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57話:たくや君と姫様。

少し残酷な表現があります。

苦手な方はこの話数を飛ばして頂いても構いません。

【たくや】


「よし!魔法使いさえいなければ雑魚カードでも町を堕とせるな!」


 ババア魔法使いと引き分けた日の夜、再び【進軍開始】すると別の国に魔物が配置された。今度はどんな国かと期待したけど拍子抜けするほど弱かった。コモン アンコモンの攻撃であっさりと町門を破壊し、町を蹂躙し始めてからようやく敵の反撃が始まった。しかもしばらくすると騎士たちは撤退し、町を見捨てて領主の館の防御に専念し始めたのだ。町が堕ちたのに館で籠城してどうなるっていうんだ?結局30分とかからずに館は崩れ落ち、画面の中央に「陥落!」の文字が表示された。ミッションクリアだ!

 クリアの余韻に浸って煙を上げる町を眺めていると、南門から一台の馬車とそれを守る十数人の騎馬隊が脱出するのが見えた。落ち延びようとしているのかな?

 このゲームは不自然なほどにリアルだ。町を攻撃すれば各門から救援を求める兵が出たり、落ちる寸前には自棄になった兵が婦女暴行をしたりもする。落ちた後の町もこうしてじっくり見ていると色々なイベントが起こる。この馬車の一行を見逃したら何か起こるのかな?


「ちょっと様子を見てみるか」


 レアの飛行型魔物を操作して上空から観察をしてみた。しばらく移動すると陽が落ちて来て夜になった。このゲームはリアル時間で2時間で一日が経過する。つまり12倍速で時間が経つのだ。そのため陽が落ち始めるとすぐに真っ暗になる。ゲームのくせにこだわりが強すぎて夜になると真っ暗で何も見えない。


「何もイベントが起きないな。真っ暗になったしこのまま馬車の一行は消えちゃうかな?お!?」


 あきらめようと思った時、森の中に明かりが見えた。魔物を光の元に移動させると小さな焚火を囲っている人が見える。服装も細かくこだわっていて全員違う服装だ。





【姫】


「姫、申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに・・・」

「いいえ、ご自分を責めないでください。あの数の魔物に攻められては致し方ありません・・・」


 昨年町の領主に任じられたばかりの夫は、わたしを逃がすために魔物に殺されてしまいました。これまで魔物が攻めてくることなどなかったというのに、どうしてこんなことに・・・。


「幸い国境まではさほど離れていません。このまま南下して海まで出れば、海岸伝いにアリタイ王国に落ち延びることも出来ましょう」

「アリタイ王国。母の故郷の国ですか・・・」


 わたしの母は現アリタイ王国の国王、ヨシミツ・ベリタ・アリタイ様の長女です。アリタイの王族には魔法使いが幾人もいるそうで、中でも曾祖母のトモエ様はアリタイ王国一の魔法使いとか。それなのにわたしは魔法が使えません。それどころかこの身にもトモエ様の血が流れているはずなのに魔力一つないのです。


「わたしにも魔法が使えたら・・・」


 地面に視線を落とし物思いにふけっていると、視界にマグカップを持つ手が現れました。


「姫様、夜は寒うございます。紅茶を煎れましたので暖まってください」

「ありがとうタリア」


 一緒に町を脱出した侍女のタリアがわたしの手にマグカップを握らせます。タリアはこの町に来てから雇い入れた子で、なんでもそつなくこなすとてもいい子です。成人してすぐにうちで働き始めたのでそろそろ16歳です。そうですね、落ち込んでばかりもいられません。タリアのためにも母の国に行って救助をお願いしませんと。


「姫様、少しお花摘みに席をはずしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん構いませんが・・・暗いですのであまり遠くまで行ってはいけませんよ。気を付けて」

「ありがとうございます」


 お花摘みとは女性が使う言葉で「ご不浄」のことです。見える所でするわけにもいかず、かと言って護衛を連れて行けとも言えないので、一人で暗い森の中に入らなければいけません。


 ガサッ


「誰だ!?」


 ウオオオオオオッ!!


 え!?一体何事ですか!?いきなり近くで大勢の男の声が響き渡りました!焚火のわずかな光では何が起こっているのかわかりません!


「姫を守れ!ぐあっ!・・・」

「野盗だ!こんな時に!ぐふっ・・・」


 野盗!?ど、どうしたらいいのでしょう!?頭がパニックをおこし一歩も動くことが出来なくなりました!聞こえてくるのは金属のぶつかる音と下卑た男たちの声だけです。


「きゃあああああああ・・・」


 今のは侍女のタリアの声!?


「タリア!タリア!どこにいるの!?」

「げっひゃっひゃっひゃ!女だ!女がいるぞ!」

「ひめ、さま・・・おにげ・・・を・・・うぅ・・・」


 闇の中から複数の男の声と、苦し気なタリアの声が聞こえてきました!逃げろと言われてもどこに逃げればいいのかもわかりません!それに苦しんでいるタリアを放っておけません!


