11話:再起動です!
朝になりました。わたしは未だゲームの世界にいます。
ゲームを終了することが出来ないと分かってからわたしは放心状態になりました。もう二度とお父さんとお母さんに会うことができません。現実世界ではわたしはきっと死んでいるのでしょう。
死んでしまったことが悲しいのではありません。わたしが死ぬことで悲しんでしまう両親に申し訳ないのです。何も親孝行をすることができなかった親不孝者です。
「ううぅ・・・お父さん!お母さん!ごべんなざいぃっ!!わああああん!」
昨日はあれからパオラさんが借りている宿に連れてこられました。パオラさんはわたしにベットを貸してくれて、隣の部屋のムッカさんと一緒に休んでいます。迷惑をかけてしまいましたね・・・。後で謝らないといけません。
「これからどうしましょうか・・・」
依頼をこなしてわたしを援助してくれた人たちにお礼をして・・・ヨミガエリ草が高く売れるそうですしそれでお礼をすればいいですかね?それじゃ、わたしがやるべきことは何もないですね・・・。
「・・・ちゃん、すずめちゃん、すずめちゃん!」
「わひゃい!」
突然耳元で名前を呼ばれました。振り向くと笑顔のパオラさんがいました。
「何度もノックしたんだけど、返事がないから心配になって勝手に入ったわよ」
「え?そうなんですね、すみません!パオラさんの部屋ですからもちろん結構です!」
パオラさんは窓辺に移動すると外に向かって窓を押し開けます。爽やかな朝の風が室内に入り込んできました。
「今日もいい天気ね。こんな日に部屋に籠ってちゃもったいないぞ」
「そう・・・ですね」
ベットに上半身を起こしたままうつむくわたしを見かねたのか、パオラさんが隣に腰かけて抱き寄せてくれました。
「ねえ、すずめちゃん。わたしたちはすずめちゃんが何に悩んでいるのかわからないわ。それはきっとすずめちゃん自身の問題なのでしょう?わたしに解決できるとは思えないけど、話すことで楽になることもあるわ。何か悩みがあるなら話してね」
パオラさんの優しさに涙が溢れそうになります。
わたしは異世界の住人です。わたしだけが唯一この世界の人間ではないのです。パオラさんもムッカさんも、みなさんはゲームの中の人だと言っても理解できないでしょう。この世界で生きていくなら、変人と思われないようにするなら、このことは誰にも話すことはできません。
「ありがとうございますパオラさん。でも・・・大丈夫です!」
カラ元気も元気という言葉もあります。大きな声でお返事できたことで少し元気が湧いてきました!わたしがこの世界で、死後の世界かもしれないこの世界で、一人落ち込んでいたらお父さんもお母さんも悲しんでしまいます!とりあえず何かしましよう!ベットで寝たきりだった頃のわたしとは違うのです!
「よし!再起動です!朝ごはんを食べてギルドに行ってきますね!」
「え、ええ・・・。急に元気になったわね?まあ、安心したわ。ふふふ」
パオラさんの笑顔を見ると不思議と元気が出てきます。どことなくお母さんに似ているのかな?
