステラさんにも?」
「もちろんわかりますよ。すずめ様は人類共通語を話していますから」
あれ?人類共通語?わたしは日本語を話しているはずなんですけど・・・。
「ラプトルさんが話してる言葉はなんなんですか?」
《魔物語だな》
あれ~?わたしが話している言葉は人類共通語で、魔物語も同じように聞こえています。でもプリステラさんたちには通じていないのですか?わたしだけ【言語読解魔法】で聞いた言葉を頭の中で勝手に通訳されていたのですね。
「それで、ラプトルさんは何語を使われているのですか?」
「え!?あ、えっと・・・それは・・・と、蜥蜴語です!」
「そんな言語もあったのですね。初めて知りました」
咄嗟にウソをついちゃいましたけど、魔物語というわけにはいかないですよね・・・。
「蜥蜴人族自体も初めて聞きましたがどの辺の出身なんでしょうか?」
「えっと、それは・・・」
一度ウソをつくとそれを誤魔化す為にさらにウソをつかなくてはならなくなります・・・。取り返しがつかなくなる前に本当のことを言った方がいいのでしょうか?・・・。
「あ、あの!」
「すずめ様、前を!」
「え?ああああ!」
ガタン!
話に集中していたせいで魔法を使うのが遅れてガタガタ道に突っ込んでしまいました。いつのまにか綺麗な道が終わっていたようです。勢いがついていたせいで馬車が盛大に跳ね上がり、反動で浮いたわたしのお尻が御者席の堅い木の板に思いっきり打ち付けられました。
「いったあああああああぁいっ!!」
「なだらかな・・・道となれ・・・舗装工事」
隊長さんと一緒にラプトルさんに御者席に座ってもらい、わたしは幌を閉めた馬車の中から顔だけ出して魔法を使います。
「水よ」
「あああ・・・」
プリステラさんの生み出した水の塊が赤くはれたわたしのお尻を冷やしてくれます。四つん這いになってスカートをめくり、クマさんプリントのパンツに直接水の塊をぶつけます。パンツに当たった水の塊は見えない膜が破れ、パンツを濡らしてそのまま馬車の床を水浸しにします。
あまりに情けない姿でもう涙も出てきません・・・。早く忘れてしまいたいです・・・。
それからしばらくして太陽が西の水平線に差し掛かった頃小さな村が見えてきました。
ようやくサイハテ村に到着したようです。
「これが・・・村、ですか?・・・」
荒れ地の中にほんの少しだけある草地に10軒ほどの家が密集しています。左手に枯れた丈の高い草地が広がり、右手は断崖絶壁の崖になっています。そして村の先、数百mほど行った所から鬱蒼とした森が始まっています。何かいびつな感じのする村ですね?違和感があるというか、何か不自然です。
「何か変な村ですね?それとも村とはこういうものなのでしょうか?」
「いえ、確かに変です。もうすぐ陽が沈みますが水煙の煙もあがってなければ、遊んでいる子供の姿もありません。いくら田舎だと言っても10歳以下の子供なら遊んでいてもおかしくないのですが」
プリステラさんもわたしに同意してくださいます。生活感はわずかにありますが、活気というものがまるで感じられませんね。隊長さんが馬車を降りるとじっと村を観察した後、わたしの所へやってきました。
「すずめ様、様子を見て参ります。わたしが留守の間はラプトル殿に護衛を頼んでいただけますか?」
「わかりました。気を付けてください」
隊長さんが目でラプトルさんに合図を送るとラプトルさんが頷いて槍を片手に馬車を降りました。
村まであと50mほどの所から隊長さんだけが村に向かい、しばらくの時が流れます。おそらく10分ほどのことだったはずですが、緊張のせいか体感時間は30分にも1時間にも感じました。そしてようやく隊長さんが一人の壮年の男性を連れて戻って来たのです。
「すずめ様遅くなりました」
「いえ、ご無事で何よりです。それで、そちらの方は?」
隊長さんより遥かに小さく白髪だらけのおじさん?おじいさんがゆっくりと頭をさげました。もしかして村長さんでしょうか?
「ようこそおいでくださいました村長様。わたしは村長代理をしております、村の長老のオイレボと申します」
・・・村長はわたしでした。王様からは領主兼村長をお願いされていましたけどすっかり忘れていましたね。やっぱりわたしが村長をやるよりこういうおじいさんが村長をやった方がいいと思うのですが、なんでわたしが村長なのでしょうか?何か理由があるのですかね?
「初めまして。山田すずめと申します。王様からこのサイハテ村の領主兼村長を仰せつかりました。よろしくお願いいたします」
「・・・カージナル殿からお聞きしましたが、本当にあなた様のようなお子様が村長なのですね・・・」
なんとなくですが、落胆したような空気が漂ってきます。わたしみたいな子供が上役になるなんてがっかりするのは分かりますが、その素振りを隠そうともしませんね?
「色々お聞きしたいことがあるのですが?」
「何でもお答えしますが、もう陽が暮れて暗くなってきます。お話しは明日にいたしましょう」
「えっと・・・わかりました。村に案内していただけますか?」
オイレボさんの態度からは落胆はしていても反発するような気配はありません。この村に一体何が起こっているのでしょうか?それから馬車に乗りゆっくりと村に入っていきます。見慣れない馬車が村に来たというのに見物に来る人一人いません。そして村に入ってわずか数十秒で村の中心に到着しました。
「本日はこちらの小屋でお休みください。それではまた明日に」
それだけ言い残すとオイレボさんは近くの家に入っていきます。取り残されたわたしたちは呆然として佇みます。村の中心にあるちょっとした広場には小さな祠と、それを取り囲むように小さな池がありました。そしてその池の隣には6畳ほどの小さな平屋の小屋が建っていました。他の家に比べても遥かに小さく本当にワンルームといった感じです。パッセロの宿で借りていた部屋よりも小さいかもしれません。
「まさか、これが村長の家じゃないですよね・・・?」




