05話:トカゲ人(仮)の人に会いました。
ようやく森に到着しました。
ここまで森に向かっての一本道でしたが、森の手前で道が左右にも伸びています。左右に伸びた道の手前には一本も木が生えていませんが、道を挟んだ逆側は完全に森になっています。なんだか違和感のある景色ですが、手前には切り株もたくさん見えているので、人が管理している森ということなのでしょうか?
後で知ったことですが魔物がいきなり町の近くに現れないように、周囲の木を切り倒して見晴らしを良くしているようです。
「こんな陽の光が届かない所にお花なんて咲いているのかな?」
草原には色とりどりのお花がたくさん咲いていましたが、目標の薬草は森の中の薄暗い所に咲くそうです。薬草と言うより正確には薬花なのかな?
冒険者ギルドで見せてもらった見本はタンポポそっくりでした。半信半疑で森に入りましたがいくらも歩かないうちにさっそく見つけることが出来ました。
「あった!これね」
根本付近から手折って茎や葉っぱごと採集します。花だけでなく茎や葉っぱにも薬効があるそうで、依頼書には根以外全てと書いてあります。確かネットで野草を調べていた時に、根っこはタンポポコーヒーになるって書いてあったけど、ゲームの中では使わないのかな?ん~・・・念のため根っこも持って帰ることにします。
「よし!一本目採集完了です!」
さて次はと思って顔を上げると、至る所に黄色い花を見つけることができました。
かばん一杯の薬草と書いてあったくらいだし、そこそこ手に入りやすい薬草なのでしょう。数が少ない薬草じゃ依頼達成なんてとても無理ですしね。
さくさくと採集を続けてかばんが半分くらい埋まった頃、周りに黄色い花が見えなくなりました。あとちょっとなんだけど、もうちょっと奥まで移動しようかな?
道もない森の中を藪を掻い潜って進みます。どこかに群生している所でもないでしょうか?しばらく進むとちょろちょろと流れる、小川とも言えないくらいの細い水の流れを見つけました。そう言えば水筒を買ったのに水を汲んでいませんでした。少し喉も乾いたし水を汲みたいのですが、あまりに浅すぎて汲むことができません。
「もう少し上流に行ってみようかな」
湧き水があるのなら下流より上流のほうが綺麗なはずです。はずなのですが・・・気のせいか少し茶色く濁ってきました。おかしいなぁとは思ったけどせっかく来たのだからもう少し進むことにします。どれくらい歩いたでしょうか?そろそろ休憩しようかなっと思った時、藪を抜けて視界が開けました。そこは森の中でもひと際薄暗く草一本生えていません。足元は太い根っこが地面を覆いつくしていてその根の先には大きな木が一本生えています。
「おっきな木だ~」
空を見上げるとその木の枝が絡まり合うように広がっていて、葉っぱが太陽の光を遮っています。湧き水はその根を縫うように続いていて木の根元で消えています。水の湧いているとこなら綺麗かもしれません。水の流れをたどって行き、大きな根っこを乗り越えると緑色の塊が見えました。
「なんだろう?」
キシャアッ!
「きゃあ!!」
突然緑色の塊から腕が伸びてきてかばんをかすめました。わたしは驚いて尻もちをついてしまい、その生き物とわずかな距離で対面することになりました。緑色の人間!?
しばらくの間その緑色の人と見つめ合いました。身体じゅうから汗が吹き出します。緑色の人は口に変わった白い花のついた茎を咥えていて、フーフーと辛そうな呼吸をして横たわっています。ちょっと怖いですがこの人もゲームの中の変わった種族の人なのかな?トカゲ人族?なんでこんな所で横たわっているのかと落ち着いてよく見ると、お腹を押さえている手の隙間から真っ赤な血が流れだしていました。
「怪我をしているの!?大変!」
わたしは急いでかばんのポケットに差し込んでいた回復ポーションを取り出します。
「これを飲んでください!」
シャアアッ!
「痛っ!」
回復ポーションを持った手を差し出すと、驚いたトカゲ人(仮)の人に手をひっかかれてしまいました。鋭い爪を持っているみたいで、3本の切り傷からドクドクと血が流れます。結構深い傷ですが感覚が麻痺しているのかあまり痛みはなくむしろ熱く感じます。ポーションの瓶を落としてしまいましたが座り込んだスカートの上に落ちたおかげでなんとか割れずにすみました。
「言葉が通じない種族の人なのかな?大丈夫よ。これはお薬だから怪我が治るの」
急に動いたせいなのかトカゲ人(仮)の人はぐったりしています。急いで飲んでもらわないといけないのにコレがお薬だと分かってくれません。どうしたらいいのかしら?・・・そうだわ!
「コレは、お薬、わたしが、飲むから、見ててね」
単語を区切って身振り手振りで説明して、怪我をした腕を見せながら瓶に口につけてくぴっと一口飲み込みます。苦ぁ・・・。なんとか我慢して平気な顔を見せていると腕から煙のようなものが立ち上り、みるみると傷口が塞がっていきました。やがて痛みも無くなり元の綺麗な腕に戻ります。
「すごぉいっ!本当に治った!」
キシャッ!?
この回復ポーションが現実にあったらわたしの病気も治ったのかな?少し残念ですが今はトカゲ人(仮)の人のことを考えましょう。実際に飲んで見せて再び瓶を差し出しました。もう一回引っ掛かれるかな?と思いましたが、トカゲ人(仮)の人はしばらくじっと見つめた後、ソロソロと手を伸ばして瓶を受け取ってくれました。お薬だと理解してくれたみたいです!それでもまだ警戒しているのかスンスンと匂いを嗅ぎ、瓶の縁についている液体を少し舐めました。
「あ!」
キシャ?
わたしの声にトカゲ人(仮)の人が訝し気に顔を上げます。コレってトカゲ人(仮)の人と間接キスですね・・・。まだ恋もしたことないのに・・・。今更飲んじゃダメとも言えないですし伝わらないですし、怪我をしているので緊急事態です!気にせず一気にくぴっといっちゃってください!
真っ赤になったわたしの身振り手振りに意を決したのか、ついにポーションを飲んでくれました。するとトカゲ人(仮)の人のお腹から煙が立ち上り怪我が治っていきます。
「よかった!」
手を叩いて喜んでいると、トカゲ人(仮)の人はいきなり飛び上がり背後の太い根っこの上に立ちました。口に白い花を咥えたまま、いつの間にか手に槍を持っています。
無言で槍を構えたトカゲ人(仮)の人がわたしに向かって槍を振り下ろします。
ザクッ!
「えっ?・・・」