髪を結い上げてお気に入りの蝶の形のバレッタで留めようとしたけど、一つ頷いて途中から髪型を変更しました。再び髪をストレートに戻すとポケットからヘアゴムを取り出して左右でまとめてツインテールにします。
「パオラさん、ちょっと後ろを向いてくれますか?」
「え?なんなの?」
そう言いながらも後ろを振り向いてくれたパオラさんの髪を手櫛で整え結い上げると、蝶のバレッタで留めました。
「これって、すずめちゃんの?」
「これはわたしが初めて作ったべっ甲のバレッタです。こんな物しかないですけど、お礼です!」
「そんな大切な物もらえないわ!それに、わたしみたいながさつな女には似合わないし」
「いいえ!とってもかわいいですよ!」
「でも・・・」
「わたしは、パオラさんに貰って欲しいんです」
パオラさんは少し顔を赤らめて小さな声で「ありがとう」と言ってくれました。
わたしはパオラさんに「いってきます!」と言うと宿を後にしました。手持ちのお金は初日にいただいた残りの銅貨8枚と、昨日の報酬の銅貨40枚と合わせて全部で銅貨48枚です。
「おはようございます!その果物ください!」
「おはよう。はいよ、銅貨2枚だ」
シャクッモグモグ
銅貨2枚を支払って果物を受け取ります。見た目がりんごみたいな赤い実ですが、味も食感も梨みたいですね。少し酸っぱくて甘みもすくないですが、品種改良というものをしていない果物はこんなものなのかもしれません。もう少し甘いものが食べたいなぁ。ちょっとお行儀の悪い食べ歩きをしながら朝の町を散策します。会う人会う人に出来るだけ元気に挨拶をしていると、みなさん明るく挨拶を返してくれます。ネットニュースで「コミュニティの崩壊」という記事を読んだことがあります。アパートなどが増えて地域交流がなくなって、隣に住んでいる人のことも分からなくなっているとか。でもこちらの世界ではあちこちで挨拶の声や笑い声が響き渡っています。
「なんか気持ちいいですね」
そうこうしていると冒険者ギルドに到着しました。昨日はギルドにいたみなさんに迷惑をかけてしまいました。みなさんからしたら意味不明なことを叫んで倒れてしまって、お医者様を呼んでもらって・・・どんな顔をして中にはいればいいのか分かりません。
「・・・きっと大丈夫よ。こちらの世界の人はみなさん元気で優しい人たちばかりだから」
おはようございます!
おう!すずめちゃんおはよう!
もう大丈夫かい!?
今日もがんばろうぜ!
すずめちゃん一緒にご飯たべない!?
今日もかわいいわね(希望)!
きっとこんな感じ・・・だと、思います!
ゴクリ・・・
わたしはそろ~っとギルドの扉を開きます。
「おはようござ・・・」
「「「「はぁっ!・・・どんな顔して会ったらいいんだよ!?」」」」
「みんな考え過ぎよ!いつもと同じようにしてようよ!」
「そうは言ってもなぁ・・・チュンチュンがあんなになっちまって・・・心配だろうが!?」
「あの元気なチュンチュンがなぁ・・・魂が抜けたみたいになってたし・・・」
えっ!?チュンチュンってわたしのことですかっ!?そう言えば昨日もディエゴさんがわたしのこと「チュンチ・・・」って言いかけてましたね。みなさんでつけたわたしのあだ名なんでしょうか!?恥ずかしいぃ!!
「はいはい!みなさん意識しすぎですよ!幸いお医者様は病気ではないとおっしゃってたし、いつもどおり明るく接してあげてください!」
マルティナさんありがとうございます!こんな雰囲気の所に入っていく勇気はありませんでした!
よぉし!いつも通り元気に明るくです!
バンッ!
気合をいれて勢いよく扉を開けました!
「み、みなさん!おはようござ・・・あっ!へぶしっ!」
最初の一歩目で段差に躓いてこけてしまいました。まだ歩くことに慣れていないので咄嗟に足が動きません。顔面から床にスライディングしてしまい鼻をぶつけました。・・・痛いです・・・。飛び込んだ姿勢のままなんとか顔を上げてみなさんに挨拶をします。
「あの・・・おはようございまふ。えへへ、こけちゃいました」
ブッと鼻血が噴き出します。
「「「「「チュンチュン!?」」」」」
「大変!鼻血が!」
「おい!綺麗な布持ってこい!」
「鼻の頭も擦りむいちゃってるわ!跡がのこったらかわいそうよ!誰かポーション持ってない!?」
みなさんが慌てて入り口にいるわたしの元に集まってきました。こけてスカートがまくれ上がり、リ〇ックマ柄のパンツが丸見えでしたが、女性冒険者の方がすばやく隠してくれました。
やっぱりみなさん優しい人たちばかりですね。
今日もみなさんのお役に立てるように頑張ります!




