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17話:名前はまだ、名乗ってない!

 なぜこんなことが起こるのでしょう・・・。

 今日の運勢はきっと最下位ですね・・・。

 開け放たれた窓の下では、昨日の若い男性が半裸で水浴びをしていました。ついさっきまで。そしてその男性の手には、干していたわたしのワンピースが握られているのです。パンツと一緒に・・・。


 朝起きて窓辺に干していたワンピースに触ってみたらまだ半乾きでした。服はコレしかないので窓を開けて風に当てていると、急な突風で下に落ちてしまいました。


「ああああ!」


 窓から身を乗り出して手を伸ばしましたがわすかに届かず、そのまま服が下に落ちて行きましたがそれをキャッチしてくれた人がいました。助かったと思ったら、まさかの昨日わたしの裸を見た男性でした・・・。

 地面に落ちて汚れなかったのは不幸中の幸いでしたが、右手でキャッチしたワンピースはともかく、左手にはわたしのパンツが握られています・・・。不幸中の不幸ですよ!!

 さらに不運なのがわたしの今の境遇です・・・。唯一の服がないので奪い返しにもいけません・・・。


「すみませんが・・・持ってきて・・・もらえませんか?・・・」


 窓辺から顔の上半分だけを出して涙目で懇願します。自らのパンツを若い男性に持ってきてもらうという、人生最大の屈辱です!!もういっそここから飛び降りて!!・・・2階からでは怪我するだけで丸損です!


 コンコン


 来た!?一体どんな顔をして受け取ればいいのでしょうか・・・。肌着と下着の上からベットのシーツをマントのように羽織ります。鍵を開けて少しだけ扉を開けます。隙間から見えたパンツとワンピースに手を伸ばすとひったくるようにして引っ張りました。


 ガン!


「痛てっ!・・・」

「え!?・・・」


 バタン・・・


「てぇ~・・・」


 あ、あ・・・わたしが放心状態で動けずにいると足音がゆっくりと遠ざかって行きました。


 わ、わたしは何てことをっ!!


 そもそも裸を見られたのはわたしがあんな恰好で廊下に出たせいです!服を落としたのもわたしの不注意で!わざわざ持ってきてくれたのに、お礼も言わずにひったくって怪我をさせてしまった!?それなのにあの男性は、お詫びだと言って食事をごちそうしてくれて、怪我をさせられたのに咎めもしない・・・。


 わたしは・・・最低の女じゃないですか!?


 なんでこんなことになってしまったのでしょう。わたし自身が情けなさ過ぎて涙が出てきました。彼は何も悪くないのに、悪いのは全部わたしなのに・・・謝らないと!会うのが恥ずかしいとか言ってられません!今すぐ会って謝りたいです!頬を伝う涙を腕で乱暴に拭うと扉を開きました!


「あ!・・・」

「・・・おい」


 眉毛のあたりにハンカチを当てた彼が、階段の方から歩いて来ていました。やっぱり怪我をさせていました。


「あ、あの!ごめんなさい!」


 両手を前で揃えて上半身ごと頭をさげます。


「昨日はごちそうしてくださってありがとうございます!それと服も拾ってくれてありがとうございます!」

「いや、それはいいんだけど・・・」


 彼はなぜか困ったような顔でわたしを見ています。急に手の平返ししたみたいに謝られても困るということでしょうか?それとも他に何か?


「とりあえず、服着たら?」

「あ!」


 マントのように羽織っていたシーツがずり落ち、昨日と同じ姿を晒してしまいました。


「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!」


 バタン!





「はぁああああああああああ・・・」


 最悪です・・・。何をやっても裏目に出る日なのでしょうか?朝っぱらからパンツは見られ、裸は見られ、ドブ掃除が終了して排水溝から出ようとしたら、すべって転んでずぶ濡れになりました。白いワンピースなので肌着も下着も透けてしまって丸見えです・・・。排水溝から上がることも出来ず、水の中で体育座りをし続けてすでに1時間。これからどうしましょう・・・。


 クシュン!


「何やってんの?・・・」

「あ・・・」


 この人に何回こんな姿を見られるのでしょう・・・。無表情で上から見下ろしています。


「えっと・・・」

「いや、言わなくていい。大体察した」


 そう言うとおもむろに上着を脱ぎはじめ、わたしの肩にかけてくれました。


「割と大きめのはずだから下まで隠れると思う」

「あ、ありがとう・・・」


 冷たい水からようやく抜け出せます。冷えて体力が落ちたのか排水溝を上がるのも億劫でしたが、目の前に手が差し出されました。


「ん」


 目だけで掴まってと言うのでその手を取りました。ずぶぬれで重くなっているのに軽々と引き上げられました。思った以上に力があるみたいです。初めて男性の手を握りましたが大きくてあったかくて、ちょっと恥ずかしかったです。


「あの、何度も何度もありがとうございます・・・」


 初めてまともに顔をみました。若いとは思っていましたが成人はしてなさそうです。17歳?18歳くらいでしょうか?


「いや、宿に戻るなら送っていくけど?」

「いえ、そのお仕事の報告もしないといけませんし・・・あ!上着をお返ししないといけませんね!」


 そのままトモエゴゼンさんの所に終了報告をしようと思いましたが、上着を借りっぱなしにはできません。宿に戻って洗ってお返ししなければ。


「上着はいいよ。あげるよ」

「でも!頂くわけには・・・」

「その服しか持ってないんでしょ?シーツにくるまって現れたくらいだし。あげるよ」


 なんだか貧乏なのを見透かされたみたいですっごく恥ずかしいですが、実際そうなので反論もできません・・・。それによく見るとこの上着、この世界の服にしては随分上等ではないですか?もしかしてお金持ちなのかな?

 それにしても・・・


「いいえ、お返しします。あなたは()()()男物の服をプレゼントする方なんですか?」


 あまりに恥ずかしいとこばかり見られているので、少し反撃したくなりました。女性へのプレゼントならともかく、子供への施しなら受けません!


「あ~、くっくっく。面白い子だね」


 あれ?あまり表情が動かない人だと思ったけど、ちゃんと笑うんだ。なんだかかわい・・・!?わたし、今なんて思ったの!?


「わかった。上着はいつでもいいよ。何度も()()()()を見せてもらったし、今度女物の服をプレゼントするよ」


 瞬間的に顔が真っ赤になりました!さっきまでの感情は強制送還します!!


「な、ななななな!・・・破廉恥です!!」


【ヨシヒデ・ファルシータ・シノビ】犬狼族:17歳:オス

肉体総合力:36

精神総合力:48

魔法総合力:3

 魔法適正:火

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