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46話:ウエイトレスって楽しいです!

 わたしはヨシミツ・ベリタ・アリタイ。このアリタイ王国で国王をやらされている。早朝に幼馴染である宰相のシェンモにたたき起こされ、このたびのパッセロ魔物襲撃に関する書類仕事におわれている。

 つい先ほど、パッセロの町は初日の襲撃に耐えきったが、二日目に大型の魔物が現れ、町壁を数か所破壊されたと報告が届いた。壁が破壊されてはそこから数百にものぼる魔物の群れがなだれ込み町が壊滅しかねない。


「昨日ラッテの町には早馬で知らせましたが、状況が一変しました。大砲のないパッセロの町では大型の魔物の討伐は難しいでしょう」

「なんということだ・・・。義母がこちらに来ているということは王室警護隊もついて来ているのだろう。頼りはゼニーロ男爵の有する正規軍だけだが・・・」


 王室警護隊は選りすぐりの精鋭で構成されたエリートたちだ。義母につけていた第十三部隊は普段は義母のいるパッセロに常駐しているのだが、今は王都にいるのだろう。


「無理でしょうね。今回の襲撃の異常さ、規模の大きさ、大型の魔物、おそらく言い伝えにある『世界の危機(イベント)』というものでしょう」


 この国の国民ならだれもが知っている王城前の広場にある不思議なモノリス。何で作られているのか、いつからあるのかもわからない。破壊も傷つける事すら出来ない、有史以前から存在するとも言われるそのモノリスには、こう刻まれている。


『世界の危機が訪れし時、世界はニンゲンの遊戯場となるだろう』


 何かの暗号なのか?解読は出来ていないが、いつか訪れるであろう『世界の危機』を我々はイベントと呼んでいる。


「王国中の領主に動員令を発令し、王国軍も動かすべきだと思われます。そして王も」


 やはりそうするしかないか。よりによって俺の統治時代にイベントが発生するとはな・・・。

 国の有する兵器として最強なのが王都周辺に配備されている大砲だ。巨大な鉛の塊を炎の魔力で撃ちだす兵器だが、重すぎて動かすことが出来ない。この兵器を使う時は王都まで侵攻されているということになる。そうなると人類としての最強兵器(切り札)は「魔法使い」であるわたしと、娘のベニヒ、そして・・・。


 コンコン


「何用だ!」


 執務室の扉がノックされた。担当の警護兵が来訪者を告げるものだろう。扉が少し開かれそこから顔を出した男が敬礼して告げる。


「お忙しいところ失礼致します!陛下に緊急のお客様が・・・」

「邪魔するよ」

「義母上!?」


 警護兵を押しのけて現れたのは、14年前に他界した正妃アオイの母であるトモエ御前だ!王都に来ているのは聞いていたが、まさかこちらに足を運んでくるなんて・・・。


「義母上、お、お久しぶりでございます。ご健勝のようで何よりです。しかし、今はあいにく立て込んでおりまして・・・」

「あいかわらず礼儀がなってないねぇ。いつまで老いぼれを立たせたままでいさせるつもりだい」

「こ、これは失礼を!どうぞおかけください。ですが本当に忙しく、何か入用のものでもあるのでしたら・・・」


 義母上にソファーを勧めながら向かいの席に座るが、今日はお相手をする余裕がない。


「イベントが発生した件なんだがね」

「なぜそれを!?」


 つい先ほど舞い込んだ情報だと言うのに、義母上はどこで知ったのだ!?いや、それより。


「義母上、知っているのでしたら話が早いです。イベントが発生したのなら、それを防げるのは王族の我々だけです!是非、義母上のお力をお貸しください!」

「あいかわらずせっかちな子だね。正規軍の派遣は中止しな。イベントはすでに終わってるさね」


 どういうことなんだ!?


「御前は何か情報をお持ちなのですね?」

「わたしは『風の魔法使い』だよ。言の葉は、風に乗ってわたしの耳に様々な情報を届けてくれるのさ。明日には終戦の報告が届くはずさね」





【すずめ】


「いらっしゃいませ~!空いてるお席にどうぞ~!」


 楽しい!なんて楽しいのでしょう!忙しくて額を流れる汗をぬぐう暇もありませんが、こんなに充実した日々は初めてです!にぎやかな店内!注文をとる際のお客さんとのやり取り!料理を届けた時の嬉しそうな表情!何もかもが新鮮で刺激的です!魔法を使うことも刺激的ではありますが、あまり攻撃魔法は使いたくないですしね。


「いらっしゃいませ!今日の当番はラミノーズさんとハチェットさんなんですね~いつもありがとうございます!」

「押しかけて申し訳ございません。これも任務でして、どうかご容赦を!」

「あの、は、はい。どうも・・・」


 生真面目な性格のラミノーズさんは立ち上がってわたしに頭を下げ、巨漢のハチェットさんは縮こまって恐縮しています。


「あの!とりあえず座ってください!他のお客さんが見てますから!」


 昨日から始めたウエイトレスのお仕事ですが、いきなり警護隊の皆さんがお客さんとして押しかけてきました。単にご飯を食べに来ただけなら構わないのですが、開店から閉店まで10人が席を独占することになりました。曰く、わたしの護衛だそうです。このままではお店に迷惑をかけることになるので、護衛は必要ないと言ったのですが、トモエゴゼンさんの命令もあるので隊長も引けないらしく、妥協案として一日二人までにしていただきました。


「それで、ご注文は何にいたしますか?」

「すずめ様に注文などと!他の給仕の者にさせますのでどうかお休みになってください!」

「それじゃお仕事になりませんよ!依頼失敗にさせる気ですか!?」

「しかし!そうおっしゃいましても・・・」


 ラミノーズさんは警護隊の副隊長をなさっている方で、隊長の次に強い方だそうです。ただ、ちょっと性格が堅くて融通が利かないのが玉にきずです・・・。


「ラミノーズさんはキジの丸焼きにイノシシのハンバーグ、山菜サラダにエールをジョッキでですね!」

「そ、そんなに食えませんよ!?」


 ラミノーズさんの抗議はスルーしてハチェットさんに向き直ります。


「ハチェットさんはどうしますか?」

「は、はい!えっと・・・香草サラダと・・・ミルクをお願いします」

「OLさんの昼食ですか!?」

「は?」

「いえ、こっちの話です・・・」


 身体の大きさに似合わず随分少食ですね。魔物を持ち上げて放り投げるほどの方ですのに・・・。


 まあいいですか。お仕事、お仕事です!


「マスター!注文入りまーす!」

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