23話:魔物退治!の見学です。
馬車はゆっくりと草原の中の街道を進んでいきます。目に映るのはまさに草の海と表現するのがぴったりな光景ですね。ところどころにある大小様々な岩が小さな島に見えてきます。
暫くは何事もなく進んでいましたが、御者をされている方が「隊長、前方から行商の馬車がきます」とおっしゃいました。
「へ~馬車ですか。どんな形の馬車なんでしょうかね~」
わたしが気楽に窓を開けて前を見ようとすると、並走する騎馬のみなさんが急に隊列を変え、前方を警戒するように馬車を囲みました。
「旗をあげろ」
隊長さんの号令で一人の護衛の方が黒地に金銀の刺繍の施された煌びやかな旗を掲げました。風にたなびく旗は豪華そのもので、いかにも高貴な人が乗っている馬車だと言わんばかりです。乗ってるのはわたしですけど・・・。
馬車は速度を変えずそのまま進みます。街道は2台の馬車がすり抜けるには微妙な広さで、どうやらあちらの馬車が端に寄って道を譲ってくれるようです。
「お嬢様、あまり顔を出されないように」
隊長さんが側に寄ってそう言うので、窓とカーテンを閉めて隙間からこっそり覗くことにします。
「来た来た。一体どんな馬車が・・・」
すれ違ったのは馬車の外に鉄板の張られた馬車が1台、2台、3台・・・そして鎧を着た護衛の方が10人・・・20人!?
さっき行商の馬車って言いませんでした!?どこの軍隊ですか!?
何事もなく通り過ぎましたが、あれは馬車ではなく戦車って言うんじゃないでしょうか?ここってそんな危険なとこなんですか!?
ちょっと心配になりましたがその後は特に何事もなく、お昼前にはパッセロの町に戻れるそうなので、それまでは流れる景色を楽しむことにします。今まで病室の窓から見ていた景色と違い、流れている景色はなんて楽しいのでしょう!時々何かの動物の群れも見えます。
「わあ!すごい群れですね~あれは何て言う動物なんですか?」
窓を開けて近くの護衛の方に声をかけると、わたしを見た護衛の方が腰の剣に手を伸ばして抜き放ちました。
「え!?・・・」
まさか!?・・・
「お嬢様、あれは魔物ですよ」
「あれれ?いきなり剣を抜くから人質にでもされるのかと思いましたよ?」
「冗談はやめてください。わたしたちは王室警護隊なのですから」
あーあーあー!!何にも聞こえなぁ~い!わたしは何も聞いてませんよぉ~!!王室警護隊!?王族とかやめてください!わたしはただのFランク冒険者ですよ!!トモエゴゼンさん、なんて護衛をつけてくれるんですか!?
「各方面一人だけ残してあとは迎撃に出る!魔物を馬車に近づけるな!」
「「「「「はっ!」」」」」
窓の外で魔物と警護隊の戦闘が始まりました。馬に乗っている状態では戦いにくいのでは?と思いましたが、突進してくる魔物を槍で華麗にさばいて連続で突きをいれています。
近づいてきてようやく姿がはっきり見えましたが、どうやらイノシシっぽい魔物のようです。体長は2mほどもあり、わたしの知っているイノシシよりやや大きいですが、イノシシと同じ2本の牙と額からも一本の角が出ています。確かに普通のイノシシではないようですけど、魔物とはいえ殺されるのは見たくないしかわいそうなので、うまく追い払ってくれればいいのですが・・・。
そう思っていた時、馬車を見上げたイノシシの魔物がわたしに向かって大きく口を開けました。縦にではなく横に・・・。
「ぎゃああああああ!!」
気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪いぃっ!!なんですかあの口は!?上あごはイノシシそっくりですが、下あごはまるで蜘蛛か昆虫のように横に開き、その中には肉食であると言わんばかりの鋭い牙が並んでいます!ひょろっと長い触手まで飛び出ていて、まるっきり映画のエイリアンです!
この世界はどうやらゲームの中のようですし、そうなると当然魔物をデザインした人が存在します。魔物だってかわいい見た目でもいいと思うのですが、よりにもよってなんであんな気持ち悪い魔物を作ったのでしょう・・・。わたしの中にある慈悲メーターが、0を飛び越え一気にマイナスまで振り切りました。あれは退治すべきモノです!!悪・即・斬です!わたしみたいなプレイヤーが迷わず魔物を倒せるようにとデザインしたのなら、ある意味正解かもしれませんが。
「うらあああっ!」
馬に乗った警護隊の人が一頭の魔物を槍で串刺しにしました。魔物は心臓でも貫かれたのか一瞬で絶命し、遥か後方に消えていきます。一撃で魔物を倒すなんて強い方ですね!さすがは王室警護隊・・・。
その時頭の中にアナウンスが流れました。
『経験値が貯まりレベルが7になりました。スキルポイントを7獲得しました。合計スキルポイントは13です』
あれれ?なんで警護隊の人が倒した魔物の経験値がわたしに入るんでしょう?
「ステータスひらけ!」
やっぱりレベルが上がっていますね。ん?パーティーボーナス?説明文を読んでいる間にもどんどん経験値が入ってきます。
『経験値が貯まりレベルが8になりました。スキルポイントを8獲得しました。合計スキルポイントは21です』
『経験値が貯まりレベルが9になりました。スキルポイントを9獲得しました。合計スキルポイントは30です』
『経験値が貯まりレベルが10になりました。スキルポイントを10獲得しました。合計スキルポイントは40です』
どこまで上がるんでしょうか?・・・




