5.吹奏楽部のサポート 第1話
さて、これからお話しする内容は割と長くなることを先にお伝えする。何しろ、わたしが主人公だからである。ちょっとぐらい長くても、目をつぶってほしい。
まず、前提となるお姉ちゃんと渚さんとの出会いの話になる。
お姉ちゃんが中学に入学したての頃、吹奏楽部の様子はどうなのかと、陸上部の活動後にこっそり覗いてみたそうだ。その時にいたのが渚さんで、それがきっかけで仲良くなったそうだ。
知り合っただけでなく、まだ挑戦したことのない楽器であるオーボエがあって、その難しさに殊の外感動したらしく、お年玉などで貯めたお金全額をお母さんに渡して買ってもらっていた。当然、貯金で賄える金額ではなく、足りない分はお母さんからやる気のあるお姉ちゃんへのプレゼントのつもりで出したのであろう。
ここまでが前提の話で、要は渚さんが吹奏楽部に入っていたってことと、お姉ちゃんがオーボエができるということだ。
お姉ちゃんが中学三年の時、ちょうど五月に入ったばかりの頃の話である。
夜、リビングで寛いでいるとお姉ちゃんにこんなことを言われた。
「吹奏楽部で助っ人を探しているんだけど、手伝う気ない?」
話を聞いてみると、元々吹奏楽部の渚さんからの頼み事なのだそうだ。どうも六月下旬に演奏会があるらしく練習しているようなのだが、今年進学した三年生が受験勉強を優先するために抜けたらしく、その代わりを探しているらしい。
「まだ五月なんだから、一年生に代わりをさせればいいじゃない」
そう言ってやるが、どうもそう簡単な話じゃないらしい。
抜けた三年生は二人で、その二人が扱っていた楽器がオーボエとホルンというどちらも扱いの難しい楽器で、すぐに吹けるようになる代物ではないのである。
部にはオーボエが二本しかなく、今年は三年生と一年生で扱う予定だったのだが、その三年生が抜けた為に、代わりに急遽フルートを担当していた二年生が扱うことになったそうだ。つまり、どちらも素人なのだ。
「オーボエは応援が必要だね」
「そのオーボエはわたしが埋めるけど、ホルンはあなたが埋めてほしいの」
ホルンパートは四つありそれぞれ一人で担当するのだが、たまたま三年生が二人いたところで抜けられたので、三年生が一人、二年生が一人、一年生が一人の三人に減ったところに、別の楽器を担当していた一年生で残りの枠を補って、四つあるパートにちょうど良く割り当てることができたのである。
一見何も問題ないように思えるのだが、ある問題が発生していたのである。
「その移動してきた一年生が余りやる気がないのよ」
話を聞くと、移動してきた一年生は元々サックスを扱っていたのだが、余り理解も関心もないホルンを任されたことに、やる気が削がれているそうだ。
「ホルンはサックスに比べて知名度ないもんね」
ここまでホルンホルンと連呼していたが、読者の皆様もホルンがどんな楽器なのか理解してない人もいるでしょう。あのカタツムリみたいな金管楽器で、ベルの中に右手を入れて演奏する不思議な楽器がそうである。
「二年に上がったら、サックスに戻ることを条件に嫌々やっているみたいよ」
「面倒くさい人だね」
面倒な人がいるだけで、どうしてパートがしっかりと埋まっているホルンにわたしが必要なのか訊いてみると、一年生二人に当てはまることらしいが、音が出ないだけでなく、渋々やっているせいか全体的にまとまりがないそうだ。
その中にわたしが入り、うまく一つにまとめてサポートしてほしいそうだ。
「お姉ちゃんよりやること重要じゃない」
「協調性なら、わたしよりあなたでしょ」
あっ、そこは自分に協調性がないことを理解しているんだね。
「手伝うって、パートの役割を説明させればいいってことじゃないんだよね」
「中に入って一緒に合奏してほしいの」
家にはお母さんが趣味で集めた楽器が幾つかある。その中にホルンもあって、小学三年生の時から吹き始めた。当然、飽きっぽいわたしはホルンだけでなく他の楽器にも手を出しては、またホルンに戻るというような中途半端にホルンを扱っていた。
「わたしのホルンの実力、知っているでしょ」
呆れて言うわたしに向かって、
「知っているから言っているのよ」
なんて優しい笑みを浮かべて言ってきた。
「あなたが高音も低音も安定して出ているのは知っているし、裏打ちもグリッサンドも上手なのも知っているわ」
裏打ちもグリッサンドもどちらもホルン演奏に多い演奏方法だ。
何だか、あのお姉ちゃんに認められているようで、ちょっと気分が良い。
「しょうがないなあ」
と、とりあえず手伝うことを決めた。わたしもお姉ちゃんに煽てられると弱いものである。
ホルンは「世界一難しい金管楽器」としてギネスに2007年に登録された楽器です。
また、オーボエは「世界一難しい木管楽器」として同じくギネスに登録されている楽器です。
個人的にはオーボエが好き。