02話:冒険者登録してみます。
ここはどこでしょう?
目の前には堅そうな木で作られた大きなカウンターがあり、その後ろには天井まである棚が視界一杯に広がっています。
わたしは自らの手を見つめ、それから足元を見ました。
「自分の足で立ってる?・・・」
産まれて初めて自らの足で立ちました。これは夢なのかしら?わたしが立てるはずがありません。それなのに足の裏に木のフローリングの感触があります。立つってこういう感覚なの!?わたし歩けるの!?足を一歩前に、前に、前に・・・歩くってどうやるの?そうか!足をあげればいいんだ!えいっ!
あれれ?身体が傾いて・・・
「きゃ!」
右足を上げたらバランスを崩して尻もちをついてしまいました。そうか!右足を上げたら左に体重を移動しないといけないんだ。よおし!もう一回!
再び立ち上がると左に身体を傾けてゆっくりと右足を上げました。少しプルプルとしますが片足で立つことが出来ました!右足を前に出し床に付けます。できました!次は右足に体重を移動して左足を上げて、前に!いけます!
あ、カウンターにぶつかってしまいました。でも、歩けた!それでも2歩歩けたのです!
「やったやった!わたし歩ける!」
飛び跳ねて喜んでいるわたしを不思議そうに見つめるいくつもの視線がありましたが、わたしはそれには気づきませんでした。
立てたことも驚きですが、よく見るといつも身体から伸びているいくつものコードはなく、寝巻でもありません。ごくたまに体調がいい日に車いすで中庭を散歩することがありますが、今着ているのはその時用のとっておきの白いワンピースです。
いつの間に着替えて病院の外に出たのかしら?
ふと顔を上げるとカウンターの奥から一人の女性が近づいて来ました。羊のような丸まった大きな角の髪飾りを付けた笑顔の素敵な女性です。
「あら?かわいいお客様ね。冒険者ギルドにようこそ。何か御用かしら?」
冒険者ギルド!?ゲームの説明文にあったあの冒険者ギルドですか!?これは夢じゃなくてゲームなの!?まるで本当に体験しているみたいです!
「あ、あの!わたし、山田すずめっていいます!よろしくお願いします!」
そう言って深々と頭を下げます。
「あらあら、礼儀正しい子ね。わたしはこのパッセロの冒険者ギルドで受付嬢をしているマルティナです。よろしくね」
マルティナさん!外人さんみたいなステキな名前です!変わった髪飾りをしていますが、見慣れるとこれはこれでかわいいかもです!
「あの!わたし、冒険者になりたいんです!」
「え!?」
マルティナさんが驚いて一歩後ずさりました。あれ?ここで登録できるんですよね?
「冒険者だと?・・・」
少し離れた所から男性の低い声が聞こえてきました。振り向いてみるといくつものテーブルや椅子が置かれ、大勢の人たちが食事をしています。歩けたことに驚きすぎてこんなに人がいることに気づきませんでした。冒険者ギルドってお役所みたいに思っていましたが、こんなに大勢の人が食事をできるなんてパーティー会場みたいです。
「はい!わたし、冒険者になって皆さんのお役に立ちたいんです!」
「・・・冒険者になって何がしたいんだ?・・・」
身体中傷だらけのお怪我をした男性が椅子から立ち上がってわたしの方へ歩いてきました。こんな大けがをしていて歩いて平気なのでしょうか?マルティナさんとは違いますがこの男性も頭の上に猫耳のカチューシャをつけています。髪飾りが流行っているのでしょうか?
「えっと、お手紙の配達をしたり、畑の収穫を手伝ったり、あとは薬草採集なんかもやってみたいです!」
「薬草・・・採集?・・・冒険者になってやりたいことがそれか?」
「はい!とっても楽しそうです!」
近くまで歩いてきた大きな男性は小さくため息をついて、虫でも払うように手を振り元いた席に戻って行きました。
わたし、何か変な事を言ったのでしょうか?
「あっはっはっは!Fラン志望者か!」
「危険な事はしないみたいだし、脅して諦めさせる必要はなかったな!」
「リッカルドは優しいわね~くっくっく」
「てめえらうるせえぞ!」
わたしの言葉で一瞬静まり返った会場は、大爆笑が起こり急に騒がしくなりました。皆さん仲がよさそうでうらやましいです。ずっと入院をしていたわたしにはお友達がいません。できるならこのゲームでお友達も作ってみたいですね!
「えっと、すずめちゃんは何歳なのかな?Fランクでも登録は12歳以上じゃないとダメなんだけど」
「はい!先月12歳になりました!」
「そう、なんだ。一応登録は出来るけど、15歳まではランクを上げることは出来ないし、魔物の討伐依頼も受けられないけど、それでもいいの?」
魔物の討伐?生き物をいじめるなんてかわいそうだからそんなことしたくないんだけど。
”何をするのも自由”って書いてあったよね?
「魔物の討伐なんてしたくないんですけど、しないとダメなんですか?」
「そ、そんなことはないわよ!配達や町中の依頼も大切よ!受けてくれる人が少なくて困ってたから、すずめちゃんが引き受けてくれたら助かるわ!ただ・・・Fランクの依頼料はちょっと少ないんだけど・・・」
カウンターから乗り出したマルティナさんは、わたしの両手を握って喜んでくれました。これでわたしも冒険者になれるようです!
「それじゃさっそく手続きするわね。すずめちゃんは・・・読み書きは出来るのかな?」
「はい!ちゃんと勉強はしていましたから!」
「すごいわね~!それじゃこの書類に記入してね。あ、わかるとこだけでいいからね?」
「はい!」
えっと、最初は”なまえ”ね。山田すずめっと。次は”ねんれい”ね。12歳。それから”うまれたところ”?んっと、産まれたのは広島だからこれでいいのかな?それから・・・”しゅぞく”?種族って何でしょう?分かる所だけでいいと言っていましたからここは飛ばしてもいいかな?
「書けました!」
「どれどれ・・・えっ!?すずめちゃん、漢字が書けるの!?」
「「「なんだって!?」」」
ええ!?何か間違っていたでしょうか!?「歳」の字が少し難しかったですけど合ってると思うんですけど。食事をしている皆さんが驚いて席から立ちあがっています。
「もしかしてすずめちゃんて・・・どこかのお嬢様か何かなの?・・・」
「いえ!ただの山田家の一人娘ですけど・・・」
マルティナさんは書類とわたしを交互に見て不思議そうにしています。書類の内容がすべてひらがなだったので子供でもわかる親切なゲームだと思っていたのですが、ちがうのでしょうか?
食堂がまだざわついていますが、マルティナさんは「コホン」と一つ咳ばらいをして書類を受け取ってくれました。
「はい。確かに申請を受け付けました。それでは冒険者登録をしますので・・・」
やりました!これでわたしも冒険者になれます!
「登録費用として銅貨10枚をお願いします」
「え?・・・ドウカ10マイ?」