「タリア!今助けるわ!」


 わたしは足元を見回すと、崩れた焚火から一本の火のついた薪を手に持ちました。それを持ってタリアの声のした方に近づくと、「にげて!」というタリアの叫びと数人の男たちの背中が見えてきました。


「いやああああああああぁっ!」


 松明の灯りが照らし出したのは幾人もの男たちと、その身体の隙間から見え隠れするタリアの手足でした。衣服は切り裂かれ素足をさらしたタリアを野党の男たちが押さえつけています。タリアの顔は見えず苦悶のうめき声だけが聞こえてきます。


「だ、誰か!タリアを助けて!」


 わたしの声に反応したのは近くにいた野盗たちだけでした。すでに戦いの音が聞こえません。護衛の兵士たちはどうなってしまったのでしょう!?


 逃げなければ・・・。


 一刻も早くそこから逃げたかったのですが、ガクガクと震える膝はいうことをきかず、震える手に持っていた松明は力なく地面に転がりました。そして落ちた松明の光の中に数人の男たちの足が入り込んできたのです。


 次はわたしの番・・・!?





【たくや】


 あ~あ。本当に変なとこだけリアルなゲームだな。これって18禁ゲームだったっけ?町を脱出する姫がどんなイベントに関係するのかと思ったら、僕と関係ないとこで事件に巻き込まれてるじゃないか。こんなイベントに何の意味があるんだ?


「*****!!」


 姫様がなんか叫んでるみたいだけど外国語なのか造語なのか、何をしゃべっているのか分かんないんだよね?まあ悲鳴なんだろうけどさ。


「・・・う~ん・・・もうちょっと近寄ってみるか」


 街灯一つない夜空では地上5mまで近寄っても気づかれないみたいだ。襲っている男も何かしゃべっているみたいだけど、やっぱり言葉はわからないね。ふと地面に押し付けられているお姫様がこちらを見た気がした。この暗闇じゃ見えるはずもないと思ったけど、ゆっくりと移動する魔物の僕をうつろな目で追いかけてくる。抵抗を諦めたみたいでされるがままになっているけど、目だけは僕をじっと見てくる。


 気持ち悪いな・・・。


 こんな雑魚を倒してもたいした経験値も入らないけど、次のレベルまであとわずか3だった。


「わかったよ。運がいいね」


 僕は魔物を操作して前足に装備されている鎌で男共の首を切り裂いて回った。3人の男の首が転がった時レベルアップの表示が出た。本当にゴミみたいな経験値だ。僕の攻撃が合図となって付き従ってきた魔物たちが一斉に攻撃を開始する。あちこちで悲鳴のようなものが聞こえるけどそんなものには何の関心もない。僕が気になったのは自由になった姫様の行動だ。泣き叫ぶでもなく、逃げるでもなく、両手を空に広げて笑顔を浮かべている。


 まるで「殺してくれ」と言っているようだ。


 なんだこのゲームは・・・!?敵が殺してくれと無防備に手を広げてくるなんて、まるでニンゲンみたいじゃないか!ただの経験値1の雑魚キャラが、なんでそんな()()みたいなものを持ってるんだ!?そもそもこのイベントに何の意味があるんだよ!?


「くそ!くそ!くそぉおおおおお!」


 ああああ!イライラする!ただの魔物対人間の戦争ゲームだろ!?最後まで抵抗してみせろよ!何で諦めてんだよ!横から姫様を殺そうと近づいて来た魔物を無意識に斬り捨てる。


「手を出すんじゃねえ!!」


 はぁはぁ・・・。もういいや!めんどくせえ!

 僕はベットに横になりスマホを枕元に放り投げた。今日は気分がのらないからもう寝ることにしよう。明日も検査があるしな・・・。

 あ~あ、毎日毎日検査!検査!検査だ!!世界で2例目の珍しい病気だからってずっと入院じゃ気が滅入って来る!せっかく気分転換で始めたゲームだってのに、ゲームで気分が悪くなってちゃ意味ないよ!

 そういえば僕と同じ病気の子もこの病院に入院してるんだよな・・・。女の子だって聞いたけどその子はどうしてるのかな?世界で二人だけなのに偶然同じ病院だなんて、そんな偶然ってあるか?


「検査の帰りに会いに行ってみようか?・・・」


 そう思っていると、耳元のスマホから微かに女の笑い声のようなものが聞こえた。気が狂ったような叫びで聞くに堪えない。


 いいよ。


 それが望みなら叶えてあげるよ。


 電気を消して寝る準備を整えると、スマホを一回だけクリックした。


 その日最後の経験値に1がプラスされた。


 しばらくこのゲームをするのはやめようかな・・・。

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