28話:王室警護隊のお仕事。
【ムッカ】
「捜索隊はだせないんですか?」
「ごめんなさい。ギルドの規則ではDランク以上の冒険者の町の外での問題については自己責任だと・・・」
マルティナさんは申し訳なさそうにしていますが、言ってることはもっともです。冒険者が行方不明のたびに捜索隊なんか出していたらきりがありません。こうしている間にも迷宮では毎日冒険者が死んでいるのですから。
落ち込むあたしの横に依頼書を持ったリッカルドがやってきて、マルティナさんに手渡している。
「ムッカ、とりあえず森での採集依頼を受けたからついでに探してやるよ」
「リッカルド、ありがとう・・・」
「よせよ。ついでだ、ついで」
そんなことを言ってるけど、DランクのリッカルドたちがFランクの採集依頼を受けるはずがありません。採集依頼の方がついでなのでしょう。パオラの捜索はリッカルドに頼むことにします。それならわたしがすることは一つだけ。すずめちゃんの捜索です。
「マルティナさん、すずめちゃんの情報は何かないですか?」
「ん~・・・他の人が受けた依頼については口外できないんだけど、すずめちゃんだったらおそらく大丈夫だと思うわ。御前の所の仕事だから」
「御前?」
【すずめ】
「パオラさんが・・・」
目の前が真っ暗になって足元が崩れたような気がしました。膝がガクンと力を失い身体が傾いていきます。
「お嬢様!」
咄嗟にプリステラさんが受け止めて下さいましたが、呆然としてしまい身体に力がはいりません。
パオラさんは右も左も分からないこの世界で、最初に親切にしてくれた人です。資金を援助してくれて、冒険者として必要な物の買い物に付き合ってくれて、落ち込むわたしにベットまで貸してくれました。
お気に入りだった蝶の形のバレッタをパオラさんの髪に飾った時の、はにかんだ笑顔が忘れられません。
探さないと・・・
少し身体に力が戻ってきました。プリステラさんの手を借りて立ち上がります。パオラさんに会いたい。もう一度頭を撫でて欲しい。もう一度抱きしめて欲しい。もう一度・・・パオラさんの笑顔が見たい!
パオラさんを探さないといけません!
「プリステラさん、隊長さん、ここまで送っていただいてありがとうございました!急用が出来たのでこれで失礼しますね!」
ぺこりと頭を下げてお礼を言います。まずはギルドに行ってみましょう!ムッカさんなら何か知ってるかもしれません!走り出そうとするわたしの腕をプリステラさんが掴みます。何を!?
「隊長。わたしたちの任務はお嬢様を無事に宿まで送り届けること、ですよね?」
「その通りだ」
「お嬢様は、まだ宿に足を踏み入れていません。これでは任務放棄になります」
プリステラさんは何を言っているのでしょう?
「・・・そうだな。お嬢様は遠回りをして帰宅するだけだ。まだ任務は終わっていない」
隊長さんまで!?ここまで送っていただいたのです。これ以上迷惑はかけられません!これはわたしの事情であって、トモエゴゼンさんとは何も関係もないことなのですから。・・・それなら!
「宿に一歩を踏み入れればいいんです・・・ね・・・」
足を上げて宿に入ろうとしますが、プリステラさんが腕を引っ張って前に進ませてくれません。
「馬車へお連れします」
「プリステラさん!?」
わたしを抱っこしたプリステラさんがわたしを連れて馬車に乗り込みます。椅子に座ったわたしに窓の外から隊長さんが話しかけてきました。
「お嬢様、どちらへ向かいましょうか?」
なぜこんなにもやさしくしてくださるのでしょうか?隊長さんも、プリステラさんも王室警護隊です。わたしは王族でもなんでもないというのに・・・。そう言うと隊長さんは、何だそんな事かという顔をされて、おかみさんに聞こえないように小さな声でおっしゃいました。
「御前が、陛下がお嬢様をお守りして宿まで護衛しろと命じました。王族の護衛が任務の、王室警護隊の我々にです」
陛下!?陛下と呼ばれる方って王様と・・・それ以外にもいるのでしょうか!?さすがに王様がこんな町で暮らしているはずはありません。王様でないとすると・・・王様の、お母さん!?
「色々混乱されているかもしれませんが、今は一刻を争う時なのではないですか?」
そうです!今考える事ではありません!今はパオラさんを見つけることに集中しましょう!
「ギルドへお願いします!まずは情報を集めないと!」
「「はっ!」」
隊長さんを含む9騎の護衛の方、御者をしてくださっている方、それと向かい側に座るプリステラさん。総勢11名の警護隊の方の協力を得てパオラさんの捜索を開始します!
生きていてくださいパオラさん!
【???】
なんだコイツは!?
魔物なのは本能で分かるが、何かおかしい!?巨大な黒い獣の形をした魔物だが、魔物を喰っている!!俺たち魔物に他種族との仲間意識などはないが、同じ魔物を喰うなどありえない!
魔物として生まれた俺は少し前に疑問を持った。「冒険者を殺せ」という本能は誰かに植え付けられたものではないかと。俺たちは誰かに操られているんじゃないかと。それが今、確証に変わった。新たな本能が芽生えたのだ。
『この魔物に従え!』という、本能が!!
生まれ持った宿命ともいうべき性が本能だ。後から書き換わるものではない。それなのにたった今本能が芽生えた。
俺たちを操っている者がいる!?
それでも、それが分かっても、頭の奥底から沸き上がって来る本能に逆らえない。
俺と3人に減ってしまった仲間はその魔物に頭を垂れる。
今現在俺たちの仲間を喰っているその魔物に・・・。




