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53話:初心なんですか?

 コンコン


 冷や汗が出て来てどうしようと思っていたら扉をノックする音が聞こえました。もしかしてトモエゴゼンさんが帰って来たのでしょうか!助けてください!


「おじゃまするよ。ん?なんだイチウもいたのか」

「ヨシヒデ!?・・・殿下・・・。こんな所に何の御用ですか?」


 現れたのはまたしてもこの男です・・・。いえ、助かったのは助かったのですが、いつも言い返せないところで現れるので感謝するしかないのがくやしいのです。


「いつも言ってるけど、殿下はいらないよ。幼馴染だろ?」

「ですが、立場というものもありますし、わたしは無冠のただの一兵士に過ぎません」


 あれ?イチウ様もお貴族様なのかと思いましたが違うのでしょうか?幼馴染といってもなんだかギクシャクしていますね。特にイチウ様の方が。


「まあ宰相の息子とは言っても家を出たらただの一般人だからね。でもイチウならすずめ君の補佐で手柄を上げれば男爵くらいにはすぐになれるさ」

「そんな簡単に貴族になれるはずがないだろ!!王族とは違うんだ!あ・・・いえ、失礼いたしました・・・」


 なるほど。なんとなくお二人の関係がわかりました。適当ニブチン王子様と貴族になりたいコンプレックスの塊秀才君ですか。しかしこんなニブチン王子様が幼馴染なんてイチウ様も相当苦労されたんでしょうね・・・。


「そもそもですが殿下。この小娘が本当に魔物退治など出来るのですか?サイハテ村は魔物の森と隣接しています。魔物をなんとかしないと開発もままなりません」


 わたしを親指でクイッと指さしながらため息を吐いています。まあ小娘なのは事実ですしそういう反応になるのもわかりますが、結構失礼じゃありませんか・・・?さっきの話を聞いていたらイチウ様は実家を出られて一般人になられたそうですし、騎士爵をいただいたわたしの方が身分は上の気がしますけど?


「すずめ君の魔法はすごかったよ。あの水魔法と土魔法は義祖母のトモエ様より強いんじゃないかな?」

「は!?そんな馬鹿な!この小娘が「魔法」を!?陛下より強い魔法使いなんているわけがない・・・はっ!?もしかして!?・・・そういうことなんですか!?」


 ???


 イチウ様が勢いよくわたしを振り返りました。一体何に驚いているんでしょう?ヨシヒデ殿下も顔に「?」と書いてあります。わたしたちには分からない何かにイチウ様が気づいたのでしょうか?


「うん、そういうこと」


 そう言ってヨシヒデ殿下が頷きましたが、絶対分からずに頷いているでしょう!?適当にもほどがあります!


「ああ、そうそう。王都に来る直前に宿に上着が届いたよ」

「あ!そ、その節はありがとうございました。直接お返しに上がれず申し訳ありません」


 色々忙しくて返しそびれていた上着をプリステラさんに届けていただきました。王室警護隊のプリステラさんなら殿下のお顔も知ってるはずでしたのでお願いしたのです。


「おかげで隠れて暮らしてる宿がバレて王都に連れ戻されちゃったけどね」

「うっ・・・それは・・・その・・・申し訳ありません・・・」


 思わず謝ってしまいましたけど、そもそもなんで王子様があんな辺境の町で隠れて暮らしてるんですか!?トモエゴゼンさんはご存知だったのでしょうか?


「それと約束していたドレスは新領地の方へ届けるよ」

「い、いえ!あれはその・・・勢いで言ってしまいましたが、お気になされずに・・・」


 よく考えたら王子様に服をねだったなんて知られたら問題になりかねません!ただでさえあんなことやそんなこともあったというのに・・・。


「遠慮しなくていいよ。キスもしたし、裸も見た仲じゃないか?」

「ぎゃああああああ!!」


 なんてこと言うんですかっ!?王子様とそんなことがあったなんて誰かに聞かれたら・・・!


