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50話:魔法使いは取り込まれます。

 王都に着て二日目、わたしたちは王都見物兼、ヘアアクセサリー探しを始めました。


「う~ん・・・」

「お気に召すものはございませんか?」


 さっそく見つけたアクセサリーショップに入ってみたのですが、指輪やペンダント、イヤリングなどはあるのですが、ヘアアクセサリーという物が見当たりません。髪飾り的なものはあるにはあるのですが、金細工をあしらった大きな宝石がついた物で、社交界でドレスと一緒に着用するようなものだけです。わたしが欲しいのは普段の髪型のセットに使うような、ちょっとしたおしゃれ程度の物です。一個の髪飾りに金貨数枚なんてとんでもないです!

 髪飾りのつけ方もかんざしのような二本の棒で髪をはさむだけで、髪を留めるものではありませんでした。


「バレッタのような物がないんですね~」


 わたしが持っていたべっ甲もなければヘアゴム一つ見当たりません。


「こういう伸び縮みするゴムってないですかね?」


 試しにお店の主人にわたしが髪を留めているヘアゴムを見せてみましたが、そんな不思議な紐は見たこともないと言われました。バレッタに使うバネが存在しないことはおろか、ゴムもないとは思いませんでした・・・。その後雑貨屋も探してみましたが、あるのはパッセロでも見かけた色つきの紐だけです。

 ないものは仕方ないので各種色とりどりの紐を2本づつ、12本購入しましたがわずか銅貨3枚でした。


 元の世界では趣味でヘアアクセサリーを自作してはいましたが、あくまで装飾部分だけでありバレッタのバネ仕掛け部分を作ったことなどありません。諦めるしかありませんか・・・。





【トモエ】


「義母上、魔物を討伐した娘が王都に到着したそうですね」

「耳が早いね。シェンモの諜報部隊かい?」


 バカ義息子のヨシミツの背後に控える宰相のシェンモをギロッと一瞥する。わたしの眼力にも怯まず涼しい顔で一礼する若造だ。とは言ってもヨシミツのいっこ下だから54歳になるかね。


「謁見はいつになる予定だい?」

「3日後の午後からとなります」


 ヨシミツが答えるより早くシェンモが教えてくれる。それまでにあの子の褒美を考えなくてはならないね。


「王族以外で魔法を使える唯一の民か。できればこちらに取り込みたいものだが?」


 ヨシミツがシェンモに視線を送ると無言で脇に抱えていた書類をテーブルの上に並べた。すでに褒美の候補は用意してたんだね。


「反国王派閥に取り込まれると厄介ですから取り込むのは賛成です。案としてはまず一つ目に、側に置くという目的で王宮の官吏にすることです。仕事などなくても構いませんので、魔法管理室などを新設してそこの室長に据えるのが一案」


 これはほとんど籠の鳥だね。生活の保障はしてやれるがあの子の望みじゃないだろう。


「二つ目は王子のどなたかと婚約させることです。取り込むなら魔法の才能ごとということですね」

「まだ12歳と聞いたが婚約なら早すぎるというほどでもないか。才能だけなら第一王子のヨシモチの妃にした方が良いが、すでに隣国の姫を娶ってしまっているしな」


 ヨシモチはわたしの孫でもあるが特にコレといった才能はない。平和な時代ならそれなりの王にはなるだろうけどね。あの子より20歳も上じゃちょっとかわいそうだね。


「かと言って第二王子のヨシカズ様に嫁がせては内紛の元になりかねません。大型の魔物を倒せるほどの魔法使いですし」

「そうだな。そうなると第三王子のヨシヒデか・・・」

「あの子はダメだよ。決して実の孫じゃないから言ってるんじゃないよ。スオウの子に、シノビの者に力を持たせたら厄介な連中に祭り上げられて不幸になる。あの子が王位継承権を放棄した理由を考えてみな」


 ヨシミツは「分かっています」と言ってその案を取り下げた。そうなると第二案も破棄するしかないね。


「そうなると三つ目ですが、何かしらの爵位を与えて王家直轄地のどこかを任せるという案です」

「まだ12歳だぞ?爵位を与えることもそうだが、成人もしてないのに領主にするというのか?」


 するとシェンモは一枚の書類をヨシミツの前に差し出した。


「これは?」

「先日南の辺境の村から届いた嘆願書です。()()村長が逃げ出したようで、新しい村長か官吏を送ってほしいと」


 これは随分な辺境だね。確かに周りは王都直轄地で他の貴族からちょっかいを出される心配はないが、海岸近くにへばりつくようにある狭い領地だ。人口はわずか30数人。石高はわずか50で、しかもあわかい。これじゃ生きていくのがやっとで年貢分にも足りないね。


「その者に騎士爵を与えてこの村の領主にするのが第三案です」

「シェンモ。今は取り込むこともそうだが褒美の話をしている。領地は狭いし石高も低い、これではただの左遷ではないか?」


 地図で見る限りは穀物が作れる平地はわずかしかないが、その先に広がるのは広大な魔物の生息する森。領地面積だけでいえば子爵領にも匹敵する広さだ。しかも生活に必須な塩も取れる。シェンモはあの子に褒美を与えるように見せかけて、魔物退治をやらせようっていうのかい。喰えない小僧だね。でもわかっているのかい?あの子が魔物の森の支配者になったら想像以上の脅威になるかもしれないよ?


「普通の者ならそうでしょうが、その者は稀有な魔法使いです。魔物の森を開拓してしまえばその可能性は無限大です」

「しかしな・・・」


 ヨシミツはそこまで頭が回ってないようだね。それともあの子の魔法の才能を軽く見ているのか?あたしがもう少し若ければあの森の開拓は可能だろう。もちろん年単位の時間はかかるけどね。


「あの子の魔法の才能はあたしの比じゃないよ。今の時点であたしより強い魔法使いだからね~」

「な!?義母上よりもですか!?それじゃわたしなど・・・」

「あんたじゃ足元にも及ばないさね」


 わざとらしくガクッと肩を落としたヨシミツにシェンモが何か耳打ちをした。あたしにも内緒とは、また何かいたずらでも思いついたのかね。


「わかった。それではその者には褒美として騎士爵を与え、王都直轄地であるサイハテ村の領主兼村長兼徴税官に任命する。そして補佐官としてシェンモの息子のイチウをつけることとする」


 ほう。自らの息子を補佐官にするとは、あの子に賭けるだけの勝算があるようだね。シェンモの息子のイチウはたしかまだ10代だったはず。何食わぬ顔をして息子とあの子をくっつけようっていうのかい?それじゃこちらも邪魔するために護衛に数人つけてやることにするかね。


 パッセロからは片道10日以上の辺境の村だ。また遊びに来ると言っていたがそう簡単に行き来できる場所じゃないね。あたしもいい年だし、もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないけど、あの子のためには貴族のゴタゴタに巻き込まれない辺境の地の方がいいのかもしれないね。

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