19話:オークションに参加しました。
【パオラ】
「はぁはぁ・・・どこにあるのよっ!!」
ない・・・ない・・・ヨミガエリ草がどこにも見当たらない・・・!
3日間森を彷徨ってヨミガエリ草を探しました。何度もパルーデポイズンスネークに襲われて死にそうな目にあって、それでも必死に探したのに・・・なんでないのよ!!
もしかして・・・すずめちゃんが、何か隠している!?
すずめちゃんにもらった蝶の形のバレッタにそっと触れると、頭を振って暗い感情を消し飛ばします。
「こんなこと考えちゃダメ!」
それでも次々湧いて来る黒い感情がわたしを飲み込んでいきます。借金を背負ったわたしとこれから大金を手にするすずめちゃん。ほんの少し前は無一文のすずめちゃんに施しをしていたのに、一瞬で逆転されてしまいます。
たまたまレアな薬草を見つけただけなのに!
その時、木の上で眠っていた鳥たちが一斉に飛び立ちました。わたしの暗い感情が熊としての本能を呼び起こしたのでしょうか?
グオオオオオオオオオッ!!
森の中に獣の咆哮が響き渡りました。
【すずめ】
「・・・もう他に希望者はいませんか!?・・・35番さん落札です!!」
おおおおおぉ・・・・
オークションが始まりました!最初はわたしの持ち帰ったヨミガエリ草の為のオークションかと思いましたが違いました。どうやら月に一度開かれている定期開催らしく、出品されているのは主に冒険者の方が持ち込んだレアアイテムのようです。ここまで10個ほど出品されていますがトモエゴゼンさんはソファーにふんぞり返ったまま動きません。一体何を狙っているのでしょうか?
「さて次の出品です!NO.12!北の氷山地帯から持ち帰った謎の剣!銀貨100枚からスタート!」
「9番さん!110枚!」
「27番さん!120枚!」
「11番さん!140枚!」
すごい熱狂ですね~次々と手が上がって金額が吊り上がっていきます。よくあの一瞬でやり取りができますね。あの指の数で金額を提示してるのかな?
「他はないですか~!?・・・18番さん落札!」
おおおおおぉ・・・・
「さて次です!ここで本日の飛び込み品です!NO.00!状態は良くありませんが久々の出品です!銀貨400枚からスタート!」
「手を挙げな」
「え!?」
突然トモエゴゼンさんから指示があったので無意識に手を挙げます。というか、あれってわたしが出品した「ヨミガエリ草」ですよね!?
「4番さん!銀貨450枚!」
どうやらわたしたちが4番みたいです。
「32番さん!銀貨460枚!」
「18番さん!銀貨470枚!」
あら?どうやら金額で抜かされたようです。残念でしたね。それにしてもとんでもない金額ですね・・・。
「ずっと手を挙げな」
「え?あ、はい!」
「4番さん!銀貨520枚!」
「27番さん!銀貨530枚!」
「4番さん!銀貨580枚!」
「27番さん!銀貨590枚!」
あわわ!どうやら27番さんとの一騎打ちのようです!ずっと手を挙げたままですけどいいんですかね?わたしの時だけ金額の上がり方が変ですけど、まっすぐ伸ばした指に関係してるんでしょうか?・・・。
「そんなに『ヨミガエリ草』が欲しいんですか?・・・」
「あんた・・・なんで出品物の名前をしってるんだい?」
「え?だって・・・あれはヨミガエリ草だって・・・」
マルティナさんが言ってましたし・・・
「4番さん!銀貨640枚!」
「前回ヨミガエリ草が出品されたのは7年前さね。あんたが見たことあるはずないんだがね?そんな歳なのかい?」
「27番さん!銀貨650枚!」
「そもそも一般人が目にすることなんてないんだよ。一般人で知っているとすれば、ギルドの関係者か・・・」
「4番さん!銀貨700枚!」
「もしくは出品者か・・・」
「27番さん!銀貨710枚!」
トモエゴゼンさんはジロリとわたしを睨みます。思わず目を逸らしてしまいました。これはバレてしまったようですね・・・。わたしが出品者であるということが。
「4番さん!銀貨820枚!」
バレてしまったのなら仕方ありません。マルティナさんがわざわざ戒厳令まで出してわたしを守ってくれようとしていたのに・・・わたしのミスです。
「他にありませんか!?」
とても価値のある薬草のようですし、わたしを脅して採集場所を聞き出そうというのでしょうか?
「4番さん!落札!!」
おおおおおおおおおおっ!!
何も知らないんですけどね。その時のわたしはため息を吐きながら苦笑いが出るという、なんとも不思議な表情をしていたと思います。
「落札おめでとうございます」
「・・・あんたは運がいいね」
お金儲けのためならば2本目3本目を狙ってわたしを捕らえるのでしょうけど、どうやら目的は達したようです。落札できなければ、おそらくこの方は手段を選ばないのでしょう。何かわけがおありのようです。
ヨミガエリ草を落札したトモエゴゼンさんは、交換札を受け取るとすぐに立ち上がって出口に向かいました。
「ついといで」
大人しくついて行き会場の外に出ます。黒服さんの守る扉からロビーに出ると、ぐるっと回って前方のオークション会場の裏に向かって歩みを進めます。トモエゴゼンさんは無言のまま歩きます。わたしも口を開かず歩きにくい着物でなんとかついて行きます。再び黒服さんの集団が守る小さな扉の前に行くと交換札を手渡しました。
「どうぞ」
黒服さんに案内されて会場の裏手に入ります。体育館の舞台裏のような感じのそこは薄暗く、雑多な荷物が置かれていました。
「さあ!他にありませんか!?」
すぐ横にオークションのアナウンスをする人の姿があり、次の出品物を警護している黒服さんの集団もいます。案内の黒服さんとトモエゴゼンさんは更に奥に進むと、灯りの漏れている小さな部屋に入りました。そこにはカウンターが置かれており珍しい品々が並んでいます。先ほどオークションで見た物ですね。
「こちらが落札されたNO.00の商品になります。ご確認ください」
「・・・まちがいないね」
着物の裾から取り出した小さな虫眼鏡のような物で、ヨミガエリ草をじっくりと見つめたトモエゴゼンさんはそう言うと虫眼鏡をしまいました。
「お支払いはいつもの方法でよろしいですか?」
「ああ、後で屋敷に取りにおいで」
どうやら常連さんのようです。黒服さんはこちらでは初めて見た真っ白な紙にヨミガエリ草を包み、桐箱に納めてくれます。トカゲ人(仮)の人が口に咥えていたような薬草が、今や宝物のような扱われ方をしています。確かに銀貨820枚なんてとんでもない金額ですしね・・・。
トモエゴゼンさんは桐箱を受け取ると大切そうに胸に抱え、案内された裏口から外に出ました。外にはすでに馬車が用意されていて迷うことなく乗り込みます。こちらの世界には車なんかありませんが、漆で塗装された黒光りする馬車は高級車のように見えました。扉に何か紋章のような物がありますがトモエゴゼンさんの家紋か何かですかね?
「早く乗りな」
「なんだかわたし場違いじゃないですか?」
はぁ、こうなったら最後までお付き合いするしかないですね。結末も気になりますし。
なんとなく。
お孫さんが関係してるんだろうなってことは分かります。
『特級回復ポーション素材のヨミガエリ草じゃないっ!?』
マルティナさんがおっしゃっていた言葉を思い出します。
特級回復ポーション。
ただの回復ポーションでも致命傷を治すほどのお薬です。それの特級品。素材の名前が『ヨミガエリ草』。
本当に死者の蘇生ができるのでしょうか?




