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51話:謁見の間の救世主!

 結局王都では目的のヘアアクセサリーは見つけられませんでした。

 購入した色つきの紐を三つ編みに混ぜ込んで左右から前に垂らします。水色と緑の紐がオレンジ色の髪にアクセントをつけてくれますね。


「また奇抜な事をする子だね」

「え~かわいくないですか、コレ?」

「まあいいさね」


 こちらの世界の女性はあまり髪を結うことがないようで、小さな子が紐でリボンをつくるくらいで、大人はロングの髪をそのまま下ろしています。髪型をいじるのは楽しいはずなのですが、やはりゴムが存在しないと難しいのでしょうか?

 トモエゴゼンさんに着付けを手伝ってもらいお出かけの準備をします。はちみつ色の生地に白い蝶々をあしらった着物で、全体的に淡い雰囲気がしますね。


「よし、これでいいね。それじゃ出かけるよ」

「はい」


 今日はトモエゴゼンさんのおっしゃる「バカ義息子」さんにお会いする日です。何のお話しなのかも聞いていませんが、その方も魔法のことが聞きたいのでしょうか?


「すずめ様、お手を」

「ありがとうございます」


 隊長さんが手を引いてくれて馬車に乗り込みます。あいかわらず着物で馬車の乗り降りは大変ですね。そういえば着物を着ていたり、和風な建物だったりするのはトモエゴゼンさんの所だけなので理由を聞いてみましたが、「さあ、なぜだろうね?」という答えでした。和風趣味なのではないのでしょうか?それとも、もしかしたらそういうこともゲームシステムで決められているからなのでしょうか?


 馬車はいくらも走らないうちに停車し、扉が開けられました。もうついたのですか?5分と乗ってない気がしますが、これくらいの距離なら歩いてもいいんじゃないの?そう思って外に出ると、そこは王城の中庭でした・・・。


「ふおおおおお!」

「変な声を出すんじゃないよ。ついといで」


 テレビや画像でしか見たことがない西洋のお城です!馬車を降りた目の前には真っ白で広い数十段の階段があり、その先には荘厳な扉が見えています。階段を手を引いてもらいながらゆっくりと登り、上まで辿り着いた時後ろを振り返ると、巨大な噴水を中心に美しい庭園が広がっていました。この庭園だけで家が何十

「わたし、場違いじゃありませんか?・・・」

「それだけの魔法の才能を持っていて何言ってんだい。あんたはこの国一番の魔法使いなんだよ」

「わたしがこの国一番?・・・」


 まるで実感がありません。魔法は特に何か努力して手に入れた物ではありませんし、まともに戦ったのもイベントボス戦だけです。あとは隊長さんたちが頑張ってくれただけで、パーティーボーナスのおこぼれを頂いただけ。


「なんでこんなことになってるんだろう?」


 わたしは12歳の女の子で、ただのF級冒険者のはずなのに。今更ながら綺麗な着物を着てこんな所にいる自らに疑問が持ち上がります。


 これもゲームシステムがこうなるように誘導しているのでしょうか?


「ほら、いくよ!」

「あ、はい!」


 お城の扉がゆっくりと開いて行き、中から出迎えらしき騎士風の鎧を着た方が数人走ってきました。その方たちはトモエゴゼンさんの手前で膝をつくと一枚の書状を手渡していました。それにざっと目を通したあと、ふんと鼻を鳴らして「準備しときな」とだけ伝えたトモエゴゼンさんは、「またせたね」とわたしを連れて先に進みます。何の準備でしょうか?なんだかどんどん後戻りのできない泥沼にはまってしまっているような気がします。これって回避できないイベントなのですかね・・・。


 落ち着いたらゆっくり考えてみましょう。






 落ち着く暇がありません!!


 これはどういう状況ですか!?


 案内してくれたトモエゴゼンさんは小さな部屋に連れてくると、「あとはまかせたよ」と敬礼する兵士っぽい人にわたしをまかせ、どこかに行ってしまいました。知らない男性と二人っきりにされ、わたしはソファーに座ったまま身じろぎ一つ出来ません。一度だけメイド姿の女性が部屋に入って来て、目の前に湯気の立ち昇る紅茶が置かれましたが、「あ、ありがとうございます!」と元気よく返事をしただけで口をつけることも出来ません。トモエゴゼンさん早く帰って来てください!という、わたしの願いもむなしく扉をノックする音が聞こえ、兵士の方がわたしに敬礼して「準備が整いましたのでどうぞお越しください」と言って連れていかれました。兵士の方はよく見ると意外に若く、まだ10代に見えます。それなのに落ち着きが合ってベテラン兵士の方のようですね。

 静かな廊下を兵士の方について進むと広いロビーのような所に出て、さらに豪華な扉が目に入りました。

 これはただの部屋とは思えませんね・・・。ここはお城、そして豪華な扉に左右に直立する豪華な鎧の兵士の方・・・。まさかここは・・・。


「スズメ・ヤマダ嬢!ご入来!」


 大きな声で室内にいる誰かにわたしのことを知らせると、重い扉がゆっくりと左右に開いていきます。


 荘厳な扉が開くとそこにはわたしの知らない世界が広がっていました!


