34話:魔物の襲撃と殺し間。
なんということでしょう!わたしが気を失っている間にこんなことが起こるなんて・・・
「プリステラさん、教えて下さい。隊長さんたちはどこに行ったのですか?」
「すずめ様は気を失うほどお疲れなのです。今は休まれた方が・・・」
「お願いします。教えて下さい」
わたしは布団の上で正座してゆっくりと頭を下げます。
「おやめください!わたしごときに頭を下げるなんて・・・」
「では教えて下さいますか?」
わたしは小首をかしげて笑みを浮かべます。一刻も早く情報を聞き出すためにはあざとい仕草でもなんでもしてやります!
「はぁ・・・隊長には口止めされていたのですが・・・魔物が、町を襲撃しています」
案の定、わたしの笑みにほだされたプリステラさんは深いため息とともにゲロしました。なんだか悪女になった気分です・・・。
「魔物の襲撃ですか・・・」
ある意味予想していた通りです。普段はFランクの冒険者初心者でも入れる森に、あれだけの数の魔物が現れたのです。異常事態なんてものではありません!当然隊長さんはギルドや関係各所に連絡をして、門を閉じて襲撃に備えていたはずです。王室警護隊の隊長さんの言葉です。町の町長だって大人しく従う事でしょう。今すぐにどうこうなることはないはずです。
「とりあえず現場にいきます」
「危険です!」
「大丈夫です。魔法が使えないわたしが戦闘に参加できるわけもありませんし、炊き出しなどの後方支援も必要でしょう?」
【カージナル】
「サイアミーズ、左側の防御を厚くしろ!飛行型の魔物が取り付くぞ!」
「はっ!」
「冒険者の諸君!申し訳ないが投石用の石の補充を頼む!なんとしても門を守るのだ!」
「は、はい!!」
町を守る町壁の上で防衛の指揮を執っている。押し寄せてきた魔物は小型の動物型と中型の人型がほとんどで、大型の魔物の姿はない。時々飛行できる昆虫型の魔物が壁を越えて攻めてくるが、数は多くないので警護隊の者たちが撃破している。
町壁の高さはおよそ5m。決して高くはないが魔物たちは門を集中的に狙っているのでなんとか持ちこたえている。大型の魔物が攻めて来たらひとたまりもないが、近くに大型の魔物が生息していないので想定していないのだろう。
防衛の主力となる冒険者たちはほとんどがDランク以下で、王室警護隊の我々に追従できそうな者は数人しかいない。これでは撃って出るわけにもいかず、壁の上から矢と投石で攻撃するしかない。
魔物が草原に姿を現したのは数時間前。森から湧き出るように黒い群れとなって押し寄せてきた。決して統制が取れているわけではなく、最初に壁にとりついたのは小型の獣型の魔物だ。足が速いだけでこれといって強くもないが、ジャンプ力が高いやつもいるので油断せずに一掃した。それから休む間もなく人型の魔物が攻めて来たのだ。同時に攻めてこないのは指揮官などがいない証拠で、ただ足の速さで偶然波状攻撃になったと思われるが中々やっかいだ。矢はすでに底をつき、投石用の石の確保もままならない。
「すずめ様!?」
「すずめ様だ・・・」
その声に急いで町の方を振り返るとすずめ様が町壁の階段を上がってきていた。すずめ様の後ろをついて来ているプリステラと目が合うと、申し訳なさそうに眉をひそめて頭を下げた。すずめ様にうまく丸め込まれたか・・・致し方ない。
すずめ様が上まで上がって来ると片膝をついて出迎える。
「すずめ様、ここは危険です。どうか安全な所に避難してください」
「状況を教えて下さい」
困った物だ。少しは我々の気苦労も分かって欲しいのだが、すずめ様にもしもの事があれば御前になんと謝罪すればいいのか・・・。来てしまったものは仕方がない。すずめ様の「魔法」に頼らせてもらうか?
「数時間前から魔物の襲撃が続いています。第一波の小型の魔物は撃退しましたが第二波の人型の魔物の襲撃が続いています。門を集中的に狙われてはいますがなんとか持ちこたえています。ですがすでに矢の在庫は底をつき、投石用の石の確保もままなりません・・・」
すずめ様は索敵魔法と水魔法を使えるのは知っているが、この状況で有効な魔法はあるのだろうか?
「そうですね・・・門を開けて魔物を中に入れてしまいましょう」
「は!?何とおっしゃいましたか?」
耳を疑った。すずめ様は戦略というものを理解していらっしゃるのか!?なんとか持ちこたえている門を開けるなどと・・・。
「すぐに準備に取り掛かります!工作が得意な方を呼んでください!」
【すずめ】
町側の門を開け、大工道具を持ったテトラさんとハチェットさんが外側の門へと走ります。ハチェットさんも警護隊員の一人で、大きな身体に物静かな性格をしているおっとりした人です。森での戦いではリザードマンを持ち上げて投げ飛ばすと言う豪快な戦い方をしてましたが・・・。
西門も東門と同じ作りで、外側の門と町側の門の間が壁に囲まれた広場になっており、通常はそこで馬車や人の手荷物検査などが行われています。お二人はその広場を走り抜け外側の門に向かいます。
門に辿り着くと「ドンドン!」と門を叩く魔物を無視して閂の工作を始めました。閂の左右にそれぞれ細工をします。片方は稼働する杭で門に打ち付け、もう一方にはロープを取り付けます。ロープは門の上の町壁から投げ降ろされ、もう一方の端を壁の上に固定します。
門は重りを使った開閉式になっており、開ける時は壁の上のハンドルを回し重りを巻き上げ開きますが、閉じる時はその重りを下に落とすことで瞬時に閉めることが出来る作りです。
ここに魔物をおびき寄せましょう。
工作が終わったテトラさんとハチェットさんが町に戻ると門を閉め、大工道具を槍に持ち替えて待機します。その後ろにはディエゴさんをはじめとした冒険者の面々の姿も見えました。
「隊長さん、それでは門を開けてください」
「・・・大胆な作戦ですね。てっきり「魔法」でどうにかするのかと思いましたが・・・」
そうしたいのですが、月の障りで今は魔法が使えません。士気にも関わるので「魔法」は温存しておきます!と宣言しておきました。
まずは門の左右に山羊肉の塊を放り投げます。山羊の獣人であるマルコさんが「あああ・・・」と悲痛な声を上げています。ごめんなさい・・・。
ある程度魔物が左右に散ったのを確認すると門を開けました。それを見た魔物が門の中に殺到してきます。ある程度いっぱいになるのを確認すると、隊長さんの「門をしめろ!」という声が聞こえてきました。重りが落とされ巨大な門がドン!と地響きを響かせ閉まります。挟まれた魔物もいましたが一瞬でペッタンコですね・・・。さらに持ち上げられていた閂のロープを緩め鍵をかけました。これで封じ込め完了です。
「殺し間にようこそ」
隊長さんが言ったのか、警護隊の誰かが言ったのかは分かりませんでしたが、出来るだけ苦しまないように即死させてあげてください・・・。




