41話:ふんどし?なんですかそれ?
【たくや】
なんだよこれ!?バグじゃねえか!?リザードマンの戦士が敵側の駒になっちまったぞ!
βテストだからバグもあるんだろうけど、なんだよこれ!俺ツエエエエエがやりたいのに敵側がやってんじゃんかよ!なんだよあの魔法!範囲攻撃なんて反則じゃねえか!
「はぁはぁ、あ~めんどくせ!もうこんな使えない希少モンスターなんかいらないや。突っ込ませて自爆させちゃおう」
ズン!ズン!
「きひひ。コイツには奥の手があるんだ。そっちの魔法は効かないぜ!」
【すずめ】
「すずめ様。いべんとぅぼす?が進軍してきました」
「・・・言いにくいなら無理にそう呼ばなくてもいいですよ?」
「いえ、すずめ様に合わせます」
相変わらず強い風の中、森と町の中間地点あたりをボスが進んできます。そろそろ射程内だと思いますがまだ撃ってきませんね?それならいまのうちに・・・
「ステータス開け!」
さきほどの絨毯爆撃でレベルが上がったので詠唱速度、魔法耐性、魔法操作を4にアップ!やはりレベルアップしたら上げられるようになるようです。
【山田すずめ】ニンゲン:12歳(43日):メス(月経周期4日目)
レベル25(熟練度12051):スキルポイント0
次のレベルまで経験値32or熟練度32
(表示機能:詳細)
肉体総合力:14+
▽
精神総合力:7+
▽
魔法総合力:60+
魔力:150(-9)
魔法力:150
詠唱速度:4
魔法耐性:4
魔法操作:4
魔法適正:水:土
習得魔法:水魔法LV2:土魔法LV2
よし!今上げられるだけ魔法を上げました!これで勝てないなら諦めるしかないですが、まるで負ける気がしません!
「へ~すごいね。すずめ君はこんなに強かったんだ」
絨毯爆撃でクレーターだらけになった地面を見下ろしながら、殿下が感心したように言います。あなたに感心されても嬉しくないんですけど・・・。
「いやな男がやってきやがりました・・・」
「声に出てるよ」
「さっさとどっかに行って欲しい。そう思う隊長さんでした」
「勝手なモノローグでわたしに罪を着せるのはおやめくださいっ!」
先ほど1万歩譲って、曲がりなりにも、救助活動だと言い張る、不逞な行為をしたことで死刑にするところを、執行猶予100年で辛うじて許してあげました。そしてようやく自己紹介をした途端「すずめ君」と名前呼びですよ!何様だとおもってるんですかねこの男は!?王子様でしたよっ!
このアリタイ王国の第三王子、ヨシヒデ・ファルシータ・シノビ・・・様!!
「魔法が使いこなせるなんてベニヒ姉さんみたいだ」
「お姉さんも魔法を使えるんですか?」
「まあね。すずめ君には遠く及ばないけど」
わたし以外に魔法が使える方は、おそらくですがトモエゴゼンさんとアサヒナさんとご両親の誰か、そしてベニヒさんですか。全部王家の関係者ですね。魔法と王家に何か関係があるのでしょうか?
ズン!ズン!
そうこうしているうちにイベントボスが近づいて来ました。もう完全に射程内ですね。それなのにレーザーを撃ってきません。弾切れでしょうか?それなら!
「みなさん下がっていてください!」
バタバタとスカートがはためく中、右手だけ空に向けて詠唱を始めます。
『母なる 水よ すずめの 敵を 撃て 水球!』
ドォン!!
先ほどまでと大きさは変わらず4mほどですが、密度が増して濃紺色になった水の塊がイベントボスに向けて放たれました。これだけ濃縮した水魔法ならイベントボスだって一撃で・・・
バチチッ!!
「んな!?」
「なんだと!?」
「おやまぁ」
わたしと隊長さんの驚きをよそに、のんびりした感想の王子・・・。あなた!他人事だと思ってませんか!?あなたの国ですよ!!