 天井にぶら下がったキラキラと輝く眩しいシャンデリアがわたしの目を攻撃してきます!眩しさに少し慣れてくると見えてきたのは、左右にずらっと居並ぶいかにも貴族と言わんばかりのおじさんの列!派手派手な衣装で至る所が金で縁取りされ、左胸にも派手な装飾の宝石が飾られています。勲章なのか家紋なのかよくわからないですが、それをつけたおじさんたちが一斉にわたしを見下ろしてきます・・・。こ、怖いです!イベントボスなんかより遥かに!!

 床は毛足の長い真っ赤な絨毯が遥か先まで伸びていて、まるでレッドカーペットです!ってそのままですね!わたし部屋を間違えていませんか!?ギギギっと首の立てる音を聞きながら後ろを振り返ると、ここまで案内してくださった兵士の人が「どうぞ、お進みください」とおっしゃいました。

 ここで合ってるんですね・・・こんな所を下駄で歩いていいものなのでしょうか・・・?


 ファサ


 足を一歩踏み出すと下駄がカーペットに埋もれます。大勢の人たちの視線が痛いので床だけを見て歩きます。一歩また一歩と。しばらくそのまま進んでいるとどなたかの足が見えました。あれ?なんで足が?と思って顔を上げるとゆったりとしたズボンが見え、金の刺繍も縁取りもない質素な服が見え、さらに顔を上げると見知った顔がその上にのっかっていました!


「前見て歩かないと横に逸れてるよ」

「あああああっ!貴方は!?」


 そこにいたのは「ヨシヒデ殿下」でした!思わず指をさして声を上げてしまうと、周りがざわざわと騒めき始めました。


「なんと無礼な!」

「許可もなく発言するなど!」


 ヤバイです!まわりのおじさんたちが一斉にわたしに非難の声を上げ始めました。大人のおじさんたちに囲まれ、低い声で怒られると身体の芯から震えてきます。膝はガクガクし、身体中から気持ち悪い汗が吹き出しました。


「鎮まれ!!」


 その声で一瞬で静寂が訪れ、わたしの震えも止まりましたが身体が強張って動けません。声のした方を見る事すらできないのです。ですが次の瞬間。


「はっはっは!子供のしたことに細かいことを言うな!おぬしらとて幼少の頃にここに放り込まれれば同じことになろう!」


 その言葉におじさんたちは居住まいを正し、何事もなかったかのように元の姿勢に戻ります。わたしは膝から力が抜け絨毯の上に座り込んでしまいました。


「だいじょうぶ?立てるかい?」


 そう言ってヨシヒデ殿下が手を差し伸べてくださいました。この方には本当に色んな意味で恥ずかしいところばかり見られてますね・・・。ですがこの場では唯一の知り合いであり救いの神です。手を取って立ち上がろうとしますが腰が抜けて立ち上がれません。このままではまた怖い視線にさらされると、再び汗が吹き出します。


「立てないならお姫様抱っこしようか?」

「立てますよ!!」


 恥ずかしい提案にわたしの身体が無意識に反応し勢いよく立ち上がりました。さっきまでの緊張が嘘のようにヨシヒデ殿下への反発で身体が自由になりました。


「そうか、がんばっておいで」


 チラッとヨシヒデ殿下に視線を送ると、小さな声で「ありがとうございます」と一応礼を言っておきました。少しだけ微笑んだようなヨシヒデ殿下の顔を見ると、あの時のことを思い出して顔が真っ赤になっていきます。人命救助とはいえ、わたし、この方とキスしているんですね・・・。


 恥ずかしさが緊張を上回ったおかげかその後は前を向いて真っすぐ進み、正面にいる王様の5mほど手前で止まりました。貴族や王様に対する礼儀作法など何も知りません。頭を下げるだけでいいのでしょうか!?そう言えば映画などで女性がスカートの裾をつまんで挨拶する場面がありました。つい最近もわたしの魔法で作った水精霊がトモエゴゼンさんに同じようにしていましたね!


 わたしは着物の生地を少しつまむと膝を少し曲げゆっくりと頭を下げました。


「はじめまして、山田すずめと申します」

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