03話:銅貨の山が出来ました。
「登録費用として銅貨10枚をお願いします」
「え?・・・ドウカ10マイ?」
ドウカってなんでしょうか?お金でしょうか?ドウカって何円ですか?
わたしが固まって動かないのでマルティナさんが心配そうに声をかけてくれました。
「すずめちゃん、もしかしてお金持ってないの?」
「えっと・・・はい」
物心ついた頃から入院生活だったのでお金は一円も持っていません。持っていても売店にすら行くことはできませんでしたし。
「あの!わたし頑張って働きますから!だから!・・・」
必死にお願いしようかと思いましたが、マルティナさんの困った顔を見て言葉が出なくなりました。お金は持ったことがありませんがどういうものかは当然知っています。お店で物を買う時、商品と引き換えで渡すのがお金です。「後で払う」はダメなのです。
無料で遊べるゲームのはずですが「登録」にお金がいるとは思いませんでした。残念ですが冒険者は諦めて町を歩けるだけで満足するとしましょう。靴もないですが歩くのは楽しそうです!
「ほらよ、銅貨10枚だ」
その時私の横から傷だらけの大きな手が現れてカウンターの上に何かを置きました。ドウカ10マイ?茶色い10円玉と同じ色のこれが銅貨のようです。
「あなたは、えっと、リッカルドさん?どうして?」
「ああ、なんだ・・・俺の連れが笑った詫びだ」
先ほどお話しした怪我だらけの猫耳男性が「詫び」と言って銅貨を10枚払ってくださいました。笑った詫び?何か笑われたのでしょうか?
「あ、あの。ありがとう、ございます」
リッカルドさんは背中を向けてお仲間の元に向かって歩きながら片手を上げてくださいました。とてもありがたいですが今のわたしには何もお礼をすることが出来ません。冒険者になってお金を稼げたらお返ししないといけませんね。わたしはカウンターに向き直るとマルティナさんを見上げて確認をします。
「これで、冒険者になれますか?」
「ええ。今からすずめちゃんはFランク冒険者よ。おめでとう」
「はい!ありがとうございます」
「これが冒険者証よ。ペンダントになっているから首から下げてなくさないでね。依頼を受ける時は壁に貼ってある「Fランク」って書いてある所から依頼の紙を選んで持ってきてちょうだい」
「はい!」
カウンターに置かれた冒険者証を見て気合が入りました。生まれて初めて歩けたばかりですが、これから冒険者として頑張っていくのです!
「よぉし!」
ポケットに手を突っ込むとそこには思った通りの物が入っていました。お気に入りの髪留めです!
わたしは素早く手櫛で髪を整えると、サイドの髪の一部をまとめて三つ編みを作り始めます。歩けることに感動していてたった今きづいたのですけど、髪の色がオレンジ色です!?確かにわたしが作ったゲームの中の「すずめちゃん」はこの色ですけど、現実に見てしまうとまるで不良になったみたいです・・・。
髪型いじりが唯一と言っていい趣味だったので髪はとても長く設定しました。まっすぐ伸ばすと腰までありますが、髪量はそんなに多くはないので編み込みもスッキリまとまりそうです!出来上がった三つ編み部分を後ろに回すと二つをクロスさせ、後ろ髪とまとめて結い上げます。結い上げた髪を蝶の形をしたバレッタで留めて完成です!
すっきりした首元に冒険者証をつけるとその場でくるっと一回転してみました。スカートのすそがふわりと舞い上がり、ペンダントが光を反射してキラリと輝きます。ペンダントをつけるなんてはじめてだったのでとてもうれしいです!
「見てみて!お姫様みたいな髪型よ!どうやってるのかしら!?」
「わあ!かわいいですねぇ~!」
「ただの冒険者証がネックレスに見えてきた。パオラのは首輪みたいなのに」
「どういう意味よ!」
「ねえお嬢ちゃん、その髪型もっとよく見せてくれない?」
何人かの女性たちがわたしの周囲に集まってきました。みなさん色んな耳のカチューシャをつけていて腰には剣をぶら下げています。女性なのに勇敢に戦う方々なんですね、すごいです!
みなさんはわたしの髪型に興味があるようで、へ~とかほ~とか言いながらわたしの頭をじろじろと見ています。編み込みが斬新だとか、髪質が綺麗とか色々褒めてくれますが、大人のお姉さんたちにちやほやされるとなんだかちょっと恥ずかしいですね・・・。
「あれ?お嬢ちゃん靴は?」
「えっと、あはは。ないですね」
服はゲームの中でも再現されているようですが靴は持ってないので裸足です。外出時もスリッパでしたからね。ちょっと冷たいですが歩けることがうれしくてあまり気になりません。
わたしはお姉さんたちから解放されると跳ねるように掲示板の依頼を見に行きます。
「わあ!依頼がいっぱいです!」
お屋敷の草むしりに排水溝の掃除、倉庫の片付けに薬草採集!薬草採集にだけ緊急って赤いハンコが押されています。報酬はかばん一杯の薬草で銅貨40枚ですか。銅貨30枚と書いてあるところに横線が引かれ40枚と書き直してあります。よほど急いでいるのかな?困っているみたいだし、よし!これにしましょう!
わたしは依頼の紙を丁寧に剥がすとカウンターのマルティナさんの所に持って行きました。
「マルティナさん!わたしこの依頼を受けたいです!」
「どれどれ。薬草の採集ね。目立つ黄色い花だから初心者にも見つけやすいし難しくはないけど、すずめちゃんかばんって持ってる?」
わたしはプルプルと首を振ります。今のわたしの姿が全財産で持ち物全部です。依頼書にはかばん一杯の薬草と書いてあります。決まったかばんがあるのでしょうか?
「えっと、かばん一杯ってどれくらいですか?手で持ってきちゃダメなのかな?」
「えっと・・・そぉね~、ちょっと持ちきれないかなぁ?」
まずいです!またマルティナさんが困った顔をしています。世間知らずなのは自覚していますが人に迷惑をかけてはいけません!緊急の依頼なので受けてあげたかったのですが、ここは地道にお屋敷の草むしりのお仕事にしましょうか?
「あの!わたしやっぱり草むしりの仕事を・・・」
仕事を変更しようとした時わたしの背後から4人の手が現れました。先ほどのお姉さんたちです。
「さっきは迷惑かけたしね」
「靴がないと怪我しちゃいますよぉ~」
「先・行・投・資」
「お姉さんたちのおごりよ」
そう言ってお姉さんたちはカウンターの上に握っていた銅貨を置いていきます。数十枚の銅貨で小さな山が出来ました。
「ふぅ~ごちそうさん。マルティナ、お代はここにおいとくぜ。5人分だ」
銅貨で出来た小山の隣に銀色のお金が置かれました。これはもしかしたら銀貨というのでしょうか?
「ディエゴさん。ちょっと待ってお釣りを!」
「小銭なんていらねえよ。その嬢ちゃんにでもくれてやりな」
わたしの前を通り過ぎながらそう言ったおじさんは、一瞬だけわたしを見ましたがすぐに前を向くと小さな声で「頑張れよ」と言ってくれました。怖そうな顔の人だなって思ったけど、とってもやさしい人でした!耳まで真っ赤でしたけど照屋さんなのかな?。それを見ていたお姉さんたちはくすくすと笑っています。
ゲームの中の人って優しい人ばかりですね!
「みなさん!ありがとうございます!」