「防御壁かな?あれで貫けないなんて中々頑丈だね」
「的確な感想どうもです!それなら!」
再び魔法詠唱を開始し魔法を解き放つ。
『水球!』
再び光るバリアが現れました。まともにぶつかるからいけないのです!
「曲がれ!」
巨大な水球が直前で右にギュギュっと曲がり、ボスの側面から命中する。
ドォン!!
バチチッ!!
「ああああ!・・・」
側面に移動した水魔法に合わせてバリアも移動して防がれました。あのバリアは意外にすばやく動くんですね。
キュイイイイイ・・・
なんですかこの音は?イベントボスの嘴の隙間からまばゆいばかりの光が漏れています。嘴を開いていない!?どうゆうことでしょう?発射口が閉まったままですけど、このままだと暴発しますよ!・・・
「暴発!?まさか自爆する気じゃ・・・」
「なんですと!?すずめ様ご避難を!!」
間に合いません!こうなったら魔法操作4で出来るようになった「停滞」でボスの前に水球の壁を作って盾にしましょう!
『母なる 水よ!』
わたしは知りませんでした。人類最強の魔法使いがトモエゴゼンさんだという事を。
『すずめの 敵を 撃て!』
わたしは気づいていませんでした。わたしの魔法総合力がトモエゴゼンさんのそれを遥かに超えているということを。
『水球!』
両手を突き出して濃密で巨大な水球をボスに向かって飛ばします。猛スピードで飛んで行った巨大な水球がボスの手前で急停止し、町とボスの前に立ちはだかります。
「うぎぎぎ・・・これはきついですね・・・」
動かすだけなら片手で事足りるのですが、強大な魔法力で暴れる水球を「止めておく」のは両手で押さえても厳しいですね!このまま水球を維持して壁にして・・・すると突然ボスが真横に移動しました!水球の影から出て町を狙って光が増します!
「このぉ!」
ぐぐっと水球を移動させ再びボスの正面に移動すると、今度は逆方向にボスが移動します。
相手は横に動くだけですが、こっちは遠くにある暴走しそうな水球を両手で押さえつけて移動させなければなりません。集中力が切れそうです・・・
やっと正面を塞いだ瞬間ボスが再び動き・・・しつこいですね!
そう思った時、バタバタバタ!突然突風が巻き起こりました。両手で魔法を維持していたため風に舞ったスカートが巻き上がり、股間を隠すふんどしの布が風にたなびきます。
「き・・・きゃああああ!!」
バサッと両手でスカートを押さえると、維持していた水球が二つに割れ、腕の動きにリンクするように左右からボスに襲い掛かりました。ボスのバリアーは向かって左からの攻撃を防ぎましたが、右からの攻撃をもろに受け、わき腹に穴が開いて爆発しました!
ボンッ!!
わき腹を貫いたため町壁と平行方向に爆風が起こり、周囲の魔物も吹き飛ばし崩れ落ちていきます。そしてイベントボスから巨大な炎の柱が立ち昇り辺り一面を明るく照らしました。苦労しましたが意外にあっけない幕切れでした。まさか、スカートを押さえる動きがボスの裏をかく攻撃になるとは・・・。
『経験値が貯まりレベルが26になりました。スキルポイントを26獲得しました』
『経験値が貯まりレベルが27になりました。スキルポイントを27獲得しました』
『経験値が貯まりレベルが28になりました。スキルポ・・・』
連続でレベルが上がっていきます。大量の経験値が入ったようですね。どうやらこれでボス討伐は完了のようです!
わたしは乱れていた髪をかきあげ、炎を背にゆっくりと階段に向かいます。逆光になっているため、誰もわたしの表情を見て取ることは出来ないはずです。レベルアップのお知らせの最後に『イベントボス討伐報酬を得ました』というアナウンスがありましたが、今は一刻も早く・・・
「ふんどしか」
一刻も早く下着を履き替えないといけません。
土球をコイツの頭にぶつければ記憶を消せますかね・・・。ぐすん・・・。




