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43話:馬の名前を考えましょうか?

「回復ポーションをあるだけ売ってください!」


 パッセロの南にあるケイロンの町についたわたしたちは、さっそく中央にある大手の雑貨屋に足を運びました。ケイロンはセイレン子爵の治める町でパッセロより遥かに大きな町だそうです。北門から入って真っすぐ中央を目指しましたが、大通りは広く、町並みは綺麗でパッセロの町が田舎なのがよく分かりました。

 中央にある雑貨屋の前には馬車の停泊場所まで用意され、従業員が馬のための飼葉や水まで運んでいました。


「随分大きな町ですね」

「そうですね。先日夜中に訪れたラッテの町と大差ない大きさです」


 アサヒナさんのお墓があった町はラッテというのですね。あちらの町はゆっくり見て回る暇がなかったので、ここで数が集まらなければあちらにも足を運びますか。


「いらっしゃいませ。お嬢様。我が商会のご利用は初めてでございましょうか?」

「はいそうです。一見様はお断りですか?」

「とんでもございません。公爵様の関係者の方なら大歓迎でございます」


 こうしゃく様?黒い燕尾服のような服を着た従業員の方が、馬車についている紋章に目をやって丁寧に頭を下げます。こうしゃく、こうしゃく・・・貴族の階級でしたか?どこかで聞いた気はしますが、いまいちランクがよく分かりません。男爵ならどこかの音楽グループの名前で聞いたことがありますけど。この町の領主のセイレン子爵様とどちらが上なのでしょうか?


「ご案内します。どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 わたしと一緒に隊長のカージナルさんと警護隊一の巨漢のハチェットさんが付き添ってくれます。まだ子供のわたしだけでは舐められるので偉丈夫のお二人が後ろに控えます。


「それで、本日は何をお求めでしょう?」

「回復ポーションをあるだけ売ってください!」

「回復ポーションを・・・あるだけ?でございますか?」


 従業員の方は一瞬あっけにとられますが、そこはさすがにプロ!すぐに営業スマイルに戻ると近くのソファーに案内してくれます。


「こちらにお掛けになってお待ちください。只今在庫の確認をして参りますので」

「お願いします」


 パッセロの町の雑貨屋さんで売っていたのは銅貨15枚くらいだったと思います。大体1500円くらいですかね?

 町で買い物をした時に果物が一個銅貨2枚でした。皮の靴が銅貨10枚、ベストも10枚、かばんが20枚くらいだったはずですから、大体銅貨1枚100円くらいの価値だと思います。それが100枚で銀貨ですから銀貨1枚で約1万円ですか・・・大金ですね~。あれ?そうなると金貨って銀貨100枚分ですから・・・100万・・・!?


「おまたせしました」

「ひゃ!ひゃいぃっ!」

「ど、どうかなさいましたか?」

「い、いえ!なんでもありません!!」


 ・・・わたし、すっごい大金持ってませんか?・・・。


「在庫を調べましたところ、現在当店にある回復ポーションは400本ほどになりますが?本当に全てお買上になりますか?」

「あ~・・・それだけですか・・・」

「そ、それだけ!?」


 従業員の人が大げさに驚きます。

 負傷者は約400人で売ってるポーションも400本。これでは次に何かあった時に対処ができません。もう少し欲しいところですが・・・。


「と、当店の回復ポーションは少々上等なものでして・・・一本銅貨30枚ですので400本で銀貨120枚になりますが?」


 そう言って見本の一本をソファーの前のテーブルに置きます。確かに綺麗なガラス瓶に入っていて、パッセロの雑貨屋の物より見た目はいいですが・・・。中身は同じですよね?入れ物だけ上等な物にして値段を上げるなんて、ちょっとカチンときますが、今は一刻も早く負傷者の治療をすることが最優先です。


「わかりました。それで結構です。すべていただきます」


 こんな大きな町で、こんな大きな商会が、大切な回復ポーションを倍の値段で売っていることに少し悲しくなりました。もしわたしがお店をやることがあったら、もっと良心的な値段で売りたいですね。


「お届けはどういたしましょうか?わたしどもの馬車でお運びする場合、少々お時間を頂く事になりますが・・・」


 一刻も早く持って帰らないといけませんから悠長に待っていられません。


「こちらは馬車は扱っていないのですか?」

「馬車ももちろん扱っていますが、公爵様がお使いになるなら装飾や紋章の準備に・・・」


 ああああ、なんでこう余計な事に時間がかかるのでしょうか!回復ポーションの容器といい、馬車の装飾といいお金儲けのことしか考えていないのでしょうか・・・。


「一般の荷馬車で構いません。装飾も不要です!今すぐ用意してください!」

「か、かしこまりました!」


 はぁ~・・・。こちらの事情は知らないのでしょうけど、今も怪我で苦しんでいる人がいることを考えるとイライラしてきますね。


「すずめ様落ち着いてください。公爵家相手の商売としては真っ当な部類です。中にはもっとひどい所がありますからね」


 隊長さんが上半身を前に突き出しわたしの耳元でささやきます。


「そういうものなのでしょうか?・・・」

「公爵家に仕える王室警護隊の者としては言いにくいことですが、そこまで兵士や冒険者のために動いてくれる貴族などいませんからね」

「・・・何度も言ってますが、わたしは貴族でもなんでもありませんよ。ただのFランク冒険者です」


 トモエゴゼンさんはどうやら王族の関係者で、こうしゃくという階級の貴族のようですがわたしはただの庶民なのです!


「おそらく、そう言っていられるのも今の内でしょう。「魔法」を使いこなし、魔物の襲撃を退け、大型魔物を倒したすずめ様は、()()()()()ではいられないでしょう」


 どういうことでしょう?ただの庶民でなければ何だというのでしょうか?


「お、おまたせいたしました!急なことですので2頭引きの幌馬車しかご用意できなかったのですが、それでよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます」

「馬2頭に幌馬車で銀貨70枚になりますので、合わせて銀貨190・・・」


 ドン!


 わたしはテーブルに銀貨の詰まった袋を二つ置きました。それぞれに銀貨100枚づつ入っています。


「銀貨200枚です。早急に回復ポーションを積み込んでください」

「た、ただちにぃ~っ!!」


 面倒な事はごめんです。さっさとパッセロの町に帰ることにしましょう。


「隊長さん、馬が乗れるならデ・・・御者さんと同じように馬車も操れますよね?」

「了解です。専属御者のデルモゲニーほどじゃありませんがね。ああ、すずめ様なら紹介するまでもなく「魔法」で名前がわかりますか?」


 バレてるようですね。確かに一覧表示で名前は知っていますが、まだ紹介されていなかったので知らない振りをしました。先日の森での戦いでは皆さんの名前を呼んで指示をだしてしまいましたから、すでに手遅れですけど・・・。


「えっと・・・秘密です」


 乙女には秘密が多いのです。

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