「ヨシヒデ殿下と・・・キスをして・・・裸も・・・!?」

「ち、ちがうのです!あ、ああああれは事故でっ!決してイチウ様が想像されてるような関係ではないのです!」


 なんて爆弾を落としやがるんですかっ!!イチウ様が顔を真っ赤になさってよろめいています。


「ああ、こんなことはあまり言っちゃよくなかったね。今後は秘密にしておくよ」

「ひ・・・秘密の・・・関係!?」

「バカなんですか!?それを口に出したらますます怪しまれるじゃないですかっ!!イチウ様、違いますからね!わたしたちにやましいことなんてこれっぽっちもありません!!信じてください!!」


 ブッ!


「ああああ!イチウ様!?」


 耳まで真っ赤になったイチウ様がついに鼻血を吹きだして倒れてしまいました!何を想像したのか知りませんけど思ったより初心うぶなんでしょうか!?内またでかわいらしく倒れていますので思わず笑ってしまいそうですが、宰相様の息子さんが顔面血だらけで床に横たわっていると完全に事件です!どうすればいいんでしょう!?


「困ったね。こういう時は」

「ど、どうすればいいんですか!?」


 わたしはテンパってしまっておたおたすることしかできません。それなのに冷静に行動できるヨシヒデ殿下が少し頼もしく思えました。いつもはアレな人ですが一応年上ですし、少し評価を上げてもいいのかもしれませんね。するとヨシヒデ殿下が倒れたイチウ様の隣に膝まづき、床に広がった血で「すずめ」と書き始めました!?


「何やってるんですかっ!!」


 ガツンッ!


「下駄は痛いな・・・」


 やっぱりサイテーな王子です!!こんな時に何を遊んでるんですか!?これじゃわたしが犯人ですよ!


「王子はどなたか人を呼んできてください!」


 王子が部屋を出ていくとわたしはもう片方の下駄も脱ぎ、イチウ様の顔の前で正座すると頭を持ち上げてひざ枕をしました。


「水よ!」


 空中に水の球を生み出すと懐から取り出した手拭いを湿らせました。とりあえず顔の血を拭って頭を上に向かせて鼻血を止めます。倒れた時に頭を打っていたみたいですけど大丈夫でしょうか?しばらくそのままにしているとイチウ様が身じろぎをして目を覚ましました。


「う・・・俺は一体何を?・・・」

「よかった。気づかれましたか?」

「なっ!?ななな、なんだこれは!?俺はなにを!?」


 上から覗き込むとイチウ様が狼狽して左右を見回しています。頭を左右に振ったせいで再び鼻から血が垂れてきました。


「動かないでください。まだ鼻血が止まっていませんから、もうしばらくこのままで」

「・・・鼻・・・血?」


 手拭いでイチウ様の顔を拭いていると、わたしを見ているイチウ様と目が合いました。鼻血を出して倒れたことを覚えてないのでしょうか?頭を打って記憶の一部でも飛んでしまったのかもしれませんね。できれば先ほどの殿下の発言を忘れてくれればいいのですが・・・。まだ顔は真っ赤のままですしやはりそんなに都合よく忘れてはくださいませんよね・・・。それにしても、先ほどからずっとわたしを見てますけど、顔に何かついてますかね?


「すずめ殿・・・」

「はい、なんですか?」


 頭でも痛むのでしょうか?少し目が潤んでいるように見えます。


「俺は!・・・」

「廊下にメイドさんがいたから連れてきたよ。何やってるのイチウ?」


 突然扉が開いて王子が部屋に入ってきました。その瞬間イチウ様はゴロゴロと横に転がって壁に顔をぶつけて止まりました。王子と同じ感想でなんだか嫌ですが、本当に何をやってるんですかイチウ様?


「いや・・・鼻血がですね・・・」


 イチウ様が転がったおかげで、床に血でかかれたダイイングメッセージは消滅しました。


 そしてイチウ様は壁に鼻をぶつけて再び血だらけになるのでした。

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