49話:魔法の応用。
「急に呼び出して悪かったね」
「いえ、お久しぶりですトモエゴゼンさん・・・様」
王都の中心にそびえる荘厳な王城。そのすぐ近くにある純和風なお屋敷に馬車は到着しました。トモエゴゼン様のお屋敷からして王城もてっきり和風なお城を想像していましたが、普通に西洋のお城でした。普通のお城がどんなものかよく知りませんけど・・・。
「様付けなんてよしとくれ、今更気持ち悪い・・・」
気持ち悪いって・・・ひどい言い方しますね~・・・まあ様付けで人を呼ぶなんて生まれて初めてだったので、普通でいいならその方が助かりますけど。
「それじゃトモエゴゼンさん、わたしに何か御用ですか?」
「それなんだがね・・・一応確認するけど、パッセロで大型の魔物を倒したのはあんただね?」
まあ隊長さんたちからお話は聞いているんでしょうから否定するだけ無駄ですけど、聞きたいのは「魔法」のことですよね?
「はい。わたしの魔法で倒しました」
「そうかい。やっぱり魔法を使えたんだね~」
「トモエゴゼンさんも使えるんですよね?風の魔法を」
隊長さんはわたしが隊員皆さんの名前を名乗る前から分かっていたことを知っています。森の中で見えない魔物の種類や数さえ当てたこともです。それらの情報も当然トモエゴゼンさんに伝わっているはずですし、「ニンゲン」であることもバレているので今更隠す必要もないでしょう。
「すごいもんだね。あたしのことも筒抜けかい?これでもこの国一番の魔法の使い手なんだけどね~」
そう言って人差し指を上に向けると渦を巻く風の流れがうまれました。これが風の魔法ですか。
【トモエ・ファルシータ・アリタイ】人族:90歳:メス
肉体総合力:6
精神総合力:47
魔法総合力:32
魔法適正:風
よく見たら魔法総合力はすでにわたしの方が高いのですね・・・。ちなみにわたしの魔法総合力は64+です。精神総合力は7+しかありませんけど・・・。
するとトモエゴゼンさんが静かに頭を下げました。陛下と呼ばれるほどの人が、たかが12歳の小娘のわたしにいきなり頭を下げてきたので驚きました。
「え!?な、なにを!?」
「ありがとうよ。パッセロの町を救ってくれたことに、心から感謝するよ」
「と、とりあえず頭を上げてください!わたしなんかに頭を下げるなんて・・・」
わたしが両手をワタワタさせて慌てていると、スッと頭を上げたトモエゴゼンさんがジロっと睨んできました。
「自らを、なんかなんて言うもんじゃないよ。あんたは皆に誇れることをしたんだ。胸を張りな」
「え、あ、はい・・・」
胸を張れと言われても当たり前のことをしただけなんですけど。わたしじゃなくても同じ力を持っていれば同じことをしたでしょう?
「ちょいとあんたの魔法を見せてくれないかね?」
先ほどトモエゴゼンさんが見せてくれたのは正確には魔法ではなく魔力の具現化のような物です。プリステラさんが水の球を出したのと同じものですね。トモエゴゼンさんはあえて「魔法」を強調していましたので、おそらく具現化ではなく本当の「魔法」のことなのでしょう。
ボス戦でレベルが29まで上がり、イベント報酬として無属性の適性を取得しました。100を超えるスキルポイントは言語読解LV1とシステム変更LV1にほとんどつぎ込みましたが、余ったポイントで詠唱速度、魔法耐性、魔法操作を7に上げています。
すでに魔法を使うのにほとんど詠唱も必要ありません。
ですがわたしは指を一本立て、あえて静かに魔法の詠唱を始めます。
「大気に満ちたる 母なる 水よ すずめの 求めに応じて その姿を現し 空中を 踊れ 水精霊!」
途中から文言を変更した呪文は、わたしの求めに応じて半透明な水の精霊のような存在を具現化させました。
「おおお!」
空中に現れた水の精霊はクルクルと回転したりジャンプしたり、まるでフィギュアスケートの演技のように踊ります。目の前で繰り広げられる不思議な光景に、あのトモエゴゼンさんといえど驚かずにはいられないようです。目はまん丸になり頬を汗が伝っています。
「いかがですか?」
「・・・あきれたね。こんな魔法は見たことがないよ・・・」
わたしが指をくるっと回すと、水の精霊はスカートの端をつまみながら軽く腰を落として挨拶をすると、空気に溶けて消えていきました。
「こんな魔法で大型の魔物を倒したのかい?」
「いえ、今のは単なる趣味です・・・」
だって水球魔法をそのまま使うと直径5mほどの水の塊が現れますから、部屋が壊れて溺れちゃいそうです。
「こいつは想像以上だね~。やっぱり会わせるしかないか」
「会わせる?どなたとですか?」
「うちのバカ義息子とさね」
バカ義息子って・・・その方だって王族のお一人でしょう?さすがのトモエゴゼンさんだって王様をバカなんて言うはずもありませんし、馬車の紋章の公爵様という方でしょうか?
「ちょいと連絡しとくから数日はのんびり過ごしとくれ」
「はあ、分かりました」
「カージナルに護衛をさせるから明日にでも王都見物してくればいいさね」
「それはいいですね!」
せっかく王都に来たのですからお買い物がしてみたいです!おそらくこの世界で一番発展してるところなので、バレッタや髪飾りなんかのアクセサリーも一杯あるはず!ヨミガエリ草のお金はほとんど寄付してしまいましたが、まだ銀貨が30枚ほど残っています。現代の価値でいえば30万円ほどです!大金です!あまり無駄遣いはできませんがいくつか買うくらいはいいですよね?
王都に着いたその日はすでに夕方近くになっていたこともあり、おとなしくご飯を食べ、お風呂に入って早めに就寝しました。明日の事を思うとかなり興奮して眠れないかと思っていましたが、馬車での移動は想像以上に疲れていたようで夢も見ずにぐっすりと眠りました。
そして翌日!
「さあ隊長さん!王都案内をお願いします!」
トモエゴゼンさんのところで新しい真っ赤な着物に着替えました。さすがに長い旅でくたびれた着物を着るわけにはいかなかったので、持参したワンピースを着ようと思ったのですが、アサヒナさん用にしつらえていた着物が山のようにあり、その中から見繕っていただきました。
「すずめ様のご希望する店には詳しくないのですが・・・」
「まあ、女性用のアクセサリーですしね。でもプリステラさんなら!」
「え!?・・・」
「・・・えぇ~・・・」
プリステラさんの驚きの声にわたしの呆れた声が重なりました。プリステラさん、顔を背けないでください・・・。
隊長さんには分からないと思ってプリステラさんにも同行をお願いしたのですが、まさかの役立た・・・いえ、おしゃれに興味がないようです・・・。
「仕方ありません!しらみつぶしに探しますか!」
王都ぶらぶら3人旅の始まりです!




