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わたしと憧れのお姉ちゃん  作者: 小林弘二
11/22

11.団体とソロ

 さて、話はお姉ちゃんが高校生になるまで進むのだが、その前にお姉ちゃんの人生を左右する出来事があったので話しておこうと思う。

 話はわたしも活躍したあの演奏会まで戻ることになる。


 あの演奏会でお姉ちゃんはきっと音楽への関心が増したと思う。お父さんの勧めもあり中学はずっと陸上をやっていたけど、あの演奏会の練習中、吹奏楽部と陸上部をバランスよく活動しているお姉ちゃんを見ていたが、明らかに陸上部の活動はどこか上の空だった。


 上の空でも結果を残せちゃうのはお姉ちゃんで、あの演奏会の翌月に行われた全国大会で一〇〇メートル一二秒を切る大記録を出した。この記録を出したのを間近で見て、スポーツに関してお姉ちゃんに追いつくのは無理だと感じた。


 この記録を出したことで、お姉ちゃんは本当にどちらへ行くのかなと思ったら、この記録を出したその日に結果を出した。


 お姉ちゃんは記録を出したその夜に両親に「スポーツじゃなく、音楽の道へ行きたい」と伝えた。これに対して二〇〇メートルの元日本記録保持者であり、お姉ちゃんに期待していたお父さんは反対をした。そりゃそうだよね。全国大会であの記録を出したんだよ。このまま続けてたらきっとオリンピックに行けるんだよ。お父さんが反対するのも無理ないよ。


 結局お父さんはお姉ちゃんの希望に納得せず決裂した。オーケストラ奏者であるお母さんはお姉ちゃんを応援し、お姉ちゃんはお父さんと決裂したまま音楽の道を進むことにした。


 お姉ちゃんの音楽活動は高校一年から始まるのである。


 音楽にほどほど強いと言われる女子校に入り、お姉ちゃんは当然、そこの吹奏楽部に値する管弦楽部へ入った。


 余談だが、吹奏楽部と管弦楽部の違いは、文字通りの吹奏楽部に弦楽器が追加された部で、つまり横文字で書けばオーケストラ部である。吹奏楽部は基本弦楽器は使わないのだが、例外としてハープの他、コントラバスというヴァイオリンのお化けのような弦楽器を使うことができる。コントラバスのことを団体によっては、弦バスやベースなんて言うところもある。


 そんな弦楽器部に入って、お姉ちゃんが担当した楽器は当然中学から使い続けているオーボエである。そう、わたしと一緒に演奏会に参加した時に吹いていたあの木管楽器だ。


 オーボエはクラリネットに良く似た縦笛で、息の吹き込み口が非常に狭い分、非常に長いメロディを吹ける楽器ではある。だが、これは息を止めていると同じく、息が足りなくなるとはまた違った意味で苦しく大変な楽器なのだ。


 六月に入れば吹奏楽コンクールに向けて練習である。


 そして七月に入ってすぐ、メンバー選抜オーディションがある。顧問と一対一で向き合い演奏して、コンクールの出場メンバーを決めるのだ。お姉ちゃんは当然オーボエで参加。四人いるオーボエメンバーの中でメンバーに残るのは二人。まぁ、何の心配もなく、お姉ちゃんはメンバーに残った。三年の先輩と一年のお姉ちゃんのコンビである。


 ただ、この三年生が勝ち気な怖い先輩らしく、「今年で最後だから、ソロパートは譲らないから」と凄みを利かせてきた。


 コンクールで演奏する曲にオーボエのソロパートがあり、二人のどちらが吹くかという話がオーディションの直後に出たのだ。その時のセリフである。


 それに対してお姉ちゃんもお姉ちゃんで、「わたしも負けられない理由があるので譲れません」と強気に言ってのけた。


 お姉ちゃんからこの話を聞いた時、この『負けられない理由』は何かと聞いたが、詳しく教えてくれずはぐらかされてしまった。


 いざ、ソロパートのオーディションを実施したところ、見事ソロパートに選ばれたのがお姉ちゃんである。


 その先輩は勝ち気な性格ではあるが潔い性格で、「あなたのオーボエを初めて聴いた時から心地良いと感じていた。きっと、その時点でわたしは負けていたのね」と言い、先輩はお姉ちゃんのことを認めてそれ以降何も言わなくなった。


 それからは快進撃である。


 七月下旬の地区大会から始まり、都大会と金賞受賞かつ代表と選ばれ、支部大会まで進んだ。


 この大会のたびにわたしもチケットを買って応援に行ったけど、お姉ちゃんは陸上部にいた時と比べ、とても生き生きとして見えた。顔つきが違うのだ。陸上部では嫌々やっていたわけではないだろうが、どこか「陸上は天職ではない」という気持ちがあったのであろう。それはわたしにもそう見えた。ステージでオーボエを吹くお姉ちゃんを見ていると、音楽こそが天職だとそう思えた。


 ただ、このコンクールにはお母さんが見に来ることがあってもお父さんは来なかった。見に来てくれさえすれば、お父さんもお姉ちゃんが音楽こそが天職だと思ってくれるんだけど。


 この支部大会では金賞を取ったものの、次の全国大会への代表にはなれず金賞はダメ金に変わった。金賞と呼ばれた時に全員で喜び、代表になれなかったことに涙した。そんなみんなで一喜一憂するお姉ちゃんの姿を、わたしは初めて見た気がした。陸上では個人で評価されていたのに対し、今はみんなで喜びを分かち合い評価されている。


 お姉ちゃんは個人で評価されたいわけではなく、みんなが一致団結して全員で評価されたかったのだ。


 ただし、吹奏楽コンクールに参加したのはこの一年の時のみで、管弦楽部に顔を出してもコンクールのレギュラーになることは辞退した。あれだけ輝いていた団体での参加をやめたのである。


 その理由はお姉ちゃんの口から聞かされなかったが、きっと団体で参加した吹奏楽コンクールでは、お父さんを認めさせることができなかったからであろう。


 では、団体をやめてどうしたかというと、お姉ちゃんが得意としているヴァイオリンを極めるためにヴァイオリン教室へ通うことにしたのである。


 それが高校二年の時の話だ。


 プロのヴァイオリン奏者であるお母さんの指導もあり、お姉ちゃんのヴァイオリン技術は元々高い位置にあったのだが、より高みを目指すためには通うことにしたのだ。そして目指すところは日本音楽コンクールである。


「団体で見てもらえないのなら、一人の時に見てもらう」


 そう思っての行動なのだろう。


 学校帰りにヴァイオリン教室へ行き、それがない日は自宅で一人で練習し、お母さんがいれば指導を受けてもらうという、そんなヴァイオリン漬けの日々を送っている。


 これから話す内容はお姉ちゃんがそんな日々を送っていた時の話である。


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