55話:魔物召喚RPG(ロールプレイングゲーム)!?
【たくや】
「あ~やっぱレアモンじゃないとこんなもんなのかな~」
この間のレアモンは脳筋だったから使い潰したけど、ちょっともったいなかったな。あんなんでもSRカードだったし。毎日3回だけ回せるガチャでレアモンを狙っているけど、ここ数日は雑魚モンしか当たらない。しかもストックできる数が30しかないって、βテストじゃ課金できないからしゃ-ないけど。雑魚カードばっかだし一気に全部使い潰すか。
「攻撃できるとこがランダムなのが賭けなんだよなぁ・・・」
攻撃に参加するカードを選んで【進軍開始】をクリックすると、攻撃場所のルーレットが回って攻撃する国や地域が決まる。SRを使った時に追加で援軍を送りたかったけど、ルーレットが全然違う地域になったので雑魚の大群が無駄になった。まあその雑魚の大群でどこかの町一つ滅ぼしたけどね。
最近ようやくこのゲームのルールも理解出来てきて面白くなってきたんだけど、いいカードが出ない。確率おかしいじゃないのか!?まあ無課金だから文句も言えないけどさ・・・くそっ。
「さて、C、U、Rのカードが全部で23枚か」
CとUのカードはそれぞれ1枚で10体の魔物を召喚出来る。Rはたった1体だけどその周辺にいるNPMを配下にできる。運が良ければ最初の時みたいに数百の魔物軍団だって組織可能だ。ただしレア度の高い魔物がいないと制御はできないけどね。勝手に暴れるだけでさ。
「使い潰しても惜しくないカードだしやってみるか!【進軍開始】!」
【トモエ】
隣国のスンラフ国で何が起こったんだい!?難民の数が異常だね・・・。
あの子のバカ義息子との謁見に同席したかったんだけど、こんなことが起こったんじゃほっとくわけにもいかないね。
「御前!予定していた収容人員をオーバーしました。これ以上の受け入れができません!」
「緊急用の食糧とテントは1000人分だったね。あとどれくらいだい?」
「まだ同数はいるかと・・・」
合計2000人の難民かい・・・。どこかの町一つが滅んだとでもいうのかい?このまま全員この町に収容したら町民の食糧が足りなくなってパニックをおこすかもしれないね・・・。それでも見捨てるわけにもいかないし、一旦収容してからこの先の町まで進んでもらうか?長旅で疲れているだろうけどまだ体力のある男には頑張ってもらうしかないね。
「全員収容する!中央広場と各門前広場を臨時の収容所とするよ!いいね!」
わたしの言葉にその場にいる兵士全員が頭を下げて散っていく。するとその兵士たちの波に逆らって走って来る兵士がいた。なんだかいやな予感がするね・・・。
「御前!東門から緊急連絡です!」
「どうしたんだい?」
「魔物の大群が進軍してきました!!」
「なんだって!?」
この難民を生んだ魔物なのかい?それにしては方角が違うけどね・・・まったくこの老体をどれだけ働かす気なんだい!
「東門は閉鎖!各門は最低限の人員をのこして東門に集めな!バカ義息子にも連絡!北門の難民収容は続行だよ!」
「はっ!」
わたしの魔法でどこまでやれるか分からないけど、やれるだけはやってみようかね。
【すずめ】
「ドナドナド~ナ~、ド~ナ・・・」
「すずめ様、なんですかその歌は?」
馬車の荷台で揺られながらなんとなく歌ってみました。売られるわけじゃないんですけどね。やっぱりわたしが領主と言うのが不安で仕方がありません。幸い隊長のカージナルさんとプリステラさん、それに蜥蜴人族のラプトルさんが一緒について来てくださいました。ラプトルさんはついてこないと路頭に迷っちゃうからですけど。
ブルゥウ!
あ~はいはい、キナコとミタラシも一緒ですね、ありがとう。・・・わたしの心が読めるんですかね?
すでにパッセロを出発して1週間が過ぎています。王都までだって4日だったのにまだ着きません。遠すぎませんサイハテ村!?
