12話:新しい依頼を受けました。
「マルティナさん、この依頼をお願いします!」
「どれどれ?ふむふむ・・・排水溝の、ドブ掃除?よりによってなんでこれなの?いや、受けてもらえれば助かるんだけどね?」
薬草採集に続いてわたしが受けようと思った依頼はマルティナさんが言った通りです。
ゴミ掃除やドブ掃除は誰もやりたがらないと思うのでわたしがやります!この世界で生きていくと決めたからには、誰かの役に立つ仕事がしたいと思いました。わたしはまだ子供ですし力もありません。ドブ掃除は結構大変そうですが、続けて行けば力もついて力こぶだってできるかもしれません!
「それに力仕事を頑張れば”レベル”だって早く上がるかもしれないじゃないですか!」
「は?れべる?」
「あ!いえいえ!こちらの話です!」
「まあ、いいんだけどね。チュンチュンは時々お姉さんにわからない話をするわよね?」
ゲームを始める前に読んだ説明書には依頼や魔物討伐をすると”レベル”が上がると書いてありました。
レベルとは目には見えない”経験値”がたまると上がるらしく、レベルが上がると色々な特殊な能力がもらえるそうです。基本となる力や素早さのアップ、一定の基本値に達成した時に覚えられる特技や魔法など。
そう!魔法です!!
この世界には魔法があるのです!
密かに憧れていた『魔法少女』になることも夢ではないのです!
魔物の討伐をする方が効率はいいらしいですけど、普通の依頼をこなしても経験値がたまるなら、わたしはこっちの方がいいです!
レベルや経験値といった物が適用されるのは”プレイヤー”だけらしく、このゲームの中の人たちにはレベルはありません。ただ強い人と弱い人がいるだけです。レベルはなくても一般的な鍛えた分だけは強くなれるようですが。
「それじゃ3区画の排水溝全てのドブ掃除ね。期間は5日間。1日銅貨25枚で5日で全部終わらせたら銅貨125枚ね。安くて申し訳ないけど、詳しい事は3区の区長さんに話を聞いてね」
「はい!」
「それと・・・」
マルティナさんが小さく手招きするのでカウンターに近づいて背伸びをします。
「ヨミガエリ草のことなんだけど、明後日オークションが開かれることになったわ」
「オークション!?」
「しーっ!」
「あ・・・」
内緒話なのに思わず大きな声が出てしまいました。マルティナさんが周りをキョロキョロしますが誰にも聞かれていないようです。オークション!アニメで見たことがあります!1万!2万!とか言いながら手を上げて買う人を決めるシステムですね!
「出品者か入場許可を受けた人しか入れないから見ることはできないけど、売却金額には期待しててね」
ギルドを出て3区に向かいます。オークションか~わたしも見てみたいなぁ~。出品者はわたしですけど名乗り出るのは危ないですし・・・。入場許可ってどうすればいただけるのでしょう?やっぱりお金持ちじゃないとダメなのかな?そんな事を考えていると3区の区長さんのお屋敷に到着しました。そうです・・・お屋敷です!
「はへ~でっかいおうちですね~」
敷地をぐるっと囲う白い塀が左右数軒分にも及んでいます。少し和風な門の前には二人の男性が立っていました。
「こんにちわ!」
「なんだ?この屋敷に何か用かい?」
「Fランク冒険者のすずめです!依頼を受けてきました!」
依頼書を門番の方に見せると一人の方が中に入って行きました。
「確認をとってくるから少し待っていてくれ」
「はい!」
しばらく塀の前の水路を眺めます。ここの排水溝は小川みたいに綺麗で、水草が流れに沿ってゆらゆらと揺れています。
「あ!メダカまでいる!」
「くくく」
門番さんには笑われてしまいました。ちょっとはしゃぎ過ぎましたね・・・。顔が赤くなってきました。でも、初めて生でメダカを見ました。小さくてかわいいお魚ですね!
「待たせたな。奥様がお会いになるそうだ。ついて来てくれ」
「はい!」
お屋敷の中もとても広く、長い縁側の廊下を歩きます。和風なのはお屋敷の中も同じで、こちらの世界で初めて靴を脱いで家に入りました。宿でも靴は履いたままでしたからね。
「奥様お連れしました」
「おはいり」
案内してくれた門番さんが手振りで中へどうぞとおっしゃったので「失礼します!」と言ってふすまを開けました。そう言えば時代劇では正座の姿勢でふすまを開けたり閉めたりしていましたね!幸い中にいる奥様は後ろを向いて座っているので見られていません!今からでも正座してふすまを閉めることにしましょう!
「ほう・・・」
ちょうど正座をしながらふすまを閉めると奥様がこちらを振り返りました。確か時代劇ではこんな風に・・・正座の姿勢から膝の前に指をついてゆっくりと頭を下げます。顔を上げて頭の中で二つ数えて・・・。
「初めまして!Fランク冒険者のすずめと申します!依頼を受けて参りました!よろしくお願いします!」
元気に挨拶をしましたが奥様はわたしをじっと見つめて表情一つ動きません。何かやらかしちゃったかな?・・・
白髪交じりの髪を銀杏返しにしている人族の方です。銀杏返しは髪型で遊んでいた時にやったことがありますが、かなり大変だったのを覚えています。奥様は地味な柄の着物を着ていて身体も小柄ですが、背筋がピンとしていて若々しく、何か威厳のようなものを感じます。エライ人なのでしょうか?
「作法はどこかで見知っているようですが、見様見真似の域は出ていませんね」
バレバレです。テレビで見た程度ですし細かいところまでは覚えてません!
「しかし、子供にしては上出来です。元気がよすぎるのが玉に瑕ですが」
「あはは・・・」
一応褒めてくれているのでしょうか?
「わたしはトモエゴゼンと言います。依頼内容の説明は必要ですか?」
「依頼書に書いてあることは読みました。それ以外で知っておくべき事があればお願いします」
元気が良すぎると言われたので少し声量を押さえます。わたしもできるだけ背筋を伸ばしますが、慣れない正座は足が痛いです!
「そうですね。仕事の範囲、期間、報酬は依頼書に書いてある通りです。ただし我が家の周囲の堀は掃除の必要はありません。必要な道具は貸し出しますので外に控えている者に声をかけてください。掃除をしたゴミは路上で乾かしていただければ結構。後日別の者に回収させます。何か質問はありますか?」
「ありません」
「そうですか。それではよろしくお願いしますね」
「はい!」
最後に元気な返事をしましたが、トモエゴゼンさんは少し眉をひそめるくらいで、特に何もおっしゃいませんでした。
さて!ドブ掃除を始めますか!
「おはよ~マルティナ~・・・」
「遅いわよムッカ。チュンチュンはもう依頼を受けてでかけたわよ」
「そうなんだ・・・朝は弱いのよあたし・・・あれ?パオラは~?」
「まだ来てないけど一緒じゃなかったの?」
「ん~・・・どこ行っちゃったんだろ?・・・」




