25話:プリステラさんと一緒!
【ムッカ】
「パオラに最後に会ったのはムッカなのか?」
「今のとこはそう・・・」
朝の依頼受注ラッシュも峠を越え、ギルドの酒場に残っているのは事情を知っているメンバーだけ。その事情とは、パオラが行方不明になった事だ。
数日前から宿にも戻っていない。パオラは借金があって宿も数日分しか払ってないので、荷物は昨日からあたしの部屋で預かってる。
あたしがパオラを最後に見かけたのは3日前の朝。すずめちゃんにパオラの部屋を貸して、パオラがあたしの部屋に泊まった時だ。朝に弱いあたしはまだ寝てたけど、先に起きたパオラは「部屋に寄ってすずめちゃんの様子をみてくる」と言って出かけた。ということはパオラに最後に会ったのは、おそらくすずめちゃん。ところがそのすずめちゃんも昨日3区でドブ掃除をしている姿を目撃されたのが最後で、夜になっても宿に戻ってこない。
「西門の外で見つかったパオラの剣は、根本付近から真っ二つになっていたそうだ」
「夜に門を閉じる時にはそんなものはなかったらしいし、夜になっても町に帰ってこなかったのか?」
「いや、それどころか昼間にも誰も見てないって言うし、ずっと外にいたみたいだ」
一体パオラとすずめちゃんに何が起こってるの?
「ギルドに来たのは4日前が最後か。4日前っていったら・・・アノ日か・・・」
「おい、その話題は戒厳令に引っ掛かるぞ!」
そうだ。すずめちゃんが『ヨミガエリ草』を持って帰った日だ。その次の日からパオラが行方不明で、持ち帰ったすずめちゃんも見当たらない。
パオラは結構な額の借金もある。妙な事を考えてなければいいんだけど・・・。
【すずめ】
魔物でないかなぁ~♪
「・・・わたし性格変わりましたね・・・」
「どうかされたのですかお嬢様?」
「い、いえ、独り言です」
パッセロの町に向かう馬車の中、出発した時は一人でしたが今は向かい側の席にプリステラさんが座っています。茂みで下着を履き替えて馬車に戻るとき、あまりの恥ずかしさにプリステラさんの背中に顔を埋めながら歩きました。それを見た隊長さんが、プリステラさんにわたしの面倒を見るように命じてくださったのです。町まではまだ少し時間がかかるそうなので、話し相手が出来てうれしいかぎりです。
それにしても、魔物ってすごい経験値を持ってるのですね。
ドブ掃除をしていた時は2日かけてレベルが5あがって6になりました。ところが馬車に乗って魔物退治の見学をしているだけでレベルが8も上がってしまったのです!それもわずか小一時間で。
魔物が倒すべき敵なのは理解しました。理解はしましたがやっぱり殺すのには抵抗があります。警護隊のみなさんが槍で突き刺した時、魔物も悲鳴を上げていました。やっぱり魔物だって怪我をすれば痛いのです。せめて痛みも感じず即死させてあげられればいいのですけど・・・。
分かってます。これは平和な元の世界で生きていたわたしのエゴです。プリステラさんだって「なぜ魔物を倒して悲しむのですか?」と不思議そうにしていました。
動物に似ているから、同じような姿をしているからちょっと悲しいと言ったら、「むしろ動物に似ている魔物の方が少ないですよ。巨大な虫や植物みたいな魔物、はては何にも似てない奇妙な魔物だっています」と、言っていました。
「まあ、お嬢様が魔物のことをかわいそうと言うのもわからないではないです。小さなウサギのような魔物は見た目はとても可愛らしいですし」
「そんな魔物もいるんですね!それじゃプリステラさんはその魔物にあったら見逃すのですか?」
「いいえ、殺します」
「ああ・・・そうですか・・・」
それはそれ、これはこれみたいですね。詳しく聞いてみると鋭い牙を持っていて子供とか襲われるそうですし・・・。
やっぱり剣や槍で突き刺すのはかわいそうに思います。生まれ育った世界が違うのでこれは変えようがありません。それならばせめて一撃で倒すことを考えますか・・・。そうなるとやはり魔法ですね。
「プリステラさんも魔法を使えるんですよね?」
「よくお分かりですね。警護隊で使えるのは数人しかいないのに」
マズイです!そう言えば【一覧表示】で見たので知っていますが、教えてもらってはいませんでした!ずっと見えているのも考えものですね。
「えっとえっと、あ!先ほどタオルを濡らすのに水魔法を使ってたじゃないですか!」
「ああ、そういえばそうでしたね。子供のころから使えたので無意識でした」
ふう、危ない危ない。自己紹介されるまで【一覧表示】は控えた方がいいかもしれませんね。
「わたしが使えるのは水だけで、力もたいしたことはないんですけど、飲み水には苦労しません。水よ」
そう言うと空中に水の玉が浮かびました。アニメで見た水魔法は槍のようにして攻撃したり、回復魔法の一種だったりしましたがこちらの世界ではどうなんでしょうか?
「その水魔法で攻撃したりするんですか?」
「え?これでどうやって攻撃するんですか?」
「あれ?」
どうやら水を生み出すだけで動かしたり形を変えたりできないそうです。魔法総合力が上がると生み出せる水の量が増えるそうで、プリステラさんの力だとこの警護隊一隊の飲み水確保には苦労しないんだとか。
「それじゃ魔法で攻撃は無理ですか~」
「お嬢様は面白いことを考えるのですね。まあ泳げない魔物ならば穴に落として溺れさせることはできるかもしれませんが、そんな器用なことが出来る人は滅多にいませんよ」
ん~。本当に生み出すしか出来ないんでしょうか?
詳細には「詠唱速度」や「魔法操作」という項目もありましたし、「水よ」で済むなら「詠唱速度」なんて関係ないですよね?
いい機会です。プリステラさんにちょっと協力してもらいましょうか?
「プリステラさん、ちょっといいですか?」
「なんでしょうか?」
「じっとしててくださいね」
わたしは手の平をプリステラさんに向けて、意識をプリステラさんに集中させます。
うまくいくかな?
「表示設定変更。詳細表示!」




