52話:領主就任!?
【ヨシミツ】
ふむ。義母上からは田舎娘で作法などは何も知らないから大目に見るように言われていたが、中々様になっているカーテシーだな。
「面をあげよ」
顔を上げたすずめ嬢は本当に12歳の子供のようで小柄で華奢だ。こんな子供が城の大砲でも使わないと倒すことができない大型の魔物を倒したというのか?居並ぶ貴族たちの中にいる息子のヨシヒデに視線を送る。庶子とは言えこの国の第三王子のヨシヒデは自由奔放で、最低限の仕事だけこなすとどこともなくフラッと出かけてしばらく帰ってこない。何を言っても無駄なので放置しているが、先ほどのやり取りを見るとすずめ嬢と知り合いなのか?おっといかん、わたしが無言なせいですずめ嬢が不安そうにしているな。
「このたびのパッセロに現れた大型の魔物を退治したのは、すずめ嬢、そなたで間違いないな?」
「は・・・はい」
こんな小娘が!?何かの間違いではないか?他人の手柄を横取りしたんじゃ?などと貴族どもの囁き声が聞こえてくる。みな反国王派の者どもか。
「鎮まれ!」
ザワザワ・・・
まだ「魔法」の情報は広まっていないようだ。すずめ嬢が魔法を使いこなせることが知られると、必ず反国王派の者共が自らの陣営に取り込もうと動くはず。わたしが国王として安泰なのもすべて「魔法」のおかげだからだ。我が一族のみが使える魔法をすずめ嬢が使えることがバレると、内乱の種にもなりかねない。そうなる前にもしもの時は・・・すずめ嬢には死んでもらうことになるかもしれない。義母上には悪いがな・・・。
「すずめ嬢は中々の策士と聞く。そこで一つ頼みがあるのだが?」
「な、なんでしょうか!?」
「魔物退治の褒美として騎士爵に昇爵するゆえ、王都直轄領の一つを治めてはくれまいか?」
【すずめ】
はあああああああっ!?訳がわかりません!トモエゴゼンさんの「バカ義息子」さんって王様のことですか!?しかも策士って一体何のこと?・・・もしかして門と門の間に魔物を誘い込んだ、あの「殺し間」のことでしょうか?投石用の石や矢が不足していたので、広場に誘い込んで倒した後に石と矢を回収できると思ってそう指示しましたけど・・・。それ以外はただの魔法のごり押しだったのですが・・・。
きししゃくにしょうしゃくってどういう意味なんでしょう?王都直轄領・・・えっと、王様が直々に治めている土地ってことですよね?そこの一つを、わたしが治める!?
「む・・・」
「む?」
「無理です!無理です!わたしなんかがそんな大それたこと出来ません!」
いくらなんでも12歳の女の子に何を頼んでいるのですか!?まだ小学生なんですよ!学校すら行ったことなくて学級委員だって務まるとは思えないのに、いきなり領地を治めろだなんて!!
「はっはっは、心配には及ばん。ちゃんとした補佐もつけるし、治めるのは30人程度しかいない小さな村だ。少し困りごとがある程度だが、そなたの頭脳で解決できるはずだ」
無茶振りにもほどがあります!いくらトモエゴゼンさんのバ・・・義息子さんとは言え、わたしみたいな子供の頭脳でなんとかしろだなんて・・・。頭脳?策?・・・なぜ「魔法」でとおっしゃらないのでしょう?この国にはトモエゴゼンさんと王様と、ヨシヒデ殿下のお姉さんで確かベニヒさん?とおっしゃる魔法使いさんがいます。そして未確認ですがアサヒナさん関係で最低お一人。みなさん王族の方々です。王族以外の魔法使いはわたしだけ・・・もしかして、あえて「魔法」という言葉を避けていますか?そうすると「わたしの魔法で解決してくれ」ということでしょうか?
魔物がいるということですね・・・。
真っすぐ王様の顔を見ると、笑顔の下で何か焦っているような感じがします。頬を汗が伝っていますし。そういえばパッセロの町の領主様は反国王派だと聞いた覚えがあります。王様に反対しているような人まで使わないと国が回らない、もしくは反国王派が多い、そういう国なのですね。魔法があるからこそ王族でいられる。そしてわたしのような一般人が「魔法を使いこなせる」ことがバレるとまずいことになると・・・。
なんだか随分頭が良くなった気がしますが、これもゲームシステムの影響なんでしょうか?本当に魔法を使わず頭脳でなんとかできちゃうのかもしれませんね。
「どうだ?」
王様が再度問いかけてきます。このまま断ってしまうと何か良くないことが起こりそうな気がします。受けるしかないのでしょうね。
「わかりました。お引き受けいたします」
「そうか!それは重畳だ!」
王様はすごく安堵したようで椅子に深く座り直しました。そしてすぐ隣に立つ銀髪のすらりとしたおじさまと何やら小声でお話ししています。わたしも少し落ち着いてきて周りを見る余裕ができました。
王様は茶色のウェーブした長い髪をしていて頭に王冠をかぶっています。口ひげはありませんが顎ひげを伸ばしていて見た目は50代くらいでしょうか?よく考えたらこの人がヨシヒデ殿下のお父さんなんですね?
そして隣にいる銀髪の方は線が細くひょろっとして見えますが、わたしをチラッと見た時の眼光は鋭く一瞬ビクッとしちゃいました。同じく50代くらいかと思いますが、王様を陽とすると完全に陰の方です・・・。
「さて、すずめ嬢は騎士爵とは言え今日から貴族となる。赴任地への移動や準備などで色々物入りとなろう。魔物討伐の報酬と準備金として金貨20枚を与える。領主の仕事や必要な物は補佐の者に持たせるので何も心配はいらない。準備が整い次第任地に向かってくれ」
「わ、わかりました」
さらっと金貨20枚も頂くことになってしまいましたが、この先どれくらいのお金がかかるのか想像も出来ません。補佐の方をつけてくださるそうですし、その方に相談してみないといけませんね・・・。
謁見の間を退出すると先ほどの兵士の方に小部屋に案内されました。
「お疲れさまでした。騎士爵への昇爵おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
優しく声をかけていただきましたが無表情なので結構怖い方ですね。眼光も鋭くてまるで先ほど王様の隣にいた方にどこか似ているような・・・。
「挨拶が遅れました。これからすずめ様の補佐をさせて頂きます、イチウ・サン・ブギョウと申します。先ほど謁見の間で国王の隣にいた、宰相シェンモ・サン・ブギョウの三男です。どうぞよろしく」
「ええええええええええっ!?」
宰相様のご子息がわたしの補佐!?この方がこれからわたしと一緒に領地に行くんですか!?魔物がいるらしい村ですのに、そんな危険なところに息子さんを送ってもいいんですかね!?わたしも送られるんでしたぁ!
「まあ領地経営に関しては期待していませんので、魔物退治だけお願いしますよ。すずめ殿」
そりゃあ政治なんて何も分かりませんけど、なんだかカチンとくる言い方ですね。無表情だったくせにわたしの名前を呼ぶときだけ少し口角が上がりました。なんだか馬鹿にされてるようです。ヨシヒデ殿下とはまた違った嫌な感じです。
「イチウさんも魔物にやられないように気を付けてくださいね。わたしが守ってあげますけど」
「・・・言ってくれるな。小娘が」
ゾクッとしました。ちょっとした意趣返しのつもりで軽口をたたきましたが、よく考えたら宰相様の息子さんです。わたしなんかよりよほど位が高い方なんでしょう・・・。
怒らせたらまずいことになるかもしれません・・・。