4日目に立ち寄った町で回復ポーションを10本購入しました。もっと欲しかったのですが小さな町では在庫もあまりないようです。薬草採集の依頼を受けてくれるFランク冒険者が少ないようですね。領主なんかを押し付けられなかったらわたしが受けてあげたいのですけど・・・。それから3日ほどはずっと海岸沿いの崖の上を南に進んでいますが、景色も変わらなければ町もありません。最初は海に感動してたのですがさすがに変化がなさすぎです!動くものと言ったら海の上を飛んでいるカモメくらい。
「た~いくつですね~」
「はっはっは、平和が一番ですよすずめ様」
それはそうなのですが・・・。現代技術で情報過多な世界で暮らしていたわたしにとって、こちらの世界ののんびり加減に飢えを感じ始めています。ネットもなければ連絡手段もない。パッセロのみなさんは何をしているのか?トモエゴゼンさんは大丈夫なのか?あとで合流することになっているイチウ様は問題ないのか?そしてこれから向かうサイハテ村はどんな所なのか?すべては現地に行ってみるまでわかりません。
「スキルポイントが貯まったらスマホみたいな魔法でも作れませんかね~?」
そのためにはレベルアップしなければなりませんが、わざわざそのために魔物を倒すのは躊躇われますし、襲ってきたら倒すしかないのですけど・・・。
いけませんね・・・正当防衛を理由に魔物を倒したがっています。魔物だって生きているのですから無用な殺生はするべきではありません。そう、無用な殺生は・・・。あれ?なんだかカモメがさっきより大きくなったような?
《あれはカモメじゃなくて魔物だな》
「魔物!?」
「どう!どうぅ!」
馬車が急停止し槍を持った隊長さんとラプトルさんが馬車の前に出ます。海の上を飛んでいるカモメだと思っていた影がどんどんと大きくなっていきます。あれって、翼竜!?
ギャアギャア!
巨大な影が一瞬だけ太陽を隠すと突風と共に過ぎ去っていきました。なんて大きさですか!?軽く10mはありましたよ!
「すずめ様は中に!プリステラ、すずめ様をまかせる!」
「はっ!すずめ様こちらに!」
恐竜の動画で見たことがある翼竜に似ています。確か・・・ケツァルコアトル?表示を見る暇もなく通り過ぎたので名前はよくわかりません。わたしの一覧表示できる距離は20mほどしかありませんので。
大きく旋回した翼竜は再び狙いを定めて急降下してきます。隊長とラプトルさんの槍の間合いでは分が悪すぎます。やはり「魔法」しかありませんね!
「プリステラさん!援護おねがいします!」
「すずめ様!?」
馬車の後ろから飛び降りると、少し走って馬車の影から出て翼竜に向き直ります。右手を空に突き上げると詠唱を始めます。ほとんど省略できるようになった呪文はわずか3節です。
「敵を 貫け 水槍!!」
幅30cm、長さ5mほどの水の槍が空中に現れ、こちらに向かってくる翼竜に向かって猛スピードで飛んでいきます。
ギャア!
「はずれた!?」
翼竜はバランスをくずしながらも寸でのところで槍を回避しました!中々やりますね、それなら!
「矢の雨よ 降り注げ 雷雨矢!!」
ようやくバランスを取り戻した翼竜の死角である真上から、無数の細い水の矢が降り注ぎました!一本一本は水槍には遠く及びませんが、それが何十本と突き刺さった翼竜は被膜がズタズタになりやがて浮力を失って墜落してきました。あ、あれ?なんだかこっちに向かって来ているような・・・!?
「すずめ様!こちらに!」
「プリステラ!キナコとミタラシが!?」
錐もみしながら落下している翼竜はまっすぐ馬車に向かってきます!こうなったら土魔法で吹っ飛ばして!・・・間に合わない!?
「とりゃああああ!」
《ふんっ!》
隊長とラプトルさんが落下する翼竜の側面から攻撃して落下の軌道を変えました!
ズガガガガガ!!
地面にめり込むように落ちてきた翼竜は馬車をかすめ、数十mすべってようやく止まりました。
危うく取り返しがつかないことになるところでした・・・。わたしは思わず走り出して二人の元に向かいます!
「ご、ごめんなさい!わたしがちゃんと仕留めきれなかったばかりに!」
「すずめ様?我々はすずめ様の護衛ですから」
《気にすることはない。たいしたことはなかったしな》
わたしは隊長さんとラプトルさんの間をすり抜けると、興奮して鼻を鳴らすキナコとミタラシの首に抱きつきました。
「ごめんね~!」
「《・・・はぁ・・・》」
ため息を吐きながら座り込んだ二人に気づいたのは、それから数分後のことでした。




