36話:隊長のピンチとわたしのピンチ。
【カージナル】
すでに殺し間を使う余裕はなくなった。
5度目の巨大クマの攻撃で門の横の壁が吹き飛び、そこから魔物が侵入し始めたのだ。幸いそこは広場になっており、もう一つ町への門があるため未だ一般人の被害は出ていないが、このバケモノを放置していればそれも時間の問題だ。
「ラミノーズ!最初に破壊された場所の防衛を頼む!」
「はっ!」
「プレコとプラティは2番目に破壊された場所だ!」
「「はっ!」」
こういう時、指揮官はどう立ち回ればいい!?すずめ様ならどうするか!?冒険者の一人が手渡してくれた投げ槍を手にして町壁の上を走る。巨大クマは執拗に俺を狙ってくる。最初に槍で手傷を負わせたのが俺だからか!?それならちょうど良い。俺をもっと狙ってこい!どうせ破壊されるなら殺し間の外壁側しかない。2度同じ所を攻撃されると壁がもたないが、ここならまだ町側の壁がある!
左右に移動を繰り返し巨大クマの攻撃の的を絞らせない。何度か小振りの攻撃はあったが、その程度なら壁を破壊するまでには至らない。このまま時間を稼げばあるいは・・・。
その時突然巨大クマの動きが変わった。その場で立ち止まると嘴状の隙間からシュウシュウと煙が立ち昇り始めた。なんだ!?何をしている!?そして嘴が開くとまるで花が開花するように8本に分かれた。その中央には光り輝く青白い炎が見え・・・。マズイ!!
ドォン!!
「ぐぁあああああああああ!!・・・」
次の瞬間、俺のいた周囲一帯の壁が吹き飛び、咄嗟に壁から飛び降りた俺も遥か先の町側の壁まで吹き飛ばされた。
「ぐはっ!・・・」
強烈な衝撃で頭が揺れ意識が飛ぶ・・・全身を壁に強打し体中の骨がバラバラになった。ここまでか・・・。すずめ様を避難させないと・・・。
「はっ!?」
「隊長!間に合ってよかった!」
壁にもたれた俺は意識を取り戻した。目の前には回復ポーションを持ったガロの姿がある。そしてその背後では魔物を押し戻そうと奮戦する警護隊の仲間の姿がある。
「何が起こった!?」
「隊長を吹き飛ばしたあの野郎は、あの後急に周囲の魔物を喰い始めたんです。あの強力な攻撃で腹でもすかせたんですかね?そして腹が満たされたのか日没と同時に森に帰って行きました。俺たちはその隙に町側の門から撃って出て、今に至ります」
森に帰った!?どういうことだ?昨日もそうだったが魔物の行動が本来の物とは違う!何か他の・・・意思のような物を感じる・・・。
「ここの魔物も少しづつ森に引いて行っています。今のうちに俺たちも町に退避しましょう」
「そうだな・・・総員退避だ!壁の上の冒険者の諸君は援護を頼む!」
「「「おうっ!」」」
こうして2日目の町の防衛はなんとか達成した。しかし町壁は2か所が損傷を受け、殺し間の部分は完全に崩壊した。夜通しかけても壁の補修をしなければ。
明日からの戦いは更に厳しいものになるな・・・。
【すずめ】
「うぅ~ん・・・」
「まだ痛みますか?湯たんぽを持ってきました。下腹部に当てておいてください」
「ありがとう・・・プリステラさん・・・」
月経周期3日目。一番きつい日ですね・・・。痛みで考えることが億劫でろくに集中も出来ません。
昨日から何度かステータスを覗いていますが、やはり数字の変更が出来ないようです。今朝になって確認してみたらレベルが20に上がっていました。わたしは何もしてないですが以前と同じパーティーボーナスという表示がでていて、警護隊の皆さんが倒した魔物の経験値が入ったようです。
「あいたたた・・・。なんで女の子だけこんなつらい目にあうんですかね・・・」
「それは全女性が一度は思うことですね」
わたしの枕元に腰を降ろし、小さくため息をついて同意してくれます。
「プリステラさんもひどいんですか?」
「ええ、わたしも障りの期間は水が出せないので、皆に迷惑をかけて落ち込んだものです」
「え?・・・それだけ?」
「はい。戦闘には支障ないので」
なんてことでしょう・・・。プリステラさんにも共感してもらおうと思ったのに仲間ではありませんでした・・・。こんなに苦しんでいるのはわたしだけですか・・・。
初めて生理がきたのは2か月ほど前。まだわたしが歩くことも出来ずベットの住人だった頃のことです。夜中に突然お腹が痛くなりナースコールを押しました。やってきた看護師のお姉さんに症状を伝えるとあごに手を当てて少し考え込みます。何をしているのでしょう!?早く担当医の先生を呼んでください!そう思いましたが看護師のお姉さんは、
「ちょっといいかな?先生を呼んじゃうと恥ずかしい思いをしちゃうかもしれないから」
どういうことでしょう?すると看護師のお姉さんは布団を持ち上げ「ちょっとじっとしててね~」と言いながら、わたしの寝巻のズボンとパンツをずり降ろしました!
「な、ななな何を!?」
「あ~やっぱり。おめでとう初潮ね」
は?しょちょう?顔だけで下半身を見てみるとパンツの内側はドロッとした茶色い塊がこびりつき、ピンク色の内臓のようなものが見えていました。
「えええええええええええっ!?」
わたし死ぬの!?死んじゃうの!?夜中の病院に響き渡ったわたしの悲鳴で廊下をパタパタと走る音が聞こえ、何人もの看護師の人が部屋に入ってきました。中には男性の看護師さんまで・・・
身体の数か所に取り付けられたコードがあるため、尿道カテーテルだけ取り外してそのままお姫様抱っこで持ち上げられ、汚れたシーツを取り換えてもらいます。下半身丸出しのお姫様抱っこに夢も希望も打ち砕かれました。その後血だらけの股を掃除してもらい、みんなが見ている前で尿道カテーテルを差し込まれた時の恥ずかしさは今でも忘れられません。
「それじゃそろそろ御簾紙を交換いたしましょうか?」
「あ、じ、自分でできますから・・・」
トラウマが甦ってきます。
この世界には生理用品などありません。したたる経血は下着の中に入れた御簾紙という紙で漏れを防ぐだけなのです・・・。その上、下着を履いても隙間から経血が漏れてしまうので、御簾紙を固定するために使うのが・・・。
「ご遠慮なさらずに。すずめ様のお世話をするようにと、隊長から仰せつかっていますので」
「え?いや!自分でやりますので!」
咄嗟に逃げようとしましたが身体が億劫で動きが鈍く、あっさりプリステラさんに捕まりました。腰を持ち上げられ、くるっと回転されお尻を持ち上げられます。さすがに女性で王室警護隊の一員になっただけはあります。力がわたしと段違いです。抵抗するも虚しく浴衣をずらされ腰の紐に手が伸びます。
「すずめ様、ふんどしを緩めますので暴れないでくださいね」
「いやああああああっ!!」
まさか、ふんどしをしめることになるなんて・・・もうお嫁にいけません・・・。初めての時以来の2度目の屈辱です・・・。




