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わたしと憧れのお姉ちゃん  作者: 小林弘二
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4.顔がそっくりということ

 さて、ここからわたしも中学に上がった話になる。その時のお姉ちゃんは中学三年だ。


 ここにきて冒頭で話題に出た『わたしとお姉ちゃんの間にある問題点』の話になる。わたしたち二人の間にある最大の問題点は、何と『顔がそっくり』ということなのだ。


 これは小学生の時は体格の差からそれほど気にはならなかったが、年齢が上がってきて、わたしが中学一年になった頃から、よくお姉ちゃんと間違えられるようになった。お姉ちゃん大好きなわたしは、髪型も同じにしているものだからなおさらである。


 中学三年になって、陸上部に精を出しているお姉ちゃんは日曜日でも大会へ出向くことが多くなった。そんなお姉ちゃんに代わって、わたしは渚さんや樺菜さんと一緒に遊びに出かけることがある。


 お姉ちゃんの代わりに三人で楽しんでいると、街なかでお姉ちゃんたちの友達に声をかけられることがある。


「渚じゃない」


 声をかけられた相手を振り返ってみると、わたしには当然知らない女性だ。渚さんと樺菜さんのクラスメイトらしく、こちらににこやかに手を振っている。


「美樹じゃない。奇遇だね」

「いつもの三人で遊んでたんだ」


 そんな挨拶から始まり、三人で他愛のない会話を繰り広げているのをわたしは黙って様子をうかがっていた。どうも、わたしをお姉ちゃんと思いこんでいるらしく、たまにわたしに話を振っている。それに対して適当に相槌を打つ。


 それでもお姉ちゃんだったら、どんな会話をするのかなと思いながら、わたしも話に加わることにした。


「美樹は何か買物?」


 わたしの質問に、彼女はわたしをお姉ちゃんと完全に信じ込んでいるらしく、今までと変わりない抑揚で答えた。


「いつものウィンドウショッピング。百合も渚たちに付き合ってたら、お金が尽きちゃうんじゃない」

「それは言えるかも。気をつけないとね」


 そう笑みを見せながら答えた。そんな至って普通の会話をしているわたしたちを見て、渚さんと樺菜さんは驚いた様子で顔を見合わせていた。


「じゃあ、わたし行くね。またね」


 そう言って離れていく美樹に、わたしたちは手を振った。


 美樹が人混みに消えた後、わたしたちはお互いに顔を見合わせると、誰からともなく笑い始めた。余りにも違和感のない自然な会話でおかしかったのだ。


「同級生を妹と間違えてるのに気付かないなんて、おっかしい」

「百合の替え玉ができるな」


 そう言って、二人はいつまでも笑っていた。


 これをきっかけに、ついついお姉ちゃんのフリをして、お姉ちゃんの友達と会話をすることがある。これがエスカレートしてちょっとした事件を起こしてしまったのだ。


 ある平日の夕方、リビングのソファーで寛いでいると玄関からバタバタと音を立ててお姉ちゃんが飛び込んできた。


「ちょっと、小百合!」

「うん?」


 ソファーで寝転びながらお姉ちゃんに顔を向けて返事をすると、お姉ちゃんは制服の姿のまま眉尻を吊り上げて怒っている。


「あなた、またわたしのフリしてたでしょ」

「それがどうかした?」

「それがどうかした? じゃないわよ。カラオケまで行ったそうじゃない」

「あぁ、行ったね。楽しかったよ」


 昨日の話である。

 渚さんと樺菜さんとわたしの三人で街なかを練り歩いていたら、いつものように渚さんたちの友達グループと出くわしたのだ。相変わらずわたしが妹であることに気付かずに話が進み、そのグループと意気投合して一緒にカラオケに行くことになったのだ。


「わたしのフリして変な歌うのだけはやめて」


 話を聞いてみると、学校でそのグループの一人と会話をした際、「昨日は最高だった。百合があんな歌を歌うとは思わなかった」と、そう話したそうだ。


 何を歌ったか訊いてみると、「自分で歌ったのに忘れたの?」と笑いながらも答えてくれた。そう、わたしが歌った曲はシャ乱Qの「ラーメン大好き小池さん」である。


「どんな曲だか知らなかったから渚に訊いたら、ハメ外した歌い方したそうじゃない」


 このラーメン大好き小池さんという歌は、おばけのQ太郎に出てくるパーマ頭で眼鏡をかけ、いつもラーメンを食べている小池さんというキャラクターを歌った歌で、抑揚なく歌うおしゃれな歌である。しかし、ついいつもの癖で「小池さん」というフレーズを大音声で叫ぶアレンジをしてしまい、周りから大爆笑されてしまったのだ。渚さんは手を叩いて笑い、樺菜さんは腹を抱えて笑った。一緒に加わったメンバーもお姉ちゃんと信じていただけに、その豹変ぶりに驚いていたが、それも一瞬で笑いに変わった。


「また歌ってって言われちゃったのよ、勘弁してよ」


 そう言って困った顔をしている。


 ちょっとお姉ちゃんがかわいそうになったが、あれは妹の小百合だって説明すればいいことだよね。


「ラーメン大好き小池さんを覚えたら、わたしにも聴かせてね」


 悪びれもせずそう言うと、お姉ちゃんは「絶対に聴かせない」と眉尻を吊り上げて言うのであった。


 わたしもちょっと申し訳ないことをしたなと反省して、これからはお姉ちゃんのフリをするにしても完璧にやろうと決めた。


カラオケについてはわたしの体験したネタでもあるのですが、「ラーメン大好き小池さん」の大音声アレンジはビビる。

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