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わたしと憧れのお姉ちゃん  作者: 小林弘二
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3.二人の友達

 さて、お姉ちゃんとわたしの出来の違いを痛いほど理解できたところで、時間を小学生から中学生へ進めようと思う。


 お姉ちゃんが中学へ上がって、仲の良い友達ができた。後にわたしも仲良くしてもらっている渚さんと樺菜さんだ。


 渚さんは髪の長くとても綺麗な方で、カラオケに食べ歩き、ファンシーショップ巡りが好きな、わたしと気が合う素敵な女性である。一方、樺菜さんはショートヘアでとても整った顔をしていて、渚さんとは対照的に無駄のない考え方をする理知的な女性だ。わたしが後にお姉さまと呼び敬愛する女性である。


 そんな友達ができてしばらくして、日曜日にその二人と遊びに行ったと思ったら、夕方、大きな真鯉のぬいぐるみを腕に抱えて帰ってきた。そのぬいぐるみはどうしたのか訊いてみると、


「UFOキャッチャーで取れたの」


 そう嬉しそうに答えた。

 お姉ちゃんがゲームセンターへ行くなんて、明日は槍の雨が降るのかもしれないと思ったけど、それもすぐにお姉ちゃんにとっていい傾向だと、考えを改めた。


 どうも、特別景品となるものがあって、特定のぬいぐるみを取ると、幾つかある特別景品から好きなものと交換できるシステムらしい。その景品の中にスーパーファミコンがあることを知って、「何でそれを選ばないのよ」と文句を言おうとしたけど、真鯉のぬいぐるみを抱えて喜んでいるお姉ちゃんを見ていたら、それも言えなくなった。


 お姉ちゃんにとって仲の良い友達と行ったゲームセンターで、初めて取った記念すべき景品なのだ。


 ただ、それ以降手に入れた景品のぬいぐるみは、わたしに押し付けるようにくれるのである。おかげで、わたしの部屋にはお姉ちゃんからの貢ぎ物であふれている。それならお姉ちゃんコレクションの欠けたパーツである真鯉のぬいぐるみもくれればいいのに、と思うのだが、お姉ちゃんの部屋で我が物顔で鎮座しているそのぬいぐるみを見ると、やっぱりお姉ちゃんには鯉が必要だなと思うのである。


 ほら、登竜門って言葉があるでしょ。難しい関門の例えで、鯉が激流を登り切ると竜になるという、あれだ。きっと、あの棚の上に鎮座している鯉は、お姉ちゃんの夢を叶え、いずれ竜に化けるのだろうと思う。そう遠くない未来に、きっと。


 お姉ちゃんが中学に入り、あの渚さんと樺菜さんと親睦を深めるにつれて、いろんな「初めて」を経験するようになった。


 例の真鯉のぬいぐるみを手に入れたゲームセンターもその一つだし、樺菜さんのファッションセンスを鍛えるウィンドウショッピングもその一つだ。なぜウィンドウショッピングが初めてなのかというと、お姉ちゃんにとってショッピングとは、目的を持って買いに行く行為なのであって、何も買わないショッピングということは初めてだったらしい。


 後から渚さんから聞いたけど、その時のお姉ちゃんは、「何も買わないのに試着までして、迷惑じゃないかしら」とおどおどしていたらしい。


 自分も気になる服があれば幾つか試着したようで、おかげで服のセンスが良くなったと言っていた。


 ある時、興奮したようにこんな事を言ってきた。


「ねぇ、クレープって食べたことある?」


 どうも、食べ歩きも体験したらしく、雑誌に載っていたおいしいクレープが売りの店へ行ったようだ。


「クレープなんて、縁日の出店で良く出てるよ」


 何度も食べたことのあるわたしは、呆れたように言ってやると、


「あんな美味しいものを今まで食べなかったなんて、今までの人生損していた気分だわ」


 そう残念そうな顔をして言った。そんなお姉ちゃんに、わたしは呆れてしまった。


 お姉ちゃんほど未来に向けて無駄なく人生を送っている人はいないと思うよ。


 それは心の中でつぶやくだけにして、お姉ちゃんに美味しい情報を吹き込むことにした。


「今度、渚さんにティラミスが美味しいお店に連れて行ってもらったら?」

「ティラミス?」

「去年あたりに流行りだしたスィーツで、クレープなんかより美味しいよ」


 その言葉を聞いて、お姉ちゃんは片手で口元を押さえて目を丸くした。


「あのクレープより……」


 信じられない、といった面持ちなところを見ると、今日食べたクレープはよほど美味しかったのだろう。


 あの二人からいろんな経験をさせて貰っているようで、わたしも安心した。だって、今までのお姉ちゃんは学ぶことばかりで友達とつるむこともせず、余りにも箱入り娘だったので、妹ながら今後が心配だったのだ。

 今度、お姉ちゃんにクレーム・ブリュレのお店を紹介してあげよう。


ティラミス、美味しいですよね。1990年にヒットしたスィーツで、初めて食べたときには衝撃を受けました。歳バレる? 歳なんて関係なく衝撃受けるでしょ。

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